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はじめに
現在、鍼灸マッサージ師によって在宅訪問治療が活発に展開されておりますが、在宅訪問治療の患者の移動(歩行)能力は、完全に寝たきりから、補助具の使用による歩行、補助具なしでのある程度歩行が可能等、種々の段階があると考えられます。また、「歩行困難」の原因たるものは、脳血管障害のみに限定されるものではなくこれまた様々な傷病が考えられます。
そこで、在宅訪問治療において訪問そのものに妥当性があるかどうかということは今後保険者の支給ガイドラインとの関係から大変重要な課題になってきます。
今回は歩行の医学理論を基に「在宅訪問治療の患者さんにおける『歩行困難』とは何か」というテーマで理論的に検討してみたいと考えます。
第一章 整形外科的視点による歩行障害の考察
はじめに、医学の領域で「歩行障害」(「歩行困難」とは概念が異なる)について、どのように定義しどのように分析しているのか検討してみたいと考えます。
整形外科的な考察では、以下のようにまとめらております。
第一節 歩行の定義
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「歩行とは、両下肢のリズムある動きにより身体を一点より他点に移動する動作をいう」
「両足で歩くことを、walk、介助具の使用も可とするのが、ambulationと区別するが、我が国では特に両者を区別していない」
−−−−「臨床観察からみた歩行分析」防衛大学校リハビリテーション部 石神重信
「リハビリテーションにおける評価」医歯薬出版株式会社 P55
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解説:なし
第二節 異常歩行が出現する原因
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表6 異常歩行の主な原因
1 構造上の異常 @下肢長差 A関節拘縮・強直 B関節支持性の低下
2 疼痛による異常 @関節痛→不十分な荷重
3 神経筋の異常 @運動麻痺(筋力低下) A感覚異常 B失調
4 義足歩行
−−−−「臨床観察からみた歩行分析」防衛大学校リハビリテーション部 石神重信
「リハビリテーションにおける評価」 医歯薬出版株式会社 P60
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解説:省略
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表1 歩容による異常歩行の分類
末梢運動器障害(骨関節疾患、末梢神経麻痺、筋疾患などによる)
○脚長差による歩行:
成人では3cm以上の脚長差により跛行が生する
○関節の拘縮・変形による歩行:
トレンデレンブルグ歩行(Trendelenburg gait)
尖足歩行(鶏歩行:steppage gait)など
○鎮痛歩行:
荷重による疼痛を避ける歩行(antalgic gait)
○麻痺性歩行(paralytic gait):
腓骨神経麻痺の下垂足(drop foot)歩行,
脊柱管狭窄による間欠性跛行(intermittent claudication)など
○筋力低下:
筋ジストロフィーの歩行(waddling gait)
臀筋歩行(gluteal gait)
○血行障害:
閉塞性動脈疾患による間欠性跛行
−−−−「歩行障害の診断と評価」 東北大学大学院障害科学専攻肢体不自由学分野 鈴木堅二
「リハビリテーションにおける評価」 医歯薬出版株式会社 P63
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解説:省略
第三節 異常歩行の診断
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*異常歩行の診断と評価
日常の診療においては、歩行の異常や障害は速度,不安定性や持久性の低下として観察や記録がなされ,疾患の診断やその障害の評価がなされる.歩行の異常は患者自身が訴える場合のほか,小児や老人では家族が歩容の異常に気づくこともある.しかし,歩容には正常歩行においても固有のパターンがあり,異常(病的)歩行を明確に定義し,判別することは困難な場合もある.
・歩行障害の診断と評価
歩行の異常の原因は運動器の障害(痛み、可動域制限、筋力)と中枢性の運動制御の障害に大別され、歩行の評価に先立って末梢運動器の機能評価と、中枢神経障害では神経学的評価を行い,歩行という課題遂行にかかわる運動機能をチェックする.
末梢運動器の障害による歩容は歩行時間が長くなるとともに歩行パターンが変化し,中枢神経障害による歩容は疾患固有の定型的な歩行パターンを示し,歩行能力は共に時間の影響を受ける.たとえば痛みを伴う関節症,脊椎疾患,閉塞性動脈疾患や心肺疾患では,ある程度の運動負荷により初めて歩行障害が出現し,障害の程度が判定される.
