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しかも厄介な事に俺の身体は、まだあのタチ食いのレイにやられたショックから
完全に立ち直っていないのだ。
レイの場合は、どこか自分にも隙があったから、あれは犬に噛まれたようなアクシデントだとどこかで自分を納得させることができたが今度ばかりは違う。
なんといっても恐神は取引先の部長だ。あいつが俺を指名したのは、俺を舐めていたからじゃなくて
こんな意図があったのか?
そんなことは嘘だ、きっと何かの間違いだ。
俺が若い時分にでも、こんな経験をしていればまた別だろうが、この歳になるまで男相手にどれほど身体を重ねてきてもそれはすべて俺のペースで、俺が相手をいいように扱ってきたはずだった。 なんでこんな歳になって今さら次々と男達から自分の貞操を守らにゃいかんのか?
「楽しむなんて……冗談はやめて、この手…放していただけませんか」
俺は全身に力を込めてありったけの力で身を捩った。
「冗談なものですか。何に縋るものがあるわけではないあなたが、必死で一人でいきていこうとする様は、とてつもなく男の劣情を誘いますね」
それなのにとんでもなく腐った事をいいやがる恐神に全く俺が抵抗してないがごとくいいように翻弄されながら、俺は次々と服を剥ぎ取られていった。
「やめろ、よせって言ってる」
もう取引先だの相手先の部長なんてことはすっかり頭から消し飛んでタメ口になっていた。
「そんなに真剣に抵抗しないで下さい。逆に興奮しますから」
「ばかいうな。このまま無理矢理したら強姦だ」
「残念ながら男同士で強姦は成立しないんです。せいぜい傷害かな…心配しなくても警察に
傷害で逮捕されるほどあなたを傷つけたりしませんよ」
その言い種がなんとも腹立たしい。しかもこいつなんかやり口があいつと似てないか?
「ちくしょー放せ、俺は男にやられる趣味はないぞ。まさか…お前、この前のタチ食いのレイとぐるだったのか?」
そのとたんなぜか、余裕のあったはずの恐神の顔色が変わり思いっきり俺の顎を両手で締め付けた。
「なんですって、あいつめ。私が先に目をつけていたのに。イオリにまで手をつけバージンを奪いやがったのか」
ちょ、ちょっと待て、大人しく聞いていりゃ、こいつとんでもない事をいいやがる。
呼び捨てにされるほどバカにされる立場でも親しい間柄でもないぞ……
俺はもうすっかり恐神が大切な取り引き先だなんてことは、吹っ飛んで頭に血が昇り切っていた。
「バ、バージンって紛らわしい言い方をするな。俺は女じゃないんだ。バージンもくそもあるかよ」
すると一瞬顔色が変わって余裕のなかったはずの恐上がまた、にやりと笑いやがった。
「まぁ、レイにはあとでじっくり話を聞くとして、そうと分かったからには無理矢理やるのはやめることにしました。他の男と同じ事をするのは所詮二番煎じだ。あなたが経験したことがない快楽を教えて差し上げる」
なぜだろう。強姦されずにすんだというのに、俺は強姦されたほうがましだったのではないかと
思い始めていた。
蟻地獄に落ちた蟻か、蜘蛛の糸に絡め取られた蝶のようにすでにその運命は決まっているのに、
少しずつその運命を認識させられながら受け入れさせられていく。そんな身の毛もよだつ感覚に息を飲まれるほどの恐怖を感じる。
たとえ、大企業の部長だろうが取り締まり役だろうが、こんな理不尽が許されるのか?
心のどこかで理性はそう叫んでいるのに、なぜかこの危険な状況を受け入れてしまいそうな自分がもっと
恐ろしかった。
「あんた、男が好きなのか」
「場合によりますね。あなたと違って女だからって拒否したりしませんが」
年上のこの俺をどこかバカにするような、俺が怒ると分かっていてあえて挑発するような態度に
思わず切れてしまった。かっとすると相手の思うつぼだと分かっているのになぜ、俺はそのツボに自ら嵌まってしまうのか。
「どうして俺が、そうだと知ってるんだ」
結果として認めるような科白になっているのに気がついて血の気が引いたが、一度出してしまった言葉はもう取り消せやしない。
「私がなぜ、あなたの性癖を知ってるかについては、おいおいお話する機会もあるでしょう。もしあなたが明日もここにいらっしゃるつもりなら、
今回の提携についての件をもう少しつめて持ってきていただいても構わない。ただし、それには当然必要最低限の条件がある、つまりそれは必ずあなたお一人でいらっしゃる事。それが守られない場合、その時点で今回のお話はすべてなかった事にしていただきます」
背筋をぴんと伸ばしたまま、まるで正当な交渉でもしているような態度が追い詰められているはずの俺をますます苛つかせた。
「それは、脅しか?そんなどこでも理屈が通ると思うなよ。今、お前に言われた事をすべてぶちまけてもいいんだぞ」
こんな子供ような煽り文句はもっとも効力が低い事は誰より俺が知っている。それでも何かを言わずにいられなかったのは、やっぱり尋常じゃなかったのだろう。
「どうぞご勝手に。しかしあなたが自分でお認めになったように、いったいどこの世界に
あなたのような年令の男性に私がそんな要求をするなどと思いますか?そんな事を上司に訴えて正気を疑われるのはあなたの方ではないですか?私は別に構わない」
いったいこいつの本当の目的はなんなのだろう?
「悪いが、多少誤解されようともこんな理不尽な事をされるよりましだ」
彼にとっては、ただの退屈しのぎなのかもしれないが、そんなものに付き合えるほど俺は暇じゃない。
「そうですか?では、こんな話題はお気に召しますか?あなたの想い人はあなたの故郷で可愛いお子さんと幸せに暮らしていらっしゃいましたね。
しかも最近可愛い年下の恋人と一緒に暮らし始めたのではなかったでしょうか?」
「どういう意味だ?」
なぜ、そこまで知っている?いや、こいつはいったいどこまで知っていて何を望んでいるのかますます解らない。
「あんな田舎の小さな同族会社を追い詰める事は訳の無い事。あなたが望むなら
つれない彼に復讐することも可能です」
「ばかをいうな。そんな事望んでいるはずがないだろう」
「だとしても、あなたがそこまで頑ななら結果は同じ事」
震えが止まらなくなった。なぜ、そこまで嫌がらせをうけなければならないのか?
それになぜ、この男は俺が誰にも話していない葛西の事まで知っているのだろう。
「なぜ?」
「あなたに対して興味が湧いた時点でこれくらいの事を知るのは造作もない事です」
あらためてみると、恐神は整った顔をしていたけれど、それが逆にいたたまれないほどの冷酷さに拍車をかけているのだ。
「……」
「あなたを恐がらせるつもりなどないけれど。あなたにはもはや選択権などないことはすでに紛れもない事実。
もし私が来いといったならすぐにこの部屋に来て、黙って私の言う事を聞く事です。あなたはすでに私の腕の中にある。もう私があなたをどう調理しようと私の勝手」
この料亭に足を踏み入れた時点でこうなる予感に私は捕われていたような気がする。
もがけばもがくほど絡まる糸のようにすでに雁字搦めになっている事実を自分では認めたくはなかったけれど。
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