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You can't be serious. |
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なんとそれから、毎日のように『きずく』は、やってきた。 殆どが7時から8時までのほんの1時間だけ……それ以上店にいることはなかった。 実はその間は他の客を取らないように、マネージャーに頼まれていたのだが、 逆に俺はわざと客を同じ時間に入れて、城を嫉妬させるように仕向けた。 嫉妬だって恋愛の立派なスパイスだ。それを利用するのも俺達のテクニックのひとつ。 もっともっと俺に惚れ込むがいい……。 きずくと会っている時は、他愛無い話をして彼を持ち上げ、何度も『愛してる君が一番好きだ』と甘ったるく囁き、『仕事だから仕方ないんだ』と言っては、他の客と楽しそうに話すのを、じっと見せつけて待たせていた。 実をいえば、これも一種のテクニックだ。 恋愛だってワンパターンじゃ、すぐに飽きてしまう。 たとえ擬似恋愛だってなかなか手に入らないと思うからこそ燃え上がるものだ。 「あんまり冷たくしたら、客を逃がすよ」 そうマネージャーに言われたが、俺は自分のやり方に絶対的な自信があった。 もう、すでに俺に夢中になっているこの気の毒な恋愛未経験の青年を、 好きなように翻弄してると思うと、毎日が楽しくて仕方なかった。 さすがの彼も我慢出来なくなって、店ごと借り切りたいと言ってきた時は「出入り禁止にするよ」 などと平気で脅したものだった。 まったく、彼は初な青年だった。 20代前半くらいだろうが、恋愛の経験は全くと言っていい程なく 俺が想像した通りの反応をしてくれるから可愛くて仕方ない。 育ちの良さそうな大金持ちの綺麗なおぼっちゃまが、俺に夢中になって壊れていく様は、ゲームのようで俺をますます夢中にさせていた。 心だけではなく、身体も欲しい……。あの生意気な高慢ちきな整った顔を、あんあんいわせたらどんなに すっきりするだろう。 だが最初に応接間に通した時以降、「きずく」はキスさえさせなかった。 キスだけであんなに色っぽい反応だったんだ。あの白いもち肌を優しく愛撫して 俺無しでは生きていけないようにしてやりたい。 時々、そんな事を妄想する自分に俺は苦笑した。 育ちが良くない俺は、あぁいう気取った人種に、一種のコンプレックスを刺激されているだけに違いないのだ。 っそれから数週間すぎたある夜。ふと思い立って、俺は唐突に尋ねてみた。 「きずくっていくつ?」 「今年、30だけど……」 30才?嘘だ、どんなに歳でも25才前だと思ったのに。 「名字は?」 「名字って父の名字でいいのかな?」 当たり前じゃないか?時々きずくは世間の常識と懸け離れていた、決してバカではない。 世界情勢にも詳しく英語の他にフランス語とドイツ語も話せるという。 「妙高寺でと思う。でも誰も私を名字で呼んだ事はないから城って呼んで欲しい」 妙高寺……同じ財閥があった気もする。親戚なんだろうか? 彼がなぜか手の届かない存在のような気がして、俺は急にキスがしたくなった。 躊躇する隙も与えず小さく唇を奪う……。城の大きな瞳が切なそうに揺れて、今夜は帰したくないとさえ思いはじめていた。 ところが、勢いよく店のドアが開き、偶然、そこに黒服にサングラスのガタイのいい男が入ってきたところだった。 「きずく様……いったい、いったい…何をやってらっしゃるんですか?」 そのヤクザを思わせるような男は、思いきり城をどやしつけるように叫ぶと、城を無理矢理店から連れ出した。城は、彼に押されるように連れ去られる瞬間、蒼白で何かを強く訴える瞳で俺をじっと見つめていた。 それは、アッと言う間の出来事だった。 いったい何が起ったというのかと、俺があっけに取られてると、敦史が訳知り顔でやってきた。 「ちょうどよかったじゃん」 「何が?」 「これ以上あいつに入れ込まれると、志月大変だったよ」 「はっきり言えよ。どういう意味だよ?」 「あいつ、妙高寺グループの会長のコレなんだって」 と小指を立てる。 「ばかいうな……」 あいつの名字は妙高寺なはずだ。くだらないこといいやがって……。 「13才の時から気に入られて監禁されていたらしくて、まぁ相手は金持ちだし 養子にも入ってるから知ってて警察も手を出せなかったらしいぜ」 「親子って……そういう親子か……」 「70も越えたじいさんが17年も夢中らしいからな…… よっぽど良い身体してんだろうな。今でもあんなにいい男だから、 10代の頃は涎が出るような美少年だったんだろうな」 敦史は満更でもないという顔だった。 俺は……俺は口も聞けないほどショックを受けていた。 アイツは俺が好きで、毎日コレからも通ってくるはずで…… なぜ、あんなに切なそうに俺を慕ってくる城を邪険にあつかえたのだろう。 永遠に城が俺に好きだと言ってもらいたがってやってくると信じていたからだ。 奴の身体はアイツ自身のものではなかった。まして俺が自由にできるはずもない。 城は何度も俺にサインを送っていたはずだ。 それなのに俺はこの恋愛に勝利したと勘違いしていたのだ。 さっき城を連れ去ったのは、ヤクザかボディガード……? もう、 俺ごときが会える相手ではないのかも知れない もう、あの抑揚のない小声も縋るように見つめる熱い眼差しも 2度と見られないのかもしれない。 そう思うととてつもない恐怖が襲い、 俺を地の底まで連れていくようだった。 なぜ、城に優しくしてやれなかったのか? 深い後悔が俺の心臓をえぐり出す…… 嘘だ、これは嘘だ…… 誰か、誰か……これは嘘だと言ってくれ……。 |