日常生活活動においては,介助や監視がなく40〜50m程度独歩できれば歩行の自立性ありと評価され,また屋外での活動には歩行能力としての持久性が必要となる.健常成人み屈外での歩行速度は男性では80m/min,女性では75m/min程度であり,36〜124m/minの範囲にある・社会生活に必要な歩行能力は地域の環境にも依存する.
歩容の評価では10m程度の直線歩行を行わせ,正常歩行からどのように,どれだけ逸脱しているかを観察する.歩容は健常者の場合でも年齢,性差,身長,体重や生活習慣の影響を受け,また歩行時の心理状態によっても変化する.さらに疾病が加わると,それに伴う歩行の形態的異常が異常(病的)な歩容であり,歩容の異常は速度を速めることで強調される.
一般に歩容の観察から歩行異常をもたらす機能障害を指摘することは可能であり,その原因となる疾患の診断の補肋にはなるが,障害の程度を定量的に評価することはできない.
−−−−「歩行障害の診断と評価」 東北大学大学院障害科学専攻肢体不自由学分野 鈴木堅二
「リハビリテーションにおける評価」 医歯薬出版株式会社 P62−63
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解説:
上記を整理しますと
歩行障害:
a末梢神経性の歩行障害
b中枢神経性の歩行障害
の二つの種類がある。
歩行能力:
a末梢性は時間とともにパターンが変化する
中枢性は疾患固有のパターンがある
b末梢性、中枢性ともに時間の制限を受ける
歩容の変化:
歩容は健常者の場合でも年齢,性差,身長,体重や生活習慣の影響を受け,また歩行時の心理状態によっても変化する
歩行能力:
「日常生活活動においては,介肋や監視がなく40〜50m程度独歩できれば歩行の自立性ありと評価され」
(この上記の基準は整形外科的な評価基準として銘記しておく必要があります)
第二章 「療養費の支給基準」でいう「歩行困難」とは何か
療養費の支給基準では
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「(1)往療料は、歩行困難等真に安静を必要とするやむを得ない理由により患家の求めに応じて患家に赴き施術を行った場合に支給すること.単に患者の希望のみにより又は定期的若しくは計画的に患家に赴いて施術を行った場合には、支給しないこと.」
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とされております。
「歩行困難等真に安静を必要とする」の意味の検討をしてみます。
a)「歩行困難」の後に「等」がついていますから、「安静」を必要としているものがいくつかあるうちの一つとして「歩行困難」があるという意味です。つまり「安静を必要とする」理由が「歩行困難」以外にもあるという意味ですから「歩行困難」以外にどのような「安静を必要とする」理由があるのかを考察する必要があります。
b)「安静」の医学的考察をしてみます。
「広辞苑」(岩波書店)では
「安静」=「病気療養中静かにしていること。」
「安静度」=「療養中の患者が安静を要する程度。特に結核では治療の重要な要素をなすため、八段階に分けて具体的詳細に指示される。」
と記されており、
「医学大辞典」(南山堂)では
「安静度表」=「安静は疾病治療の基本であり,種々な疾患および病状により,医師が安静の程度を指示する.肺結核においては特に安静が治療に重要な度合を占めるため,安静度が具体的詳細に指示される.安静の第1段階は病床安静,第2段階は1日20時間の病床あるいは横臥椅子における安静を要し,その他の時間内に食事,全身浴,診察のため病室外に出ることが許される.第3段階になれば,毎日一定量の運動が許される.以上の3段階はさらに細分され,安静度は1度から8度にわたり,1〜5度は入院に相当する.その他結核予防会による岡病型分類に関連した病型別安静度一覧表などがある.」
と記されております。
「広辞苑」「医学大辞典」での解釈を援用すれば「療養費の支給基準」(保険発150号)における「安静を必要とする」との意味は、必ずしも「絶対安静」(病床安静)や「寝たきり状態」を指すものではないことは明かです。
従って、「歩行困難」の他に「安静を必要とする」理由を持つ「傷病」や「傷病状態」を研究し「治療現場」から詳細な報告をして行く必要があると考えます。
