海原

cradle of the deep 8



それから数日間、海野は雄斗に無理強いすることはなくなり、雄斗はまたどこか 中途半端にされたような物足りなさを感じていた。
「ユウ...雄斗....」
誰かが自分を呼んでいる。雄斗が振り返ると物陰から細い指だけがひらひらと踊っているのが見えた。
「も、森川先輩....」
森川は雄斗の腰を掴むと雄斗も物陰の奥に引きずり込む。
そこは階段の下で少しすえた匂いがこもっていた。
「こんな臭くて汚いとこに引っ張り込んでごめんね。お互いに監視が厳しいから」
というと 森川はくすっと笑った。
「この前は楽しかったね。」
「よくいうよ。おかげで海野先輩に好きなようにされてるのを知ってんだろう。」
森川はしれっと言った。
「みんなに公衆便所にされるよりましだろう。そんなことよりもう一度、ユウとゆっくり過ごしたいな」
(このやろうは...)雄斗は思わず拳を握る。
「そんな事するチャンスなんかないだろう」
「っていうことは、興味ありだね。チャンスは一度だけ、修学旅行さ。有賀も海野も2年だからね。 たっぷり1週間いっしょにいられるよ」
雄斗は『まじかよ』というように呆れたように森川の顔をまじまじと見た。
「6月の20日から28日まで....他の子と約束しちゃダメだよ。」
「そんな奴いないよ」
雄斗はぷいと横を向いた。
「ばかだな。みんながユウを狙っているんだ。海野がいない時が一番危険だよ。それは僕にもいえるんだけど。」
森川の顔はそこで少し翳ったようにみえた。
「でもユウは空手やってるから僕を守ってくれるんだろ?」
「自分で手一杯だよ。」
「冷たい事言うなよ。とにかく約束ね」
チュっと軽く唇に触れたキスを落とすとあっという間にいなくなっていた。 雄斗はパンパンとズボンに付いた埃をほろいながらまたも、頭の中で 警戒警報が鳴り響くのを感じた。
今度のは半端じゃない。レベル10のMAXだ。
海野だって扱いが大変なのに、有賀のようなガタイのいいやつにばれて本気で殴られたら俺も森川も 木っ端微塵だ。
有賀の森川に対する執着も相当だと噂に疎い雄斗の耳にも入ってきている。 森川と目を合わせて微笑んだだけで、用具室に連れ込まれたとか、森川を可愛いと噂した後 トイレに連れ込まれたとか、本当かどうかはしらないが真しやかに囁かれている。
(森川の身体は魅力的だけど、まだ死にたくない)
雄斗は本気でそう思って武者震いした。

ふと、前を向くとそこには手紙を握りしめた海野が立っていた。
「ほら、恋人からだぜ」
どうやって調べたのか、その握りしめられてぐちゃぐちゃになった手紙の差出人は佐野賢太だった。 もう、通っている高校もお互いに知らない中だ。たしかにケンは雄斗の始めての男だったが、 雄斗にとってそんなことは今となってはどうでもいいことだった。 ただ、唯一の友人と呼べたケンを失ってしまった事だけが未だに心を疼かせるだけだ。
でも海野にとってはどうでもいいことではないらしい。
血走ったその海野の怒りのこもった瞳を見て、怒った方が海野は綺麗だとか今夜は寝かせてもらえないかもしれないなどと雄斗はまるで他人事のように考えていた。
「人の手紙を勝手にさわるな。」
海野の怒りの炎に油を注ぐ言葉だと雄斗の 理性は囁いたが、自分の利かん気をとめる事ができない。
まだ、午後の授業が残っているというのに、海野は戦慄く雄斗の腕を掴んで寮まで無理矢理連れ帰り お互いの声もで無くなる程、雄斗の身体を陵辱し、雄斗は翌日の授業に出るどころか起き上がる事すらできなかった。


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