思い出を忘れたくて3-5

早春の番外


 「こいづみ〜〜〜!!!てめ〜〜〜!」

 怒ってる、怒ってる、怒ってる!沢田が怒ってる!

 怖い、怖いなんてもんじゃねー。

 血管が浮き出てブチ切れそう!

 「なんのつもりだ!」

 「別に古城先輩と仲良くしていただけです」

 「外に出ろ!」

 「え〜いやだな。せっかく古城先輩と楽しいひとときを過ごしてるのに不粋な方だ」

 「言わせておけば……」

 沢田の顳かみにはしっかりとタコマークが!

 「いいから、来い!」

 怒りまくってる沢田とは逆に鯉積は余裕の笑みをかましている。俺はおろおろするばかり。

 俺がふたりについていこうとすると「ついてくんな」と沢田にどやされた。

 それっていくら喧嘩してても酷くない?いくら鯉積と付き合っていていたって あんまり露骨すぎるだろうよ。

 鯉積が何か俺に向って目配せしている。

 そうだよ、お前の方が若くて良い男だもんな。お前の勝ちだよ。

 なんだろ…心の中にぽっかりと大きなものを失ったようなこの気持ちは。

 「沢田!」

 思わず二人を呼び止める俺!

 「ついてくるなっていったろ!」

 相変わらず冷たい沢田!

 「いくな。俺をおいていくなよ!」

 あぁ?俺は何をいってるんだろう?

 「可愛い〜〜!」

 ……といっていきなり俺を抱きしめたのは誰あろう鯉積だ。 何を考えてるんだと思わず蹴飛ばしてやる。

 向こうに行ってろばかやろう!そんな俺を沢田がぐっと捕まえた。

 「エルボー喰らわすくらいに俺の事嫌いなんだろ? 仕方なく嫌々やっていたんだろ?もうかかわらないでやるっていってんじゃねーか」

 「さ、沢田だって……」

 「俺がなんだよ」

 「ちょっと抵抗しただけでさっさと鯉積に乗り換えたんじゃ無いか! 若くて素直で可愛い子がいいんだろうが?」

 「……?……素直で可愛いって誰の事だ?」

 「どうせ俺はじゃまものだよ!」

 そのまま後ずさりした俺は蹴飛ばした鯉積をついでに踏み付けて駆け出した。

 決してわざとじゃないけど新しい恋人候補にこんなことまでしてしまった俺を沢田は決して許してくれないだろう。

 もう、二度と俺の事を見てもくれないかもしれない。みても憎々しげに睨み付けるだけかも。

 とっくに関係が終わったのにしつこい男だと思われて……。やだやだやだ。未練がましい女みたいじゃねーかよ。

 最悪!

 「待てよ!古城!」

 沢田が俺の肩口をぐっと掴み上げる。

 いってーじゃねーかあほんだら!

 それだけで俺は身動きもできないんだぞ。

 なぜか沢田が嫌な笑いを浮かべている。沢田がこの笑いを浮かべたら碌な事がなかったはずなのになぜか今はホッとしてる?おれってやっぱバカ?

 「鯉積と浮気した覚悟はできてるんだろうな?」

 「う、浮気?浮気って誰が?」

 「お前だろ」

 「お、俺?なんで俺?何、いってんだよ!沢田が鯉積と付き合ってるんじゃねーのか?」

 「なんで俺が!」

 その声はなぜか沢田と鯉積とで、ハモっていた。

 「いいか?勘違いしてるのはテメーだよ!鯉積はバリタチなんだよ!」

 「ば、ばりたちって?」

 「男役しかしたがらないって事!」

 それってどういう意味?沢田が嫉妬していたのって俺に対してなのか?俺ってすげー勘違い野郎か?もしかして?

 「浮気した覚悟はできてるんだろうな」

 なんの覚悟かなんて聞くまでも無い。

 「帰るぞ!」

 どこに帰るのかも考える間でも無く。

 「諦めないよ!沢田先輩!」

 鯉積がそういっていたということは、もしかして鯉積は沢田のケツも狙っていたって事?可愛い顔して……ありえねー!

 俺が混乱している間に気が付くと何時の間にか俺の家に帰っていた上に俺たちはすでに俺のベッドの上にいて、その上あっというまに裸に剥かれていた俺ってばすげー間抜けなわけで。

 「素直じゃないのは判っていたけど、つい騙されたよ!でももう遠慮しないぞ」

 お前が遠慮したことなんかあったのかよ?

 それから朝まで声が枯れるほど沢田にお仕置きと称してとんでもない事をされたのはいうまでもない。

 朝になってまだ俺の中で元気な沢田が「雨降って地固まるだな」なんて満足そうに呟いたのに俺は反論する元気も無かった。

 

 【おしまい】

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