この稿では、「歩行困難」についての検討ですから、上記の「療養費の支給基準」(保険発150号)を踏まえた上で、論を進めて行きたいと考えます。
整形外科領域における「歩行障害」と療養費の支給基準における「歩行困難」とは問題にする概念が少々異なり、且つ、「療養費の支給基準」では「歩行困難」の概念を細かく規定しておりませんが、上記、整形外科的な「歩行異常」の諸点が全て基礎になると考えられます。(もちろんマッサージの場合は関節拘縮、筋麻痺ですからこの症状が下肢の場合は施術対象は「歩行困難」であることは自明です。)
「療養費の支給基準」の歩行困難の概念を病名でいえば、脳血管障害系の筋麻痺、関節拘縮を含め、その他、変形性腰椎症、変形性股関節症、変形性膝関節症、廃用性筋萎縮等が考えられます。(資料参照)
鍼灸マッサージ師は「整形外科的な歩行異常」を基本に「身体の機能全体からみた要因」や「社会的な要因」も考慮すべきであると考えております。以下、そのケースを検討してみたいと考えます。
第一節 身体の機能等からみた要因
a)身体のある部分に、重度の痛みがあって、身体を動かすことが苦痛で歩行が困難な場合
b)視力、聴力、その他身体の機能の低下によって、一般道路を歩行することが危険または困難な場合
c)身体の動揺(自律神経系疾患やその他の内科的な疾患等による)が時々起こるような疾患があって一般道路を歩くことが危険または困難な場合
d)薬剤の作用(利尿剤等)または身体の内科的機能(失禁等)から、常時介護が必要か歩行が困難な場合
e)環境に対する理解能力の低下、痴呆等の症状により介助者の随伴にても歩行が困難な場合
第二節 社会的な環境等からみた要因
a)歩行能力が十分でない(歩行介助者が必要)上に介助者が常時確保できない場合(人的環境)
b)歩行能力が十分でない上に通院における交通条件に障害(段差、階段、悪路)がある場合(地理的環境)
以上は、現在的には十分な、理論的な検討と承認を保険者から得ておりませんが、添付資料の中で示すような歩行障害は、今後ますます遭遇する問題ですので、施術者諸氏のご検討をお願いいたします。
以上
資料1
「臨床観察からみた歩行分析」「リハビリテーションの評価」医歯薬出版社
防衛医科大学校リハビリテーション部 石神重信
・概念と重要性
・歩行とは,両下肢のリズムある動きにより身体を一点より他点に移動する動作をいう.
・両足で歩くことをwalk,介助具の使用も可とするのがambulationと区分するが,我が国では特に 両者を区別して用いていない.
・リハビリテーション(以下リハ)では歩行訓練が理学療法での中心となる.
・歩行自立や改善は,リハ医療でADL自立とともに最も大きな治療目標である.
・歩行介助具や下股装具の使用により,歩行は変化(改善)する.
・歩行分析は,治療の選択や効果判定に極めて有用な評価手段である.
・多関節にまたがる代償動作が多く関与することもあり,観察による歩行分析は難しく,客観性に 乏しいきらいがある.
・工学的歩行分析が発展してきてはいるが,臨床観察による歩行分析は簡易であり,治療にすぐ反 映できることから,その重要性と価値は失っていない.
.異常歩行は,腰痛など痛みの増強,消費エネルギーの増加,転倒などのリスクの増大をもたらす.
異常歩行の主な原因
1 構造上の異常 @下肢長差 A関節拘縮・強直 B関節支持性の低下
2 疼痛による異常 @関節痛→不十分な荷重
3 神経筋の異常 @運動麻痺(筋力低下) A感覚異常 B失調
以上
資料2
「歩行障害の診断と評価」「リハビリテーションの評価」医歯薬出版社
東北大学大学院障害科学専攻肢体不自由学分野 鈴木堅二
・概念=歩行能力の障害(disability)の評価の目的は,歩行の速度,安定性,持久力 を定量的に計測し臨床的な意味付けをすることにある.歩行能力の低下は,一つあるいは複数の歩 行機能の障害(impalrment)により構成され、評価の有用性は歩行機能の計測方法と解析の精度に依存する.
歩行のメカニズム
歩行機構を神経生理学的にとらえると,歩行運動の誘発部は間脳から橋にかけて4部位が同定されており,歩行運動の発動・制御にかかわる歩行領域は脳幹内で分散的に配置され,頚膨大部や腰膨大部の脊髄髄節には四肢のりズム運動を形成するcentral pattern generator(CPG)が存在し,脳幹から網様体脊髄路を経て伝達され,歩行運動が遂行されると考えられている.
