|
バレンタイン番外 |
|
世の中はバレンタインで浮かれていても、この時期川向中学に勤める数学教師羽生雄斗は3年生の高校受験の用意でいろいろと忙しい。 そして株式会社シソーラスの営業開発課長である羽鷲竜斗は、新規に開発した取引先の様々に変わる要求で忙しく家で食事を取るのも稀な状態が続いていた。 忙しくても、いや、忙しいからこそ生理現象がたまってきたりするもので、珍しく朝早く起きた雄斗は 竜に声をかけた。 「今週の土日は休めるのか?」 「あぁ〜〜どうかな?ちょっと予定がつかないよ」 「今夜は?」 「ん〜〜頑張れば9時くらいには帰れるかも」 そうはいいつつ、実はこの時間は竜斗にとって最も怪しい時間だった。というのも今取り組んでる契約先の都合でいつその予定を狂わされるかわからない状態なのだ。 出来ない約束などするものではないのは解っている。解ってはいるのだが、少し小首を傾げて微笑む雄斗に、帰れないかもしれないとはとても言えない竜だった。 「俺も今日はなるべく、早く帰るよ。もし竜がいいならお前の仕事先の近くで飯を食ってもいいし」 何気ない雄斗の台詞だがこれは雄斗にとってかなりの譲歩を含んでいる……ますます予定がたたないと言えなくなってしまった。 「4時過ぎならプライベートの電話もOKだからさ、ケータイに電話くれない?」 「う、うん」 いつもなら、天にも舞い上がって喜びたい竜斗だが、珍しくもこれほどその気になってる雄斗にもしも 予定が変わったなんて言う事態になった事を考えると少しだけ背中が寒くなる。 「そのまま、ホテルにいったっていいんだぜ」 「そ、そうだね」 こんなにデートに協力的な雄斗が今までいただろうか?いや、いない。 しかし、仕事は待ってはくれない。今時の新入社員じゃあるまいし、一応名前だけでも課長職のある 竜斗が仕事よりデート優先なんてできるわけも無かった。 だから多分、思いっきり顔が強張っていたんだろう。 「あんまり気乗りしないみたいだね」 「いや、そうじゃなくて、先方の都合もあってさ」 「そ、じゃ、いい……」 ……あぁ、やっぱりむくれてしまった。 雄斗からこんなに積極的にデートに誘われるなんてなかったのに。 だいたいが、雄斗は自宅が好きなタイプなのだ。 余程じゃなければ外食なんて面倒だと言われてしまう。 ここのところ雄斗が夜遅く帰宅していつものストレッチメニューをこなし、シャワーに入ってから、忙しそうに持ち帰った仕事をしてる姿をみると、竜斗は何もいえなくなってしまう。 家に仕事を持ち帰るな……なんてとてもいえない。 まして仕事をしてる雄斗にその気になっちゃったから ベッドにいこうなんていえるはずもない。 自分も家事をやってる間に雄斗を待ち疲れて寝てしまう。 そんな日々だった。 「電話するよ、7時まで待って電話出来なかったら先に何か食べていて」 「ん、わかった」 雄斗の気持ちが解らないわけじゃない。本当に最近は互いに忙しかった。 特に今月に入ってから竜斗の時間に余裕がある時は雄斗が夜半に帰宅してシャワーを浴びるとそのまま疲れきってそのままベッドに入り込んでバタンキューだったのだ。 その気になっていた欲望を持て余し、そっと雄斗にキスしてみたものの起きそうになく仕方なく諦める、そんな日がずっと続いていた。 気がつくと今月は一度も身体を合わせていない。先月も……そうだ、もう2週間は一緒にベッドに入って無いのだ。だから雄斗なりにそれを気遣ってくれている。 だがいつも、タイミングが悪過ぎる。 やはりその日、竜斗なりに相当に頑張ったのだが仕事が終わったのは、夜の8時を軽くまわっていた。前日が祭日で仕事もたまっていたし、例の我が侭な新規の取引先がまた、無理難題を吹っ掛けてきたのだ。 雄斗にかけた携帯はワンコールで出た。 「ごめん、やっぱり遅れた」 「夕食とったか?」 「いや、ユウは今学校?」 「いや、お前の会社の隣のビルのティーラウンジ」 「うそ……」 「来れる?」 「うん」 もう、つんのめりそうになりながら慌てて会社を出ると、雄斗はティーラウンジの一番奥の席で肩肘をついて竜斗を見上げていた。
やっぱり可愛い顔だ……いつみても見飽きない。 見てるだけで幸せになる顔……。 なぜだろう、お前がいるその場所だけが輝き他が見えない。 思わず顔が綻ぶ……雄斗……やっぱりお前が好きだ。お前が俺の恋人だと言うのが誇らしくてたまらない。 「何か食う?」 「うん、まず、お前を食べたい」 竜斗が雄斗の耳許で息だけで囁いた。 雄斗の頬が真っ赤になる。こんな余裕の竜斗は久しぶりだから雄斗はすっかり調子が狂っていた。 「ば、ばかいってんじゃねーよ」 「ホテルいこうか?」 小声ながらいつもの竜じゃないくらい積極的だ。 「全く、何考えてるんだ?やり初めの中学生じゃあるまいし」 「ユウは俺が生徒の方が萌える?」 「いや、俺もお前っていうだけで萌える……」 今の二人には他の景色なんか全く眼に入らなかった。 「行こう」 そういって竜斗は一番近くのホテルにずんずん入って行く。 慌てたのは雄斗の方だ。 「いいのか?会社の真向えじゃないか?」 「うん、今日は特別……だって雄斗からわざわざ会社に来てくれるなんてないだろ?」 思わず、二人は顔を見合わせて微笑んだ。 明日も仕事だけれど、そしてバレンタインにはまだ間があるけれど、俺達はこれでいい。 久しぶりに気持ちも一つになった夜だった。 |