忘れ物(バレンタイン18禁)

北埜視点


 2月に入って大学も試験が終わり長い春休みにはいる。

 僕はやっぱりいつものようにひとりの男の姿を何時も視線の端に入れていた。

 彼は杉田喜一。

 ノンケの彼がいったい何の気紛れで自分と付き合ってくれる事になったのか いまだにこの状況が信じられない僕だった。 僕はまぁ、俗にいうジャニ系とかスジ筋とか言われるタイプ。

 名前も北埜流星なんて変な名前だ。 力も無くて女っぽいオカマみたいに誤解される事は多いけれど見た目程女っぽくはないはずだ。

 喜一がそこのところを誤解して、俺に優しくしてくれるのは、どうもこそばゆい。 素直に喜一のエスコートを受けて喜んでいればきっと可愛げもあるんだろう。でも、僕はやっぱり女じゃ無い。喜一は本当にそこを解って僕と付き合っているのか時々すごく不安になる。

 だから、時々付き合う前の方がもしかしたら、ずっと今より苦しく無かったと思ってしまうのは僕の我が儘なんだろうか? 実は僕らはまるで恋人みたいに仲良くしてるけれど、本当はキスする以外は普通の友達とたいして変わらないといったら、 ゲイのメル友は何をやってるんだと言われてしまった。

 だって、僕は怖い。

 喜一は今まで寝た女と2ヶ月と続いたためしは無いからだ。

 彼に触れて欲しいっていう気持ちは凄く強いけれど、俺とやって『男ってこんな感じなんだ?やっぱり 女の方がいいな』……なんて言われちゃッたりしたら、間違い無く立ち直れない。

 いくら世の中が変わったとは言え、やっぱり僕らゲイは生きづらい。

 僕のメル友もいつも自殺したいなんて切羽詰まったメールを寄越すけど強ち狂言だなんてとても思えないのだ。ゲイと自覚した日からある程度の覚悟はできていたけれど。

 喜一にそこまでの覚悟があるかといえば、それは否!だろう。

 興味本気で覗いた世界、セックスが好きな彼にとってはちょっと変わったセックスをする機会でしかないのだから決して深入りするなと僕は自分を戒めてきた。

 とはいえ、僕も年頃の男の子……インターネットで色んなエッチ系ゲイサイトをまわっては、『へぇ!』とか『うひゃ〜そこまでやんのかよ』などと呟きながらも寝る前のおかずにしてるのは内緒だ。

 しかも僕の頭の中でやってる相手は喜一で喘いでるのは僕……なんてもっと知られたく無い。

 そんな感じだから、いつも僕らはいい雰囲気になりながらも殆どはキスどまり、だってBまでいったら間違い無く僕の方が我慢出来なくなって最後までしちゃうだろう?それはすぐに飽きっぽい喜一との別れを意味しているのだ。それだけは嫌だ。絶対に……。もう少しだけ夢見ていたい。やっぱりそれは僕のエゴなのかな?

 勿論キスは好きだ。喜一がそっと唇を重ねてくるだけで僕の下半身は熱くなる。喜一の首に腕をまわして喜一の広い胸板に身体を預けながら、ずっとこのまま時間が止まってくれるといいと思う。

 だって、もうすぐ喜一は僕がいつまでもやらせない事に腹を立てて女の子の方がやっぱり、いいやと思うに違い無いから。

 バレンタインが近付いて僕はますます憂鬱になった。女の子からのアプローチがあったら僕の恋人の座はもはや、風前のともしび。聞いちゃいけないと思いつつ、僕はある日つい口を滑らせた。

 「女の子からチョコを貰ったら受け取るの?」

 「あぁ、くれるっていうものを無碍にもできないしな」

 そういう言い方もあるか……僕は苦笑する。

 「なるほどね。つまり喜一はいまだに女に未練があるんだ?」

 知ってるよ。そして僕が喜一の近くにいられるのも後ほんの僅かだなんだろ?

 僕は心の中で自嘲する。

 「ふん、北埜は最後までやらせてくれないんじゃないか……」

 「なんだ、やっぱりそれか……たまってるんだ」

 やっぱりね?喜一って解りやすすぎ……僕がどんなにカマっぽく見えたってごつい男である事には 変わり無いのに……。

 でも、最近はなんか僕の方が辛くなってきた。いつまで我慢ができるんだろう?

 だけど最後の思い出に14日に喜一を独占するすごくいい方法を突然思い付く。

 僕は叔父貴にある事を頼み込んだ。それはちょうどシーズンで滅茶苦茶忙しかった叔父貴にとって俺の提案は渡りに船だったらしい。

 「いいのか?男二人でダブルベッドで?狭いだろう?」

 「いや、僕達そんなの気にしないんだ」

 ……っていうかむしろ好都合だなんてとても言えないけど。ぼくは20%の期待と80%の絶望感に苛まれながら喜一を誘ってみた。

 「金曜日さ、講議が終わったら、妙高にいかないか?」

 「妙高?」

 「叔父貴がそこでペンションやっていてさ。今、シーズンだから部屋はダブルベッドで 男二人が寝なくちゃいけないんだけど、タダだし、掃除とか手伝ったら旅費の他に1泊1万づつくれるって」

 「いく!」

 即答だった。やる事しか考えて無い喜一らしくていい。 僕はこれできっと喜一との夜を一生思い出に生きて行く決心がついていた。

 叔父貴にいいように使われて疲れ切った夜、話をするのも面倒そうな喜一に僕は声をかける。

 「食事はした?」

 「あぁ」

 「近くに温泉があるらしいよ」

 「俺はいい」

 僕達の間に奇妙な沈黙が訪れた。もう、ぼくなんか抱きたくもなくなったかな?僕はやっぱり男だしな冷静になったらいやになったんだろう?それどころか口もききたくなくなったか?

