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2005クリスマス番外 |
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もうセンター試験まで一ヶ月も残っていない。 すでに推薦で入学を決めている沢田と違って俺は一応2流とはいえ国立希望なのだ。 模試でもせいぜい良くてB判定しか取れてない俺としては気持ちは焦るばかり。 それなのに、沢田のなんと暢気なことか。 「朝から晩まで机に向かっていたって、そんなに集中力は続かないだろ?」 こういう沢田は決して親切でいってるわけではない。 「多少、身体を動かさないと運動不足になるし」 「腰ばっかり動かしていたって、運動なんかになるもんか」 とりあえず、沢田を牽制すると 「エッチだなぁ……だれもそんなこといってないだろう」 とにやにやしている。 余裕の沢田を見ていれば見ているほど色々な面でなんだかとっても悔しくて なんとか一泡吹かせてやれないかと思案する。 まぁ、僕の足りない頭じゃたいしたことは思いつかないんだけどさ。 だけど、ふと思い立っていきなり立上がると、ニヤける沢田の唇めがけて、掠めるようにキスをしてやった。 吃驚して口を押さえてるぞ。可愛いところもあるじゃないか。 「おい!生意気だぞ!」 後ろから、降ってくる沢田の声を無視して俺は外に飛び出した。 冬の空は嫌いじゃない。空は澄んで晴れ上がり金属音でも聞こえてきそうだ。肌を纏う風は俺の体温を 奪って行くけれど、焦れば焦るだけ糸が絡まっていくように、ぐちゃぐちゃした俺の気持ちにも少しだけ 新鮮な風が吹いてくるような気がする。 勉強のことも。 沢田とのことも。 そして将来の漠然とした不安も。 今、この蒼い空に引き込まれている 間だけはそれを忘れさせてくれそうで。 そのまま歩き続けていると、大きな洋館の前まで来ていた。 最近建てられたもののようで、まだ真新しい。 こんな家に住むのはどんな金持ちなのかと、つい広そうな庭の中に視線を移した。 そこには、洋館にそのうなじの白さがよく似合う青年が佇んでいた。さらによく見ると一心に庭の椿をスケッチブックに描き込んでいるところだった。 絵の好きな俺は、ついつい興味を引かれて声をかける。 「最近引っ越されてきたんですか?」 振り返った青年は、凛とした瞳を俺に向けてきた。 一瞬の間があり、その沈黙の僅かな時間に俺はすでに声を掛けたことを後悔していた。 まさか、タイミングよく沢田が現れないとも限らないからだ。 余計な誤解をされて今夜も受験勉強どころではない状況に置かれるのは、こんな時期には勘弁して欲しいから。 そんな俺の心の葛藤を知るよしもない色白の上品そうな青年は引込まれるような 魅力的な笑顔に変えて話しかけてきた。 「君も絵が好きなのかい?」 「はい、美大を受験しようかと思ってます」 つい、答えてしまう俺。 「M美?それともT美?」 「一応、M美と国立の美術科も」 「M美なら僕の後輩だね。こんな可愛い後輩が来てくれると僕も嬉しいけど」 自分が入りたいと思っていた第1志望校の先輩だったとは。 俺は思わず顔が緩む。なんてタイムリーなんだ!きっと受験についての具体的なアドバイスなんか受けられたりするかもしれない。 たとえそれが、無理な望みだとしても、同じものを志す者同志の気安さに加え、彼の 優しい笑顔と暖かい言葉に俺はつい警戒心を解いてしまう。 「よかったら、庭にはいっておいで。君のデッサンも見てみたいな」 ところが、その手入れの行き届いた美しい庭に入ろうとした俺は、残念ながらそうする事が叶わなかった。 なぜなら、俺の襟の後ろを首が締まって息ができなくなるほど後ろに引き寄せられたからだ。 