目的をもった歩行運動には大脳,小脳,基底核,脳,脊髄を含めたほぼ全域がその発動と制御に関与しており,運動・感覚障害,筋トーヌス,姿勢の反射や制御などの障害が歩行機能に影響を与える.
歩行運動の出力は,運動器である筋・骨関節の関節可動域,筋力,固有感覚や疼痛により影響される.また歩行運動の出力に関与するエネルギー消費は心肺機能や代謝機構に関連し,歩行の効率や持久性に影響する要因となる.
一方,人間のニ足歩行を生体力学的要因からとらえると,立位を維持する抗重力機構,動的な姿勢制御と足の踏み出しの機構に分けることができる.二足歩行による移動では歩行運動において力学的に平衡を失ったり,元に戻ったり,規則的に反復して前進移動が行われている.身体を一つの剛体とすると,歩行は重心の上下,および左右への移動を伴う前進運動であり,歩行を機械的エネルギー(位置エネルギーと運動エネルギー)から評価することもできる.
異常歩行の診断と評価
日常の診療においては,歩行の異常や障害は速度,不安定性や持久性の低下として観察や記録がなされ,疾患の診断やその障害の評価がなされる.歩行の異常は患者自身が訴える場合のほか,小児や老人では家族が歩容の異常に気づくこともある.しかし,歩容には正常歩行においても固有のパターンがあり,異常(病的)歩行を明確に定義し,判別することは困難な場合もある.
歩行の異常の原因は運動器の障害(痛み,可動域制限,筋力)と中枢性の運動制御の障害に大別される.歩行の評価に先立って末梢運動器の機能評価を,中枢神経障害では神経学的評価を行い,歩行という課題遂行にかかわる運動機能をチェックする.
末梢運動器の障害による歩容は歩行時間が長くなるとともに歩行パターンが変化し,中枢神経障害による歩容は疾患固有の定型的な歩行パターンを示し,歩行能力は共に時間の影響を受ける。たとえば痛みを伴う関節症、脊椎疾患、閉塞性動脈疾患や心肺疾患では、ある程度の運動負荷により初めて歩行障害が出現し、障害の程度が判定される。
日常生活活動においては,介肋や監視がなく40〜50m程度独歩できれば歩行の自立性ありと評価され,また屋外での活動には歩行能力としての持久性が必要となる.健常成人の屋外での歩行速度は男性では80m/min,女性では75m/min程度であり,36〜124m/minの範囲にある.社会生活に必要な歩行能力は地域の環境にも依存する1).
歩容の観察
歩容の評価では10m程度の直線歩行を行わせ,正常歩行からどのように,どれだけ逸脱しているかを観察する(表1).歩容は健常者の場合でも年齢,性差,身長,体重や生活習慣の影響を受け,また歩行時の心理状態によっても変化する.さらに疾病が加わると,それに伴う歩行の形態的異常が異常(病的)な歩容であり,歩容の異常は速度を速めることで強調される.
一般に歩容の観察から歩行異常をもたらす機能障害を指摘することは可能であり,その原因となる疾患の診断の補助にはなるが,障害の程度を定量的に評価することはできない.
