25、サイレンススズカ『沈黙の日曜日』
(1997〜98 16戦9勝 宝塚記念、毎日王冠、金鯱賞、中山記念、小倉大賞典)

1990年台の日本競馬を完全に牛耳った大種牡馬サンデーサイレンス
そんなサンデーサイレンス産駒がクラシック無冠に終わった年が1年だけあった
1997年クラシック世代である
最も期待されたこの世代のSS産駒キングフラダンス(母ダンシングキー)の失敗
その他のSS産駒達もクラシックには足りない馬ばかり
SSの勢いもここまでか・・・
そう思われるには十分な没落だった・・・
結局、ダービーに出走できたのはサイレンススズカ、ビッグサンデーの2頭のみ
もちろん、この2頭は伏兵扱い程度で・・・
実際、ともに散々な結果になってしまった
だが、このとき何人の人が想像できただろうか・・・
この惨敗したサイレンススズカが翌年日本競馬の顔になるなんて・・・

1998年新春
サイレンススズカは一介の条件馬に過ぎなかった
神戸新聞杯、天皇賞ではなかなかの好勝負したが
まだ、重賞も勝っていない程度の馬だった・・・
ただ、昨年の最後に香港で武騎手と初コンビを組み
何か新たな可能性を感じさせていた・・・
そんなサイレンススズカもいよいよ古馬になり
真価を問われる年になった
デビュー前にはかなりの高評価を受けていたほどの馬
この程度で終わるはずなどないはず・・・
その期待は大きいものだった
それを示すように条件馬ながらいきなり復帰戦にOP戦をぶつけたのだ
格上げ挑戦でも通用する・・・
それは陣営だけでなくファンもわかっていたのか
サイレンススズカは1番人気に推された
まるで、ここから始まる伝説を祝福するかのように・・・

それはとても格上げ挑戦とは思えない圧勝だった
武騎手は何もしていなかったようだった・・・
それなのに、終始危なげなく逃げ切った
サイレンススズカは楽に走って2着に0,7秒もの差を付けたのだ
走破時計も秀逸のもの
武騎手もまだまだこんなものじゃないといった雰囲気
4歳時のサイレンススズカとは異なった、
真サイレンススズカ誕生の瞬間だった

ただ、まだ最強を名乗るなんてことはできなかった・・・
それは当然である
いくら圧勝とはいえ・・・
所詮、重賞でもなんでもないOP戦
もちろん、ライバルにGT級の馬などいる訳がなかったのだ
もっと、強い相手と闘わなければ・・・
サイレンススズカは次走に強者を求めて中山記念を選択した
ここには前走のOPとは桁の違う強者が集まった
皐月賞馬イシノサンデー、GU3勝馬ローゼンカバリー、宝塚記念2着馬サンデーブランチ
このように一気に強くなったライバルだが・・・
ファンはサイレンススズカを1番人気に推した
実績を上回るほどの何かをサイレンススズカに感じたのだろうか・・・
新たなるヒーローの誕生への期待も大きく関係したのだろう
そして、サイレンススズカはその期待を軽々ろ叶えてしまう
今回もスピードの違いでハナに立つと
後はもう一人舞台
最後、ローゼンカバリーが突っ込んできたがすでに時遅し
前走のような圧勝ではなかったまさに完勝という内容
初重賞制覇だ
この瞬間、まさにニュータイプのヒーローが誕生したのだ
さらに、サイレンススズカは返す刀で小倉大賞典をレコードで圧勝する
この年入って無敗の3連勝
その強さは明らかに現役屈指のものと認識されるには十分なものだった

