|
2000/07/27
鍼灸保険情報センター
厚生省のサイトには次のような理由で鍼灸保険の同意書・診断書撤廃は「困難」としております。
「○ はり・きゅうに係る療養費の支給対象となる疾患の多くは、いわゆる外傷性の疾患ではなく、発生原因が不明確で、治療に長時間を要するものが多いこと、治療と疲労回復等との境界が明確でないこと等の理由で、医師の同意書又は診断書の添付を療養費支給の要件としているもの。
○ はり・きゅうに関しては、施術の手段・方式や成績判定基準が明確でないため客観的な治療効果の判定が困難であること、治療と疲労回復等との境界が明確でないこと等から、医師の同意書(診断書)なく療養費を支給する仕組みとすることは困難。」 |
厚生省は以上のような理由で同意書・診断書が撤廃できないといってます。
整理しますと、
1鍼灸の対象疾患は外傷性の疾患ではなく発生原因が不明確
2鍼灸治療は”治療と疲労回復等”との境界が明確でない
3鍼灸治療は施術の手段・方式が明確でない
4鍼灸治療は成績判定基準が明確でなく客観的な治療効果の判定が困難 |
です。
厚生省の論理は、1〜4までの理由で同意書・診断書の添付無しでの保険治療は認められない。
しかし、
A 同意書・診断書を添付すれば1〜4は解決するから保険治療を認める。
または、
B 同意書・診断書を添付しても1〜4は解決しない(または解決しないものがある)けれど保険治療を認める。
このどちらかの論理構成で同意書・診断書添付義務づけの正当性を主張しているのですね。
この考え方は少しおかしいと思いませんか。
以下検討してみます。
A「同意書・診断書を添付すれば1〜4は解決する」から保険治療を認める
という論理について検討してみましょう。
1の外傷性の疾患ではなく発生原因が不明確について
慢性疼痛は確かに発生原因が不明確、即ちその原因について不確定要素が多いということです。
しかし、医療機関では発生原因を常に明確になっているのでしょうか。「病名は決まったが、発生原因が不明確」で「とりあえず鎮痛剤を投与して様子を見る」ということもあると思います。
特に慢性疾患などは加齢や疲労によるものが多く、特定の病因を明確にするのは困難ではないかと思われます。
つまり、同意書・診断書を添付することによっては必ずしも発生原因を明確にするという問題は解決しないのです。
2「治療と疲労回復との境界が明確でない」
この文章は大変分かりにくいのですが、所謂「疾病のための施術」と「疲労回復のための施術」の境界が明確でないという意味でしょう。
厚生省は要するに「単なる疲労に対する鍼灸施術は健康保険の給付対象ではない」ということを言いたいのでしょう。
しかし、理論的に「単なる疲労に対する鍼灸施術」と「それ以外の鍼灸施術」を区別する分岐点はどのように定義するのでしょうか。
治療と疲労回復との境界が明確でなければ、明確にする基準を示すべきであって、厚生省はそれを示していません。
この論理は「黒い羽をしているからといって必ずしもカラスとは限らない」といっているだけで「カラスの見分け方」を示している訳ではないのです。
これでは鍼灸の同意書・診断書添付義務づけの理論としては全く意味をなしません。
人が慢性疼痛疾患におかされれば身体的な疲労感を伴うことが多く、治療による疼痛改善過程は疲労回復過程も同時に進行することは、臨床上一般的に見受けられることです。
つまり、現実的には疼痛のための施術と疲労回復のための施術を区別して行うことは不可能と言わざるを得ません。
従って、この厚生省の理由づけから言えば、同意書・診断書の添付は、厚生省の言う「『治療と疲労回復』の境界が明らかになったことにしている」だけで、「治療と疲労回復の境界」区別が解決されたわけではありません。
そもそも、慢性疼痛はいわゆる身体的疲労の蓄積によって起きてくるものも少なくなく、これは、現代医療でも同じような状況があると思います。
厚生省がどうしても「治療と疲労回復の区別」をつけたいならば、「疾病」と「疲労」についてそれぞれを具体的に定義し、診断上はどのように区別・診断するのかを論理的に明らかにしてから鍼灸師に要求すべきではないでしょうか。
3施術の手段・方式が明確でない
「施術の手段・方式が明確でない」というのは何を指しているのでしょうか。
くどいようですが、厚生省は同意書・診断書の添付義務づけの理由として「施術の手段・方式が明確でない」を挙げているのですね。
厚生省にとっては同意書・診断書が添付されると「施術の手段・方式が明確」になってくるのでしょうか。
この論理がどうしても理解できません。
もし厚生省が「同意書・診断書を添付するならば、施術の手段・方式など明確でなくても良い」と判断しているならば、同意書・診断書の添付義務づけの理由としてはおかしいな論理ではありませんか。
確かに、施術者の間での治療を厳密にみれば、採用している治療手段や治療方式の違いはある程度あると思います。
しかし、厚生省が給付対象としている「鍼、灸、電気針」のたったこれだけの範囲内では厚生省が同意書・診断書撤廃の条件として取り立てるほど施術者間の違いはありません。
例えてみれば、自動車は「モデルや排気量が違っていてもエンジンで車を回転させて走るという原理は皆同じ」という程度に鍼灸の施術は皆同じものであると思います。
4成績判定基準が明確でなく客観的な治療効果の判定が困難
この論理もおかしいです。同意書・診断書を添付すると「成績判定基準」や「客観的な治療効果の判定」が明らかになるのでしょうか。
もともと、鍼灸の保険対象6疾患については、整形外科領域の病名による治療アプローチですから、鍼灸の手段・方法が明確でなくても治療成績の判定の仕方は全て現代医学と同じものを採用できます。
従って、現在の「日本整形外科学会」で使用している「治療成績判定基準」を採用すれば良いのではないかと思われます。
B「同意書・診断書を添付しても1〜4は解決しない(または解決しないものがある)」けれど同意書・診断書添付条件ならば保険治療を認める」
という論理について検討してみましょう。
この論理は「医師による鍼灸マッサージの保険治療の必要性の判断」だけを問題にしているということです。
すなわち1〜4があっても「医師が鍼灸治療を必要」と思えば「必要」であるという理屈を述べているのです。
「医師が鍼灸治療を必要と判断する」という医師の判断については、業界でも何度も主張されておりますが「鍼灸の専門家でない医師が鍼灸治療が必要かどうかを見極める作業は大変難しい(またはやりにくい)」ものがあります。
厚生省が1〜4までを根拠として「同意書・診断書を添付しない限り鍼灸の保険治療を認めない」という立場をとるならば、逆にいえば、同意書・診断書の添付だけで1〜4の内容を不問に伏すということになります。
即ち、厚生省の示している同意書・診断書添付義務づけの1〜4の理由は、無理やり同意書・診断書を添付させるためのこじつけの理由でしかないことを示しております。
以上、厚生省の主張は内容的に同意書・診断書撤廃に対する「反対のための反対」意見という域を出ていないと思います。
厚生省がどうしても同意書・診断書を添付させたいと考えるならもう少しまともな理論で説明されたら如何かと思いますが国民の皆様のご意見、ご判断をお聞かせいただきたいと思います。
 |