嘘だといってくれ 2

You can't be serious.


 「ここでは先ず自分から客に名乗ると教わってないのか?」

 「魅力的なお客さまに限って例外も許されているのですよ」

 「ばかばかしい。お前はたいしたホストじゃないな。男も女も同じ扱いか?芸が無さ過ぎる」

 「いいえ、お客さまに限ってに決まっています。今までお客さまほど こんなにときめいた方はいなかった」

 「……お前、まさかゲイなのか?」

 彼は露骨に嫌な顔をする。こいつこそゲイだと思っていたので喜びそうな 言葉をやったのに、これは作戦変更か?

 「とんでもございません、お客様には、悪い意味での男性特有の男臭さがございませんでしたので」

 これは半分正直な気持ちだったが俺は言ったすぐに後悔した。 明らかに彼の顔色が変わっていたからだ。

 「帰る……」

 俺は慌てて彼の手を握りあるものを握らせた。あるものとは自分の顔写真の入ったテレフォンカードだ。

 もちろん、一流上客にしか渡さない。

 これは特別仕様になっていたので、これを使うと自分にしか電話が通じない仕組みに なっていた。無論、携帯の番号も印字されてるので携帯から直接かけることも可能だった。

 男だがこんな上客をみすみす逃してはNO1ホストの沽券にかかわる。

 「村上志月(しづき)と申します。必ずまた来ていただけますね?お待ちしてますよ」

 息を吹き掛けるように耳許で囁く。 あいつは名前も名乗らずにいたが、あのテレフォンカードを捨てなかったと言う事は大いに脈ありだった。

 それから数日間何の音沙汰もなく殆ど俺が忘れかけていた忙しい週末、 また、あいつはやってきた。

 驚いた事に店の外にサングラスをかけたガタイのいいのが 数名外で待っている。VIPか何様か知らないが特別扱いらしい。

 今、いる客はともかく、今後の客はどうやら受け入れないことに決めたと言う……あのがめついマネージャーが?

 信じられん。

 とにかく外のネオンが消された後、俺は勿体をつけてゆっくりとあいつの隣に座る。

 こいつめ!またサングラスをかけてやがる。

 「失礼します」

 座るタイミングと同時にサングラスを取り上げた。

 『サングラスを失礼します』の意味もかけてという事だ。

 ……店内が一斉に静まり返る。

 ……これは反則だろうよ?

 女優や美人を見慣れたホストの俺達も驚く程の透き通るような色の白さ。20代だろうが少年の様に白い肌の俯きがちな眼差し。 長い睫の下の小鹿の様な大きな瞳が印象的な絵に書いたような美青年だった。

 店内がざわざわとざわめく。

 「失敬な……」

 今どき、古めかしい言葉だが上流階級の人々はいまだ使っているのかもしれない。 そう思わせるような、感情を押し殺した小さい頼り無げな声だった。

 最初は返すつもり等さらさらなかったが、俺は慌ててサングラスを彼に掛け直す。

 なぜ、こんな整った顔の男性がよりにもよってホストクラブで高い金を使うんだろう? こいつがここに勤めたら俺なんか全く太刀打ちできそうにない。

 俺は思わずため息をついた。

 全くやっかいな客だ。金持ちじゃなかったら追い出したいくらいだ。

 男の美人なんて何の役にも立ちはしない。女なら他の客が嫉妬してくれるだろうが 男なら、こっちの身が捨てられる心配をしなくちゃいけない。

 実際のところ、他のホストクラブの嫌がらせか?引き抜きか?と考えを改め出していた。

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