行為の途中で森川が浅黒い筋肉質な男に抱えられて浴室を出ていくのが見えた。
雄斗は不思議と森川を恨む気持ちになれなかった。
それどころか、浅黒い男の正体を知りたいと願った。森川のすべてを自由にし、その白い肢体に桜の花弁を散らすその男に己の胸の中に嫉妬のようなどす黒い感情が芽生えていく。
それと同時に自分の後ろを犯し自由にしている男に感じていた憎しみが引いていくのが解った。
雄斗は悟ってしまったのだ。この凄まじい快楽に逆らえる男は少ないと....。
(きっと俺の身体には森川先輩に感じるものと同じような男を誘うフェロモンみたいなものがあるのだ。)
そう知ると親友のケンにしても同室の海野にしても彼等だけが悪いのではないと胸の奥が氷解していく。
その直後、海野が痙攣して自分の中に果てたのを知ると、雄斗は感情の無い声で言い放った。
「もう、いいですか」
身体は辛かったが、雄斗は海野を振り返る事もなく自力でなんとか浴室を出ることができた。
その後に残された海野は雄斗にかける声もなく脱力したように俯せていた。
この行為の後、嗚咽をもらしていたのは雄斗ではなく、海野の方だった。
「...こんな.....こんなはずじゃなかった....」
海野は雄斗の同意もなく犯した事に後悔するよりも、男を惑わす森川と雄斗を引き合わせた事を
酷く後悔していた。
翌日、2年の教室前の廊下で海野は久住に腕を引っ張られ教室内に連れ込まれた。
「ひどいじゃないか。俺を除け物にしやがって」
「仕方なかったんだ。有賀の奴が4人以外入れないっていう約束で承知したから」
有賀と言うのは隣のクラスの有賀稜(ありが.りょう) 同じ2年生だが
3年一の美人と誉れ高い森川の恋人だともっぱらの噂になっている男だった。
しかし、森川と有賀の関係が恋人と呼べる関係ではない事を学園の裏に詳しい海野と久住だけが知っていた。
「冗談じゃないぞ?お前にこの案をやったのは俺じゃないか、お前がそうなら
俺にも考えがあるぞ」
「久住....待ってくれ。俺に少しだけ時間をくれよ」
「おれは部屋を追い出された時から、本当は怒っているんだ。バカにするな」
小学校の時から殆ど喧嘩らしい大きな喧嘩をしたことがない二人だったが、
今は気持ちが大きくすれ違ってしまっていると、久住は自覚せざるを得なかった。
海野は何かが変わってしまったと。
その日を境に なぜか海野と雄斗の二人の立場はすっかり逆転していた。
海野は何かと理由をつけては雄斗との接触を避けている。
無論、雄斗はあの日の事を海野に確かめた訳ではない。しかし2人の中では
周知の事実としている空気が漂っていた。
だからこそ、海野はいつも雄斗から目を逸らし落ち着かない素振りで時には部屋を出ていくと
朝まで戻らない事も稀ではなかった。
(どこか他の美少年のところにでもシケ込んでいるんだろう)
雄斗はそれを多少苦々しく思いながら知らない素振りを決めていた。
そして雄斗の方は開き直ったのか堂々と部屋のシャワールームを使い、
タオル一枚の格好で平然と部屋に出て来たりした。
それを偶然目にした海野はぴくりと青白く色の変化した顔を背け、強張る。
雄斗はそれに気が付きながらすでに成るように成れと思っていた。
たとえ自分がどんなに逆らおうとも海野がしたくなったら力づくでもするだろう。
そうなったら、多少の空手の心得なんて怪我の元だ。
この際セックスを楽しんでやろうじゃないか。
もう、やられたことは事実なのだ。 公衆便所にされなかっただけましというものだ。
そう思うとさばさばした気持ちになって、いつでもきやがれと心の中で嘯いていたものの、
何のアプローチもない今のこの状況は 正直言って拍子抜けする感じだった。
(こっちの都合も聞かないで勝手に好き放題犯りやがったくせに、無視することもないだろう
待ってるわけじゃないけどさ。) 雄斗は自分の不思議な感情に首を振った。
(一度してみたら、俺の身体ってきっとイマイチ良くなかったんだな。俺って経験値0だし、マグロだしもっと上手な奴がいるんだろう)
それはそれでいいじゃないか。そう思いたかったが雄斗は孤独だった。
寮の中でも学園内でも、もう誰も雄斗にちょっかいを出そうとするものは勿論、親しく話し掛けてくるものさえいなかった。
あきらかにあの日を境に雄斗は海野の女として扱われていたからだ。
「ケン....」 雄斗は無性にケンが恋しかった。あんな別れ方をしてしまったけれど
ケンだけが雄斗の友人だった。後にも先にも雄斗には友人と呼べる者が一人としていない。
幼い頃から女顔のせいでまるで際物扱いだったからだ。
「ケンって誰だ」
朝、雄斗が目覚めると吐息のかかるほど近くに海野の顔があった。
「先輩...?」
「ケンって誰なんだよ」
海野の顔はいつもより青白く強張り、雄斗を恐怖させるのに充分だった。
「と...友達...」 そういったとたん。
パンっ
いきなり左頬を張られた。痛みと訳の解らない悔しさで雄斗は振り返りざまに海野を睨み付けた。
「何しやがる」
「この淫売が....」
そういうと雄斗の顎を掴んで無理矢理口づけてくる。
雄斗は何が起きたのか解らないまま、必死に抵抗した。
どこかでもう、海野は雄斗に関心がなくなったのでは?と思いかけて安心しきっていた。
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