表1 歩容による異常歩行の分類
末梢運動器障害(骨関節疾患、末梢神経麻痺、筋疾患などによる)
○脚長差による歩行:
成人では3cm以上の脚長差により跛行が生する
○関節の拘縮・変形による歩行:
トレンデレンブルグ歩行(Trendelenburg gait)
尖足歩行(鶏歩行:steppage gait)など
○鎮痛歩行:
荷重による疼痛を避ける歩行(antalgic gait)
○麻痺性歩行(paralytic gait):
腓骨神経麻痺の下垂足(drop foot)歩行,
脊柱管狭窄による間欠性跛行(intermittent claudication)など
○筋力低下:
筋ジストロフィーの歩行(waddling gait)
殿筋歩行(gluteal gait)
○血行障害:
閉塞性動脈疾患による間欠性跛行
2.中枢神経疾患
○痙性歩行(spastic gait)
錐体路疾患にみられる歩行であり,
片麻痺歩行(hemiplegic gait),
はさみ足歩行(scissor gait) など
○運動失調性歩行(ataxic gait):
小脳性歩行(cerebellar ataxia),
感覚性運動失調歩行(sensory ataxia),
前頭葉性運動失調(frontal lobe ataxia)など
○バーキンソン病様歩行(parkinsonian gait):
体幹前屈位の小刻み歩行,
加速歩行(festinating gait)など
○その他の錐体外路系疾患の歩行:
アテトーシスや舞踏病による不随意運動や異常姿勢による歩行障害
以上
資料3「動作分析」
B.異常歩行
異常歩行(abnormal gait)とは種々な原因により,身体に障害を受けて正常範囲を逸脱した歩行をいう。
異常歩行の分析は正常範囲からどの点が異常なのか,その原因はなんなのか,その対策はどのようにするのがよいか,というような手順でみる必要がある。
1.一般症状の理解
異常歩行にはそれを起こす原因疾患があるので,まず次のような患者の全身症状に注意する必要がある。
@ 患者の症状の的確な把握
A 患者の耐久力,バランスおよび調整力の一般的評価
B MMTの結果の確認
C 歩行パターンにおける不安定性の発見
D 残された正常要素の発見
E 歩行訓練の準備状況
2.異常歩行の診かた
歩容の観察の仕方は,患者を直線状に数往復歩かせ,患者の前方向,側方向,後方向より,できるだけ同一高さより観察し異常所見を発見,記載することである。記載に当たっては装具や杖の有無も記載することが必要である。
観察のポイントは次のような点である。
a.一般的所見
@ 運動が対称的であるか
A 歩幅の長さ
B 運動の円滑性(よろめき,バランス,痙性などによる)
C 腕の振り
D 体幹の運動(傾き,左右への動き)
E 体の上下運動
b.局所所見
@ 頭部の位置
A 肩の位置
B 骨盤の前後傾斜
C 股関節の動きと安定性
D 膝関節の動きと安定性
E 足関節の動き
F 踵接地,立脚中期,足先離膝地時の足の状態
C.その他の所見
@ 疼痛の状態(どこに,どの歩行時期に起こるか)
A 疲労の状態
3.異常歩行の種類
異常歩行は狭義では膝行(limping)ともいわれる。
膝行はびっこ(差別語だがそのまま掲載)やつり合いのとれない歩行という意味であるが,異常歩行は前述のように正常範囲から逸脱した歩行をいうので,次のように分類する。
@ 身体構造上の原因によるもの
A 疹痛によるもの
B 神経および筋系の障害によるもの
a.身体構造上の原因による異常歩行
1)脚長差のある勝行
脚長差が3cm以内であれば代償によって跛行はめだたない。3cm以上では,短い脚の足をつま先立ち歩きや体幹の動揺を起こす硬性墜落性股行を示す。
2)下肢の関節に拘縮・強直のある跛行股関節に拘縮・強直のある場合はほとんど跛行を示さないことが多い。変化としては下肢を振り出すために腰椎が代償運動を行って腰椎の前湾を起こすことがある。
膝関節屈曲拘縮のある場合は30゜以内であれば速い歩行時に脚長差のある膝行と同様な跛行を示す。3ぴ以上の屈曲拘縮では常に脚長差で起こる波行を示す。
膝関節伸展拘縦の場合は遊脚相に下肢の分回しを示す。
足関節拘縞では尖足変形のある場合,腫接地時に前足部がさきにつくので不安定となる。さらに,踏み切り時に推進力が弱く,早く歩けない。下垂足の場合は遊脚相に膝を過度に上げて歩く(鶏歩−steppage gait)。踵足変形の場合は踏み切り時のけり出しが弱く,早く歩くことができない。
3)股関節の支持性障害の破行
弾性墜落磯行またはトレンデレンブルグ歩行は股関節脱臼や中殿筋麻輝による股関節外転支持力が弱くなると立脚相に骨盤を支えることができなくなり,反対側に骨盤が傾斜する波行を示す。
b.疼痛による異常歩行
嬢痛性歩行は下肢のどこに痛みがあっても患脚の体重負荷を避けようとして体幹を健脚に傾け,患脚立脚相の時間を短くする。
片側腰痛の場合はやや体幹を前屈し,健脚に傾ける。
股関節の痛みでは股関節を軽度屈曲,外転,外旋する。
膝関節の痛みではつま先歩きをし,健脚に体幹を傾ける。
c.神経,筋系障害の異常歩行
1)片麻痺による異常歩行
脳卒中片麻痺の運動障害として歩行障害が起こるが,歩行障害としては次のようなものがある。
a)尖足,内反尖足歩行
