海原

cradle of the deep 12




自分の部屋なのだからノックする必要もないのだが、海野は躊躇いがちに 小さな音でコトコトと自室をノックした。
雄斗が少し青い顔をして出てくる。まだ本調子ではないのだろうし、機嫌も最低だ。 海野は自分を棚にあげてもう少し愛想がよくできないものかと思う。
二人は固い表情でお互いの腹を探りながら睨み合っていた。
一緒についてきた久住が無言でずんずんと奥に入って遠慮なく海野のベットに腰掛けた。
「雄斗、腰は大丈夫か?」
「大丈夫なもんか」
「なんだ、鍛え方が足りないな。俺も手伝ってやろうか?」
「久住!!!」
大声で海野が怒鳴り付ける。
久住は臆する事もなく、にやにやしながら二人を見比べた。
「お前達、痴話喧嘩で俺の手を煩わせるな。仲良くできないなら、無理矢理仲良くさせてやっても いいんだぜ。ただ、その時はおままごとじゃなくて、もっと本格的な体験をしてもらうことになるけどな。」
雄斗は俯き、海野はそっぽを向いた。
「ほら、いいものやるぜ。海野、お前は使い方知ってるよな。」
海野の方ににラッシュを投げ渡す。
雄斗は何か解らないのか不安そうな顔をして助けを求めるように海野を見つめている。
「雄斗、良い子にしてろ。あんまり海野が無体するなら、俺がお前の旦那になってやってもいいぜ」
雄斗は真っ赤になり、海野は怒って近くの本を久住に投げ付けた。
久住は余裕でひょいっとそれを避ける。
「どうぞ、ごゆっくり」
といいつつ部屋の扉を開けてからぴたっと立ち止まった。
久住はゆっくり後ろを 振り返った。二人がキスをしながらベットにもつれ込むのが肩ごしに垣間見える。 そっと瞳を外しながら顔を背けた。久住の口元は心無しか歪んで見えた。

久住が重い足取りで部屋に向う姿を見咎めて有賀が呼び止めた。
「美しい友情ドラマに涙がでそうだな。」
有賀はもともと無口なタイプだがなぜか久住と気が合うのか会うと軽口を叩く。
「卓巳ちゃんはどうした」
久住は森川との事後で有賀が暇を持て余してるのだろうとあたりをつけ、 たいして興味もなさそうに有賀をかまっている。
「寝てるよ」
「あんまり苛めるな。そのうち、愛想をつかされるぞ。」
「愛想なんて最初からないさ」
ぷいと有賀が横を向く。
「じゃあ、部屋に見に行ってやる」
興味がなさそうだった久住の気が変わったらしい。
「来るな」
有賀は取りつく暇もない。
「そういうな。寝顔くらい見せたって減らないだろ」
久住は嫌がる有賀を楽しそうにみて、強引に部屋に入っていく。
仕方無さそうに有賀がその後を追った。
部屋の中はカーテンが引かれており、薄暗い片隅のベットでは森川がしどけない格好で寝込んでいる。
シーツから覗く森川の肩が月光でも当っているかのように青白光っていた。
有賀が慌ててはだけた森川の肩に毛布をかける。
久住は無表情に誰に言うでもないように呟いた。
「綺麗だな。女には感じない危うさがある」
有賀は何も答えなかった。
「男女の中ならいつか終焉がある。妊娠したり、結婚したりな、愛人っていう事もあるか?」
久住は暗くなりかけた窓の外を見つめていた。
「何がいいたいんだ」
「そこで夢から醒める事が出来るってことさ。だが、このまま、お前がこの関係を森川先輩に強制すればお前も人生を踏み外してしまう。目を醒ませ。有賀! いつまでお互いの気持ちを誤魔化しあってるんだ。好きなら好きらしく お前から行動をおこしたらどうなんだ?」
「ばかばかしい」
「いいか、俺は卓巳ちゃんなんかどうでもいいんだ。卓巳ちゃんはお前よりずっとしたたかだ。 俺が心配してるのはお前だ、有賀。自分の気持ちに向き合ってちゃんと精算するんだ」


BACK TOP NEXT