1998年夏
3連勝で一気に競馬の顔になりつつあったサイレンススズカは
次走に金鯱賞を選んだ
春の大目標宝塚記念のトライアルとして選んだのだろう
この金鯱賞はGTのトライアル的なレースだったので
今までのライバルとは一味違う馬達がエントリーしてきた
菊花賞含め重賞3連勝中のマチカネフクキタル、マイルCS3着馬トーヨーレインボー
遅れてきた大器タイキエルドラド、香港Cをレコード勝ちしたミッドナイトベッド
明らかに、GTも狙えるような馬達がエントリーしてきたのだ
このメンバーでもサイレンススズカは1番人気に推されたが
今までのメンバーのように楽にはいかないはず・・・
しかし・・・
そんな不安は全て杞憂に終わってしまうのだった
サイレンススズカのベストレースにあげられるほどのハデな大圧勝を演じることになるのだから
いつものようにスピードの違いでハナに立つサイレンススズカ
もはや、誰も鈴を付けに行くような馬もいなかった
サイレンススズカのペースで走ったら
明らかにオーバーペースになるのはわかっていることなのだから
じりじりと後続との差を広げ始めるサイレンススズカ
その差は4コーナーに入りころには10馬身ほどにもなっていた
中京競馬場の直線は300Mちょいと短い・・・
そんな直線でこの圧倒的なリードを差しきれるのか
答えはノーである・・・
もはやこの時点でサイレンススズカの勝利は確定したのだ
しかし・・・
彼のパフォーマンスはこれで終わらなかった・・・
直線に入ったサイレンススズカはさらに後続を突き放しにかかる
ハナを切った馬が差し馬並みの末脚を使っているのだ・・・
これでは後続はいつまで走っても追いつくことなどできない・・・
物理的に不可能である
そして、そのまま大差という重賞ではほとんどお目にかかれない大圧勝を演じたのだ
同期の菊花賞馬を軽く30馬身程度突き放したのだ・・・
このレースを境にサイレンススズカの名前は日本中に広まった
一躍、日本競馬の最大のスーパースターにのし上がったのだ
このレース後の武騎手のインタビューで・・・
「今日のサイレンススズカには世界中のどんな馬でも勝てない」
というのはあながちリップサービスではないだろう
金鯱賞の伝説が覚めやらぬうちに
宝塚記念の人気投票がやってきた
ここで、サイレンススズカはGT勝ちないにもかかわらず・・・・
堂々ファン投票1位に推されたのだ
これで、堂々と胸を張って宝塚記念に参戦できる
サイレンススズカは当然のように宝塚記念にエントリーした
しかも、1番人気
まさに、サイレンススズカのためのレースという雰囲気だった
だが、何も不安がなかったわけではない
まずは・・・さらなるライバルの強化である
今回はGTだけあってまさに競馬史に名を残すほどの馬達がエントリーしてきたのだ
天皇賞を含め重賞4連勝のメジロブライト
天皇賞を制した女帝エアグルーヴ
有馬記念馬シルクジャスティス
牝馬GT3勝馬メジロドーベル
まさに現役最強を決めるにふさわしいメンバーとなったのだ
果たしてサイレンススズカの逃げは彼らにも通用するのか・・・
次の不安点は乗り替わりである
4連勝のパートナーの武騎手はエアグルーヴに取られてしまったのだ
その穴を埋める役目に南井騎手が選ばれたが
果たしてサイレンススズカと南井騎手は合うのか
この2つの不安点をもったまま、レースは始まるのだ
しかし・・・
発走直前いきなりアクシデントが発生する・・・
メジロブライトのゲート不良である
テンションが上がってしまったのかゲートに入らない
仕方なく、外枠発走からのスタートになってしまったのだ
これで一人のライバルが消えたも同然だった
レースはやはりハナを切るのはサイレンススズカ
スピードの違いでか後続を突き放す
また金鯱賞のような圧勝が見れるのか・・・
ファンの期待はそこに集約されていたのだろう・・・
だが、そのようにはならなかった
サイレンススズカの逃げは大きく突き放すものではなかった
淡々とした逃げだった
観客に不安がよぎる
もしかしたら、逃げても敵が強くて大きく突き放せないんじゃないのか・・・
直線でタレルのではないのか・・・
その不安が的中したかのように
4コーナーでサイレンススズカのリードはほとんどなくなっていた
後続馬が一気にサイレンススズカに襲いかかろうとしている
万事休すか・・・
しかし・・・その心配もやはり杞憂にすぎなかったとは・・・
直線に入るともう一度後続を突き放す
大逃げできなかったのではなくしなかったのだった
脚色を回復させたサイレンススズカはまだ先頭を走っている
しかし、貯め逃げは合わなかったのか・・・
いつものような楽な競馬にはならなかった
すごい勢いで外から2頭の馬が突っ込んできたのだ
ステイゴールドとエアグルーヴ
明らかに脚色はこの2頭のがよい
サイレンススズカ伝説に傷がつくのか・・・
だが・・・
ステイゴールドが1馬身まで迫ったところがゴールだった
楽勝とはいかなかったが・・・
サイレンススズカ初GT制覇
名も実もサイレンススズカが現役最強に輝いた瞬間だった