尖足は下腿三頭筋の蓮性により足関節底屈となるため,瞳接地時に足先がまずついてから,次に足底がつく歩行である。内反尖足はさらに種接地時に足先と足の外側がまずつき,次に足底がつく歩行である。いずれも歩行が不安定であり,けり出しの推進力が弱く,遊脚相に足先がつまずきやすい。
b)反張膝
立脚相において膝が過度に伸展位となる歩行である。原因としては膝伸展が弱く膝折れを防ぐ目的で逆に膝を過伸展位に保持することや足関節尖足位のあるときは骨盤を後方に引き,体幹を前屈させ,膝を伸展させることによって起こる。この状態で長く歩行させると膝の痛みの原因となる。
c)膝屈曲歩行
膝の屈曲拘縮があったり,膝屈筋庫性があるとき,膝を曲げたまま歩行するものである。
d)庫性歩行
下肢筋に塵性が強いとき,膝を棒状にして歩行するものである。
e)膝折れ
膝の伸展筋が弱いために立脚相において,体重を支持することができず,膝が屈曲する状態である。
f)はさみ足歩行
股関節内転筋群に塵性があると遊脚相において下肢を前内側に振り出し,両大腿部が交叉した状態で歩行する。交叉がひどいと歩行は困難となる。
g)外転歩行
股関節外転筋屋性,外転拘縮,下肢棒状のときに股関節を広げて歩行する状態で,歩行は安定している。
h)外旋歩行
股関節外旋筋屋性や外旋拘縮があるときに足先を外側に向けて歩行する状態である。
i)分回し歩行
尖足や下肢が棒状に伸展した状態のときに,麻痺側下肢を半円径の軌跡を描くように下肢を振り出す歩行である。
j)骨盤引き上げ歩行
尖足や下肢が棒状に伸展した状態のときに,麻痺側下肢を振り出すために骨盤を引き上げて歩行する。
k)間欠二歩歩行
二歩歩くたびに休みを入れてバランスをとり,さらに二歩歩くことを繰り返す歩行である。
2)失調,基底核障害による異常歩行
a)急ぎ足歩行,こきざみ歩行
パーキンソン病にみられる異常歩行で,歩幅が徐々にこきざみになり,足のおくりが早くなり,足は床から離れなくなる。したがって,体の前進に足がついていけず,ころびそうになる歩行である。このような状態のときに急に歩くのを止めようとしても止まらない。この異常歩行は前方突進歩行または加速歩行などともいわれる。
b)失調歩行
これには脊髄性とり母歯性の失調歩行がある。
脊髄性失調歩行は脊髄知覚伝導路の障害によって起こるもので,歩幅が不均一で,一方に片寄りながらよろめき,両脚は広く開き,足を過度に高く挙げて,パタンと足を地面におろす歩行をする。
小脳性失調歩行は小脳疾患にみられる歩行で,歩幅は非常に不規則で不安定な歩行である。上肢,下肢の動きがアンバランスで,前進はゆっくりとして,下肢を前方に投げ出すように床につける。脚は広げて左右不規則によろめきながら歩く。
3)筋弱化による異常歩行
a)大殿筋歩行
大殿筋麻陣や筋ジストロフィー症などにみられる股関節伸展筋の弱化による歩行で骨盤を前方に出し,体幹を後方にそらした状態の歩行である。
b)トレンデレンブルグ歩行またはあひる状歩行
中殿筋の麻痺や股関節脱臼によって股関節外転筋の支持性が弱くなったときの歩行で,立脚相において骨盤が反対側に傾き,体幹を同側に傾けて体を大きく動揺させながら歩く。
左右の股関節外転筋の支持性が弱くなると体を前傾させて左右に体を動揺させながら歩くのであひる状歩行という。
c)大腿四頭筋麻痺の歩行
大腿四頭筋麻痺があると膝折れや反張膝になるが,膝折れを防ぐために立脚相において膝を押さえて歩くことがある。
d)鶏 歩
前脛骨筋の麻痺により下垂足となるため,遊脚相において脚を高く挙げ,足をパタンと床におるして歩く。
「理学療法評価法」金原出版株式会社
「動作分析」 P219−P222
資料4 国際障害分類
(International Classification Of Impairments,Disabilities,and Handicaps)
Disabilities 能力低下の分類
Locomotor disabilities 移動の能力低下
*Ambulation disabilities(40-45) 歩行関連活動の能力低下
40 Walking disability 歩行能力低下
4l Traversing disability 段差の通過能力低下
42 Climbing staiir disabilty 階段の歩行能力低下
43 0ther climbing disability その他のよじのぼり能力低下
44 Running disability 走行能力低下
45 0ther ambulation disability その他の歩行関連活動の能力低下
*Confining disabilities(46-47) 引きこもり状態にあるときの能力低下
46 Transfer disability 移乗の能力低下
47 Transport disability 交通機関利用の能力低下
*0ther locomotor disabilities(48-49)その他の移動の能力低下
48 Lifting disability 持ち上げの能力低下
49 0ther locomotor disability その他の移動の能力低下
Handicaps 社会的不利の分類
□移動性に関する社会的不利
定義:移動性とは個人の環境内を効果的に動きまわる能力である.
