海への旅立ち2


羽鷲はいつも高そうなブランドの服を着て背が高く、そのうえ、これぞおぼっちゃまという 顔をしていたからだ。
勿論、女の子にもてていたし、お勉強もできて英語だのだのバイオリンだの 習っていて何かと目立っていた。先生の可愛い子ちゃんっていうのが 一番気に入らなかった。
俺達、悪餓鬼がそんなあいつを放っておくはずがない。

さまざまないたずらを試したがおぼっちゃんの彼にはあまり効果がなかった。
靴を無くしてもすぐに新しい靴が用意され、水をかけると黒塗りの車が 向かえに来て早退になるという結果として悔しがるのは俺達だった。
一番ショックだったこと。
それは俺達が嫌がらせをしてると解っているはずなのに 彼が俺になんの関心も持たない事だった。
道で出会ってにやりと笑いかけるとあいつは清清しい笑顔を返してくるのだ。
ある日俺は音楽室に音楽の授業でリコーダーを持って向かっていた。 急いでいた俺は階段で誰かにぶつかってリコーダーが落とした。
すると羽鷲がやってきてさっとリコーダーを拾い上げるとポケットから ハンカチを取り出し拭いてから俺に手渡す。
そのしぐさは小学生とは思えない程スマートだった。
「はい。落としたよ」
俺はその時顔から血の気が引くのを覚えた。 そうか、こいつは俺に関心がないどころか、たった今この俺を女の子と間違えたんだ。 そう気がついたからだった。 あくまで女の子に渡す仕種でにこっと微笑みかけている。
俺は酷く傷付いていた。今までやったどの意地悪よりも酷いと思った。
何か彼を傷つける事を言ってやりたかったが、あまりのショックで俺は何もいえなかった。
あくまでやつは俺を女の子を見る目でどこまでも優しく見つめている。
俺はリコーダーを掴むと一言も言う事ができないまま引ったくるように後ろも見ないで音楽室に駆け込んだ。
(これじゃあどっちがいじめられてるのかわからないじゃないか)
その日から、俺は羽鷲にかかわらないように決めたのだった。
羽鷲は一流中高一貫校に進学を決め、俺とケンは公立中に進学した。
中学は小学校の延長みたいなもので俺達は楽しく過ごした。
あの日がくるまでは。


next  top