1998年秋・・・
宝塚記念を制し、現役最強に輝いたサイレンススズカは
秋の目標を天皇賞そしてJCに定めた
その後、アメリカ遠征のプランもねられていた
父サンデーサイレンスの故郷への遠征
その夢は決して不可能なものとは思えなかった
サイレンススズカの力を考えると・・・
だが、その前にサイレンススズカにはやらなければいけないことがあった
それは真の現役最強の座を得ること
同世代、上の世代の名馬たちは破った
だが、まだ下の世代の名馬との雌雄を決していないのだった
その下の世代の名馬とは・・・
グラスワンダーとエルコンドルパサー
ともに、無敗でGTを楽勝した名馬である
当時は外国産馬はクラシックには出れなかったのだが
故大川先生曰く、もしエルコンドルパサーがダービーに出れていたら
◎を打っていたと言うほどの馬なのである
グラスワンダーもエルコンドルパサーに勝るとも劣らない実力という評価だった
彼らを破らないうちは真の最強とは言えない
2頭とも外国産馬なので天皇賞に出走できないので
前哨戦の毎日王冠で雌雄を決さなければいけなかったのだ
サイレンススズカVSグラスワンダーVSエルコンドルパサー
まさに夢のカードがGTでなくGUで行われる事になった
この一戦はレース1週間前からファンを熱くした
競馬雑誌ギャロップではGUながら
紙面のカラーページの大部分をこの3頭の実力分析にさき
特集を組んでしまうくらいの気の入りようだった
また、この3頭の出走のため・・・
多くの馬が毎日王冠を回避してしまい
天皇賞、JCの前哨戦なのに8頭立てという小頭数で行われる事になってしまったのだ
そして、いよいよ運命の日がやってきた
この日の府中は異常なほどの熱気に包まれていたようだ
GUにかかわらず、動員数は13万人を超えた(GTでも6万人くらいなのに)
人気もまさに3強の構図を呈していた
1番人気サイレンススズカが1倍台
2番人気グラスワンダーが2倍台
3番人気エルコンドルパサーが3倍台
続く4番人気馬は30倍を超えるほどの大きな差となっていたのだ
おそらくここ数年でもっとも盛りあがったレースだったのではないだろうか
プロ予想家吉田さんが、このレースを見れるだけで幸せと言ったのも納得できる
そして、運命のレースはスタートした
やはりハナを切ったのはサイレンススズカ
逆にグラスワンダーは出遅れて隣の馬にぶつかるなど散々なスタート
サイレンススズカがいつものように気持ちよさそうに軽快に飛ばす
ペースはハイペースだったが、そんなことはサイレンススズカには関係なかった
しかし、後続を大きく突き放すことはなかった、いやできなかったのだろうか・・・
3コーナーを回りサイレンススズカは先頭だったが
ここからレースはめまぐるしく動いた
グラスワンダーが大外からまくってきたのだ
ものすごい脚でまくり・・・
あっという間にサイレンススズカと馬体を合わせてきた
あまりにも強引な競馬・・・
的場騎手はそこまでグラスワンダーの実力を信じていたのか・・・
このとき、サイレンススズカの武騎手はグラスワンダーに交わされて負けると思ったそうだ
また、的場騎手も交わせると思っていたようだ
一方・・・
3強のもう一角エルコンドルパサーはまだ動かず後続で待機
そして、勝負は直線に持ち越された
サイレンススズカとグラスワンダーが同時に直線に入る
一体、どっちが伸びてくるのか・・・
どちらの方が強いのか・・・
その答えはすぐに出た
グラスワンダーが全く伸びなくなったのである
逆に、サイレンススズカはさらに脚を伸ばし突き放す
化け物だ・・・
誰もがそう思っただろう・・・
後退していくグラスワンダーを尻目に
直線勝負にかけたエルコンドルパサーが大外から突っ込んでくる
しかし、全く届きそうにない・・・
当たり前である・・・
エルコンドルパサーとサイレンススズカの直線での末脚はほぼ同じくらいのものだったのだから
物理的に捕えるのは不可能だった
ハイペースで逃げて、直線では差し馬並みの末脚で上がる・・・
まさにサラブレッドの完成形を見たような感じだった・・・
そのまま、サイレンススズカはゴールに飛び込んだ
4歳無敗の2頭をも楽に退けた・・・
ちなみにこのレース後・・・
エルコンドルパサーはJCを、グラスワンダーは有馬記念を制することになる
ここに、サイレレンススズカは真の最強を勝ち取ったのだ

2003年新春
サイレンススズカの甥スズカドリームが京成杯を勝ち
その血の優秀さを証明した
もし、天皇賞であんなことがサイレンススズカに起きなければ・・・
その血はもっと世界にまで広まったかもしれない・・・
11/1 東京11レース天皇賞 1枠1番サイレンススズカ 1番人気
1コーナー通過順位1位、2コーナー通過順位1位、3コーナー通過順位1位
そして・・・
この日のサイレンススズカは11個の1を得ていた
12個目の1、つまり天皇賞1着の1だけが取れなかったのだ・・・
最後の1を取れなかったサイレンススズカが代わりに最後に得たものは・・・×
つまり競争中止である・・・
サイレンススズカは11個の1とともにその日のうちに天に召されたのだ・・・

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