嘘だといってくれ 3

You can't be serious.


  このクラブには個室がないので俺達は普段応接室を休憩室にしているのだが、他のホスト を追い出してこいつの本意を探り出す事にした。  

「どうぞ、こちらへ」

「なんか、変な匂いがするぞ、ここ……なぜこんな部屋に?」  

 不審そうな顔で左右を見回している。  

「いったい、お前の目的は何だ?名前は?」  

 俺は部屋に入るなり壁に押し付けながら思いきり良く彼の肩口を掴んだ。  

「や……っ何を……人を呼ぶぞ……」  

「呼べばいいさ。いったいどこのホストクラブの嫌がらせかな?」  

「は……な……せ……」  

 彼は異常な程動揺していた。微かに震え、足に急速に力がなくなり崩れ落ちてゆく。  

「おい、大丈夫か……」  

 気絶するほど乱暴なんかしてないはずだ。しかし、その刹那なぜか俺は自分でも理解出来ない 劣情に見舞われて、彼の唇に自分の唇を押し付けていた。  

 ソファに横たえると正気に戻ったのか、サングラスを外して俺を見つめている。

 彼の熱い眼差し、長い睫毛に縁取られた大きな潤んだ瞳、少女とみまごうような張りのあるサクランボを思わせる濡れた唇。俺の中の何かが、弾けて城を引き寄せ強く抱き締める。  

 そして俺達は目を閉じると互いの唇を貪りあった。まるで別れ別れの恋人達のように。  

 充分なキスをしてから、彼が甘えるようにそっと俺の肩に頭を押し付けてきた。  

「城って書いて『きずく』っていうんだ。変な名前だろ?」  

「それ、本名?名字は?」  

「知らない……気が付いた時にはそう呼ばれていたから」  

「どこかのホストなのか?それともBOYとか?」  

「BOYって?」  

 「売りだよ。最近の売りはホストより顔だけはいい男が集まってるらしいから」  

「ウリ?違う……と思う。あんまり外の世界は知らないんだ。最近ストレスがすごく 溜まってるって医者に言われて、外の世界を見るのはストレス解消にいいし、ホストみたいな接客業の勉強をすることは、私の将来の為にもなるって言われて、きてみたんだ」  

 外の世界を知らないっていったいどういう意味だろう?  

「私は、身体が弱いから、幼い頃から学校に行った事がない」  

「じゃ、勉強とかは?一応義務教育っていうのがあるだろう?」  

「家に先生がきていたが……」  

 よく、解らないが、こいつはやっぱりとんでもないおぼっちゃまかもしれない。  

 いつもの俺なら、カモを見つけた喜びで、舌舐めずりをしているはずだが、今夜はなぜかそんな気がおきなかった。  

「ここをやめて私の専属になってくれないかな?」

  突然の申し入れに俺は驚いた。お互いによく知らないのに何をいいだすんだろう?  

 第一、金で俺を自由にしようという根性になぜか無性に腹がたった。  

「ダメ。俺は誰かの専属なんて耐えられない。あなたは、ここに来て時々、俺を指名してくれれば いいじゃないか」  

「誰かと話してる君を見たくない」  

「わがままだなぁ……きずくが幾ら金を持ってるのか知らないけど、これは俺の仕事なんだよ」

  俺はそういいながらすでに立場が有利になっているのを知ってほくそ笑む。  

 こいつは、完全に俺に陥落したらしい。

  こんなに早く手の内を見せるなんて、ただのバカか、余程世の中に擦れていないのか、どちらかだろう。

  男に興味はないが、ブスや婆ぁやケチよりよっぽどましだ。  

 俺はこいつ相手に自分が勃つかどうか考え始めていた。  

 長く関係を続け相手から金を搾り取るのはセックスが一番だからだ。  

 正直いって相当不安だったが、何事も努力でなんとかなるものだ。  

 なんとか彼相手に俺は役に立ちそうな気配だった。  

 俺は意を決してきずくのネクタイに手をかけた。  

「よせ!」  

 手を勢い良く叩かれた。思いのほか強い拒絶だ。  

 なんだよ、乙女じゃあるまいに、良い大人が……こっちは好意で無理にやってやろうとしてるのに。  

「君はゲイじゃないんだろう?キス以上の事をされたくない」  

「大丈夫だよ、きずく相手なら……」

  たぶんね……俺も男の経験はないけど知識だけはあるんだな、これがなぜか

「君は良くても、私はいやだ……キスもしなくてもいい……別にそんな事 して欲しいわけじゃないんだ」  

 はぁ?何を言ってるんだこいつ?  

「じゃあ、何を俺に求めてるんだ?」

  俺は急に不安になった。実際いったいこいつは俺に何を求めてるんだろう?  

「優しくして私の我が侭をきいてくれるだけでいい。もしできるなら……」  

「できるなら?」  

「好きだって囁いてほしい……」  

 俺は絶句した……おいおい、今どき女でもこんなベタな台詞を最近吐かないぜ?  

 乙女かよ……お前は……。  

 まぁ、言葉だけで満足してくれるなら、いくらでも言ってやるぜ。  

 一晩100万円の王子様!

 BACK  WORK TOP NEXT