海原

cradle of the deep 1



桜吹雪きの舞う中多くの高校生が校門を行き交う。
黙っていてもそんな紺色の海の中、1年生は目立つ、 言うまでもなく、ピカピカの制服のせいもあるが、たいていの場合、どこか中学生の面影を残す幼さと初初しさせいだろう。 その中でもとびきり目立つ1年生、それが羽生雄斗だった。 男子高で皆と同じむさ苦しい制服をきているにも関わらず、その姿は まるで宝塚の男優のような見詰める瞳を離さぬ危うさを秘めていた。
「今年の一押しはあの子だね」
「また、海野の悪い病気が始まった」
「だって、女の子がいないんだからしょうがないじゃないか」
「女の子に不足なんかしてないくせに。根っから男が好きなんじゃないか」
「どうしてなのかな、男の方がそそるんだよ。」
「まだ、入ったばかりの1年生だろ。やめておけよ。お前がいいって言ってる奴は この学校にもいっぱいいるじゃないか」
「バカだな、新入生っていうのがそそるんじゃないか」
2階の窓から1年の様子を伺う2年生達。
その中でも海野笙(うみのしょう)と久住将司(くずみまさし) の二人は際立っていた。 180c近い長身とその美貌だけではなく、有名進学校である恒星学園の殆どの学生達がきっちりと 制服を着込んでいるのに、着崩してはだけたカラーシャツを着て 紺のネクタイも緩ませてある。そのネクタイもよく見れば学校指定のものではなかった。 しかし、それがだらしなく見えないのも、二人の美貌と育ちによるセンスの良さからだったろう。 皆と同じように見える制服も生地から全く違うものだと見るものが見れば解る高級品だった。
「伯父さんにメールしよう」
「メールしてどうするのさ」
「寮で同室にしてもらうに決まってるだろう」
「まぁ、それくらいなら頼めるか」
海野の伯父は学園の学長だったから多少の我が侭や融通がきいてしまうのも この男を増長させる理由らしい。
雄斗に視線を切り換えて観れば、当の雄斗はまだ、その張巡らされた大きな罠に気が付く訳もなかった。
空手部の貼り紙の前でいつ入部届けを出したらいいのかと それが彼の今、一番の幼い悩みだったのだ。


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