0完全な移動性
1流動的な制約を受けた移動性(冬は困難など)
2不十分な移動性(時間がかるなど)
3減少した移動性
4近隣に限られた移動性
5住居内に限られた移動性
6室内に限られた移動性
7椅子上に限られた移動性
8全面制御された移動性
9詳細不明
「リハビリテーションにおける評価」 医歯薬出版 編集/米本恭三 他 P13−P14
資料5 IADLのスケール抜粋
IADL(instrumental activities of dily living)
F.外出時の移動
1.ひとりで公共交通機関を利用する.または自動車を運転する 1
2.タクシーを利用し,他の公共交通機関を使用しない 1
3.介護人または道連れがいるときに公共交通機関を利用する 1
4.介護人つきでのタクシーまたは自動車の利用に限られる 0
「リハビリテーションにおける評価」 医歯薬出版 編集/米本恭三 他 P51−52
資料6 関節可動域測定、徒手筋力検査
ROM異常の要因
ROMに異常をきたす要因を示す。制限因子としては、皮膚や結合組織の萎縮/瘢痕,筋肉自体の短縮,関節包の萎縮や骨・軟骨の変形がある.関節の機能的欠陥としては,疼痛,痙宿の亢進がある. 治療に際しては可動域制限の主因を考慮し,効果的な治療・訓練を行う必要がある.
拡大因子には先天性の結合組織疾患や筋緊張の低下,近接関節の機能代償によるもの,慢性関節リウマチやChalcot関節などの関節破壊があり,結果として関節の不安定性(instability)を呈する.リハでは装具的治療の対象となる.
ROMに異常をきたす要因
制限要因 構造的要因 火傷/創傷などによる皮膚の瘢痕
皮下組織の萎縮,瘢痕,浮腫,腫脹
筋肉の固縮や変性による筋肉自体の短縮
関節包や靭帯の短縮
骨/軟骨の変形および変性
機能的要因 疼痛、痙性の亢進
拡大要因 先天的要因 結合組織の弾性異常を示す疾患
(Ehlers‐Danlos Sx.Marfan Sx.)
筋緊張の低下(floppy infant Sx.)
