海原

cradle of the deep 11



「苦しいんだろう?俺が助けてやるぜ」
そういうやいなや、久住は海野の上に徐にのしかかった。
「おい、やめろよ。お前と戯れて遊ぶ精神的余裕が今の俺にあると思うか?」
そういって笑って久住を押し退けようとしたが、久住は笑っていなかった。
久住は制服のネクタイを解くとそれで海野を両手首を縛り上げる。
「おい、洒落にならないぞ。いいかげんしろ。」
その時の海野はまだ余裕があった。
しかし久住は圧倒的な力で海野の身体をねじ伏せながら凍えるような声でその両腕をベットに縛り付けた。
「痛い目にあいたくなかったら、静かにしろ」
久住の瞳は冷たく冴え渡るのを見て、はじめて海野はこれが冗談ではないと解って恐怖のどん底にたたき落とされた。
「やめろ、やめろったら」
海野は渾身の力を込めて久住を押し退けようとしたがびくともしない。 今まで、こんな事はなかった。
「いいかげんしろよっ。」
ドスを利かせたつもりの声も微かに震えていた。
久住は余裕の笑みで海野を見下ろす。
「俺が怖いか?」
ずんと久住の重みがかかってくる分、海野の恐怖感が増した。
「........」
「怖いかと聞いてるんだよ」
久住の顔は海野の今まで見た事もない冷たい男の顔だった。
海野も172cm程の身長があり決して小さい方ではないが、185cmの久住とでは身体の造作が違い過ぎる。
「........」
口元が微かに震えるが声が出ない。 しかし、口も聞けない海野の様子を見て満足したのか久住の顔がしだいに優しいものに変化していった。
からかうように海野の耳もとで囁く。
「どうだ、少しの間は雄斗の事を忘れられただろう。」
「....っまえ....」
そして、久住は縛っていたネクタイを慣れた手付きでするりと解いた。
やっと海野は張り詰めていた緊張を解し安堵して鬱血した腕を何度も擦っていた。 だが、その直後に久住に顎を挟み込まれて逃れられないに押さえ付けられた。
「いいか甘えてんなよ。お前は解っているのか?雄斗も今のお前以上に毎日怖い思いをしてるんだ。 そんな思いをさせておいて、自分だけ被害者づらするんじゃねえよ」
「被害者づらなんか.....」
海野はまだ、海野の上に乗っている熱い久住の躯をどうしても意識してしまう。
「有賀もお前もやりたがってもいない相手と、しかも自分が好きな相手と 好きなだけやってるくせに、そんなこと思う事自体贅沢なんだよ。 相手の事を少しでも考えてやれないなら、もう学校やめてでも雄斗に会わないようにするんだ。 いいか、お前の方がだ。」
「やめられるもんか」
「じゃあ、優しくしてやれ。相手も嫌がってないならセックスしたっていいさ。 でも、無理強いしたら、今度はかんべんしないぞ。そして暫くは、他の奴に手を出すな。」
海野は不思議そうな顔をして久住を見上げる。
「お前....いつからそんなまともな事を言うようになったんだよ。 だいたいの悪い遊びはお前がそそのかしたんじゃないか」
久住は切れ長の目をすっと横に流して、
「笙に付き合っていただけだよ」
と殆ど聞こえない声でいった。その声にはいつもの張りがなく弱々しかった。
「え?」
と海野が聞き返したが久住は照れたように笑い もう答えようとはしなかった。
「もう戻ろう。笙は有賀とは違う。無茶な事さえしなければ大丈夫だから」


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