 「怒ってる?」

 「なにを?」

 「僕に付き合わせてこんな忙しい思いさせたから」

 喜一が優しい瞳で僕をみてる。……未練がでるからそんな瞳で見ないで欲しい。

 「いいよ、別に」

 「本当は僕に怒ってるだろう?」

 「どうして?」

 僕は死刑宣告を受ける被告人みたいな気持ちになった。解り切った結末なら勿体ぶらずにさっさと言ってくれ

 「だから怒ってねーよ」

 「うそだ、怒ってる」

 「怒ってねーって」

 「だって僕が最後までやらせないから……」

 今どき、女だって処女なんかにこだわってない。いつまでもやらせない僕の事軽蔑してんだろ?

 「女でもないのに、しかも経験もないのに勿体ぶってるって思ってるだろう?」

 「どうしてそんなこというんだ?」

 「だって、喜一ってやらせたらそれで終わりって女の子達がいっていたから」

 ……あ〜ぁ、いうつもりじゃなかった本音がつい出てしまう。

 「ひでーな」

 喜一の顔色が変わった……まるで心外だといわんばかりに……これってこれって

 「違うの?」

 「酷い誤解だよ……だけどそれでお前……」

 そこまでいうと喜一は優しく僕を抱きしめた。まるで愛おしいものを包み込むように……。僕はお前に抱き締められて壊れるような玉じゃ無いのに……。そう思いつつ、そっと瞳を閉じた。

 「喜一……」

 そう呟いた言葉が喜一の喉の奥に吸い込まれていった。喜一の指先がそっと僕の服を脱がせながら肌を直接なぞっていく。僕の感覚が喜一の指先からずっと飛行機雲みたいに指の跡を忘れまいとする。

 喜一の全てを覚えていたい。喜一の熱い胸板にそっと頬をよせると喜一のバクバクした心臓の音が僕を心地よく刺激する。

 あぁ喜一も緊張してるんだ……

 気がつくと喜一の巧みな指先に僕は全裸に剥かれていた。 喜一の全裸で重なりあう部分が酷く熱い。本で読んだりネットでの知識と全く違う……全てが夢の中のようで 僕はもう、自分がどこにいるのか分からなくなりかけていた。

 喜一の指が僕の口に入り込んで無理に突っ込んできた。

 「や、やだ……」

 「じっとしてろ……」

 喜一の声は今までに聞いた事ない程冷静で……それが返って僕を恐怖の縁に追いやっていく。

 「さっさとやっちゃおうよ」僕は半分自棄になって叫んだ。

 「やだね……こんなに待ったんだ。今夜は俺達にとって特別の夜だ。ゆっくり楽しもう……流星が嫌がる事はしないよ」

 「優しいんだね」

 きっと女の子にもこういう感じで優しいんだろ?

 「男は初めてでもセックスは初めてじゃ無い。俺に任せて力を抜けよ」

 喜一の瞳が優しく俺を覗き込む。そしてキスをした。

 「怖く無いから……」

 そういって俺の小さく萎えかけたものを撫でる。

 「好きだよ流星」

 「僕も喜一が……」

 そんな事をいいあうなんて恥ずかしいと思っていたけれどこうして肌を合わせていると逆に燃え上がるのはなぜだろう。

 その手はそのまま蟻の戸渡りを通って僕さえじっくりと触れた事のない場所に辿り着く。洗っておいた場所とはいえ、急に恥ずかしさが襲ってきた。

 「そこは……」

 「誰にも見せた事ないんだろう?俺にはちゃんと見せろよ」

 「よせ」

 熱い息が吹き掛けられたと思ったらそこに信じられない感覚のモノが俺を濡らした。

 「や、やめ……」

 身体をひっくり返されて喜一に恥ずかしい場所を見つめられてる……それだけじゃなくて喜一の舌が僕の窄まりを念入りに舐め上げていた。

 僕は何がなんだか解らなくなり「やめて……もうやめて……」そう声にならない声でうなりながら身を捩る。

 喜一の舌が中にぐっと入り込んでくる感じに僕は半狂乱で「お願いだからもう入れて」などととんでもない事を口走っていた。

 だって喜一のアレが僕に入り込んでくるとは思っていたけれど、あんな恥ずかしい事まで喜一がやるなんて思っていなかったから。

 半べその僕に喜一はやっと口を離すと今度は指で襞を少しづつ広げるように愛撫する。

 「喜一……き、喜一……」

 「もう少しだけ我慢して……」

 喜一の声はあくまで優しくて

 それが僕にはもっと切なかった。

 念入りに解された後喜一の熱さが僕の中を引き延ばすように慎重に入ってきた。

 「 息を詰めちゃダメだ……流星……息をしてごらん……」

 やっと小さく息をすると流星はさらに腰を掴んで奥まで入り込んできた。熱い……あそこが重くて熱かった。だけど喜一は焦る事なく慎重に僕の呼吸に合わせて さらに入り込んでくる。

 胸の突起と僕の前を優しく愛撫してきた。その度僕は痙攣するようにびくっとした。

 「ほら、もう終わりだよ……」

 なんと喜一が僕の手をとって繋がってるところを確かめさせる。僕は喜一と確かに一つになっていた。

 本当に好きな人とするセックスってなんて気持ちがいいんだろう。

 「好きだ……喜一」

 「俺もだ」

 僕達はさらに絶頂への階段を登っていった。

 もう、今夜で喜一と別れる事になっても僕は絶対後悔しないだろう。

 この瞬間がいつまでも続けばいいのに……そう思いながら僕はやっと意識を手放した。

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