後天的要因 近接関節の機能代償
(尖足位での歩行による反張膝)
関節破壊性の疾患
(慢性関節リウマチやChalcot関節)
筋緊張の低下(脊髄ろう、小脳障害)
「リハビリテーションにおける評価」 医歯薬出版 編集/米本恭三 他 P78−79
資料7 腰痛症・腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症
日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準(29点満点)
1.自覚症状 (9点)
A.腰痛に関して
a.全く腰痛がない 3
b.時に軽い腰痛がある 2
c.常に腰痛があるかあるいは時にかなりの腰痛がある 1
d.常に激しい腰痛がある 0
B.下肢痛およびシビレに関して
a.全く下肢痛,シビレがない 3
b.時に軽い下肢痛,シビレがある 2
c.常に下肢痛・シビレがあるかあるいは時にかなりの下肢痛,シピレがある 1
d.常に激しい下肢痛,シビレがある 0
C.歩行能力について
a.全く正常に歩行が可能 3
b.500m以上歩行可能であるが疼痛,シビレ,脱力を生じる 2
c.500m以下の歩行で疼痛,シビレ,脱力を生じ,歩けない 1
d.l00m以下の歩行で疼痛,シビレ,脱力を生じ,歩けない 0
U.他覚所見
A.SLR(tight hamstringを含む)
a.正常,b.30゜〜70゜ c.30゜未満 2,1,O
B.知覚
a.正常 2
b.軽度(患者自身が認識しない程度)の知覚障害を有する l
c.明白な知覚障害(知覚のいずれかの完全脱出,患者自身も認識)を認める 0
C.筋力(被検筋を問わない)*他覚所見が両側に認められる時はより障害度の強い側で判定する
a.正常,b.筋力4程度,c.筋力3以下 2,1,0
V.日常生活動作 (14点:非常に困難0、やや困難1、容易2)
a.寝返り動作
b.立ち上り動作
c.洗顔動作
d.中腰姿勢または立位の持続
e.長時間の坐位(1時間位)
f.重量物の掌上または保持
g.歩行
W.膀胱機能 (−6点)
a.正常 0
b.軽度の排尿困難(頻尿,排尿遅延,残尿感) −3
c.高度の排尿困難(失禁,尿閉) −6
「リハビリテーションにおける評価」 医歯薬出版 編集/米本恭三 他 P310
資料8 変形性膝関節症
日本整形外科学会膝疾患治療成績判定基準(抜粋)
疼痛・歩行能
1Km以上歩行可,通常疼痛ないが,動作時たまに疼痛あってもよい 30
1Km以上歩行可,疼痛あっても 25
500m以上,lkm未満の歩行可,疼痛あっても 20
l00m以上,500m未満の歩行可,疼痛あっても 10
歩行不能 5
起立不能 0
疼痛・階段昇降能
昇降自由・疼痛なし 25
昇降自由・疼痛あり,手すりを使い・疼痛なし 20
手すりを使い・疼痛あり,一歩一歩・疼痛なし 15
一歩一歩・疼痛あり,手すりを使い一歩一歩・疼痛なし 10
手すりを使い一歩一歩・疼痛あり 5
できない 0
屈曲角度および強直・高度拘縮
正座可能な可動域 35
横座り・胡座可能な可動域 30
110゜以上屈曲可能 25
75゜以上屈曲可能 20
35゜以上屈曲可能 10
35゜未満の屈曲,または強直,高度拘縮 0
腫脹
水腫・腫脹なし 10
時に穿刺必要 5
頻回に穿刺必要 0
「リハビリテーションにおける評価」 医歯薬出版 編集/米本恭三 他 P332
資料9 排尿障害の評価
尿失禁の分類
切迫尿失禁
知覚性(強い尿意とともに排尿筋反射が起こるもので、膀胱炎や間質性膀胱炎、前立腺炎、尿道炎、膀胱結石、膀胱腫瘍)と、運動性(抑制経路の障害が生じる多発性脳梗塞や脳出血、脳腫瘍、腰外傷、
多発性硬化症、変形性脊椎症、後縦靭帯骨化症、HAMなと)がある。
腹圧性尿失禁
腹圧(咳,くしゃみ,笑いのとき)によって膀胱内圧が尿道圧を越えるときに失禁する.
経産婦の骨盤底筋群の脆弱性,尿道と膀胱後壁のつくる角度の減少が関与する.
溢流性尿失禁
膀胱に充満した尿が少しずつ溢れ出てくる状態で,排尿筋の収縮力低下や尿道抵抗の増加による排尿困難による.脳損傷や前立腺肥大,骨盤内手術子宮癌,直腸癌の手術後の低活動性腰朕でみられる.
反射性尿失禁
反射性膀胱収縮にともなって起こる失禁で尿意急迫感を伴わない.仙髄より上部の障
害(脊髄損傷や二分脊椎,脊髄炎など)でみられ,最大膀胱容量の減少と排尿筋−括約筋協
調不全があって,失禁の量は少ないことが多い.
神経因性膀胱の分類
現在,神経因性膀胱の分類には括約筋や知覚の要素も加え,次のように分けられる5).
@ detrusor(排尿筋)
:normal(正常),overactive(過活動),underactive(低活動)
A urethra(尿道)
:normal(正常),overactive(過活動),incompetent(無力)
B sensation(感覚)
:normal(正常),hypersensitive(過敏),hyposensitive(低下)
「リハビリテーションにおける評価」 医歯薬出版 編集/米本恭三 他 P22

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