そう、そこには想像したとおりの人物……つまり仁王立ちした沢田が、眉をぐっとよせて 立っていた。 「遊んでる暇はないだろう。お前はまだ、どこにも受かっていないだろうが」 「そんなに集中力は続かないだろう?それより気分転換も時には必要だよ」 大学の先輩になってくれるといいなと思う爽やかなその大学生は、沢田の迫力にめげずに 逆に不敵に微笑んだ。 「いえ、気分転換は俺が充分やらせてやってるんで」 何をいう? お前が俺にやってるのはエッチな事ばかりで、ちっとも気分転換になんかなってないぞ。 そう言ってやろうと思ったけど、沢田のこわーい形相をみて俺は思わず喉まで出てきた言葉を引っ込めた。 不敵に片頬での笑みをそのまま凍り付かせながら、沢田がぐいぐいと俺の腕を引っ張る。 「痛い!痛いって!」 「どうしてお前はそうやって、誰にでも懐くんだ?」 「懐いたんじゃないよ。合格者がこんな身近にいたんだぞ。経験談を聞きたいと思うのがどこが懐いてる事になんだよ」 思いっきり腕を振り解こうとするが、そんな俺の僅かな抵抗も逆にさらに強い力で 締め上げる。 「お前は、いくら言って聞かせてもわからないやつだな」 「どうせ、ばかだもん」 「確かに3歩も歩けば忘れる鳥頭だ」 開き直ってこっちが、馬鹿だって言ってるのにさらに、追い討ちをかけるのか?このやろう! 「お前なんか、大っ嫌いだ」 腹を立ててそう叫んだとたん、沢田の顔からいつもの余裕が消えて幼子が今にも泣き出さんばかりの表情に 一瞬みえたから、すごく驚いた。 「そうか、いいよ、もう」 え?らしくないぞ?お前 「沢田……ちょっとまてよ」 ゆっくりとした足取りで立ち去る沢田に俺は小走りで跡を追った。 「おい、待てってば」 完全無視……かなり怒ってる? 「ごめん、沢田ごめん……」 いきなり立ち止まるから、俺は思いっきり沢田の広い背中に、俺の高くもない鼻を思いっきりぶつけてしまった。 「うるせーよ。嫌いな男に触るな」 振り向いた顔はもういつもの沢田の顔だった。 「あん?触るなって何?……お前がいきなり止まったから、ぶつかったんじゃないか」 「喧嘩はやめようぜ。たしかにさっきの男の言う通り今日くらい受験生だって、息抜きしたっていいはずだ」 いったい沢田が何を言ってるのか一瞬わからなかった。 「クリスマスイブだろ?今夜」 驚いた……そうだった。 ずっと街の中は例年どうりにクリスマスソングを流し キラキラと目映いばかりの電飾を身に纏って 恋人達の日の演出をしていたのに、全く目に入ってこなかったし、意識すらしていなかった。 そんな余裕が今の俺にはなかったから。 「そうだった……かも」 「古城……お前、根を詰め過ぎだよ。そんなに自分を追い詰めても結果はついてこない。 もっと肩の力を抜けよ」 「お前は、もう決まってるから……そんな事がいえるんだっ」 沢田に当たって理不尽だって事はわかってる。ただの八つ当たりだってことも。 だけど……。 「俺は別に普通に入試を受けてもよかったんだ。だけど二人でぴりぴりしたくなかった。 少しでもお前の力になれればいいなと思ったんだよ」 吃驚した。沢田がこんな事いうなんて……。 なんだかあまりに意外過ぎて胸がきゅんとした。 ずっと俺に絡んでくるのも溜まってるからだと思っていたから。 俺達、もうすぐ卒業だけど、お前だけ何時の間にか大人っぽくなってしまっていたんだな。 「そんなに泣くなよ」 「……泣いてなんか……ない」 胸がきゅんとしたついでに目頭から、熱いモノが溢れそうになっている。 「そうか、そうか、泣いてなんかいないよな?お前はあんまり溜まり過ぎて、目からアレが溢れてきただけなんだもんな?…うっ…いてぇ!」 あんまりな物言いに俺は感激しかけた気持ちも忘れて思いっきり沢田の向こう脛を蹴飛ばした。
FIN |