ダイヤモンドダスト番外

8月の七夕



 涼しさを求めて僕らは夏休みに再び北海道を訪れることになった。

 正直いって僕、元木祐也は、北海道はあまり良い思い出がない。 でも恋人森川卓巳さんの故郷であるから、必然的に休みは北海道に来る事が多くなるわけで、 僕としてもついつい彼について訪れる機会が増えるのだ。

 夏はいい。特に今年の夏は北海道はどこも肌寒いくらいの陽気らしい。

 「知ってる?北海道は8月が七夕なんだ」

 「え?七夕って7月7日ってゾロ目だから全国共通だと思っていた」

 本気で驚く僕に森川さんは嬉しそうに微笑む。

 「7月に浴衣で外を歩くには北海道は寒すぎるからね」

 森川さんが小声でそういいながら、そっと僕の太股に女性のような白い手を置く。

 『ここは機上だ、勘弁してよ』

 内心そう思いながらも僕はそれだけでびくっとしてしまう。

 森川さんは、すごい美青年という訳ではないけれど、どこか華がある人だ。 そこにいるだけで廻りの雰囲気が違ってしまう。 スッチーのお姉さん達も僕らとは明らかに違う態度で森川さんに接している。

 そんな人が僕の恋人だっていうのは複雑な気持ちだ。喜ぶべきなんだろうけどやっぱり羨ましい。 だって僕だって女の子にもてたいもんな。

 でも、彼は女性には全く興味がない真正ゲイだから羨ましい事なんかないよと言う。

 『僕は女性なら赤ちゃんからおばあちゃんまで同じように優しいよ』

 それは事実だと思うけど、やっぱり僕も若くて綺麗な女性にももてたいよ。

 そんな僕の想いはさておき、僕らはいつもの空港のゲートに降り立つ。 御盆が近いせいか、ふだんよりよほど込み合っている空港から、レンタカーで 僕らはこじんまりしたペンションに向った。

 湿原のすぐそばに建てられたそのロッジ風のペンションは、都会にあってもおかしくない小綺麗で慎ましやかな僕らのお気に入りの場所だ。 男同士のカップルである僕らを違和感なく迎えてくれるのは、本当にありがたい。

 「ずっと今年は寒かったんですよ。でもここ数日暖かいからきっと見れますよ」

 オーナーが森川さんに話し掛ける。

 「これを持っていくといい」

 透明な密封容器に電池と配線がみえた。二人の会話に関心のない僕は早くゆっくりしたくて二人を残して部屋に向う。

 今日の気温は25℃くらいだろうか?暑くもなく寒くもない。ここは蒸し暑くて騒がしい 都会とは別の時間が流れている。まさに別世界だ。

 「気球やカヌーもできるけど、どうする?」

 「今日はいい」

 窓から拡がる湿原の濃厚な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 「どうせ、こんな田舎に可愛い女の子なんかいないしさ」

 「ここに可愛い男の子がいるじゃないか」

 「よせよ」

 もう、男の子という歳じゃないのだ。たしかに僕は童顔で20才以下に見られる事は多いけれど、 もう、同期にオヤジになってる奴がいる年令だ。 しかし、どうして僕を可愛い可愛いと連呼するのか僕にはよくわからない。

 森川さんの方がずっと良い男だと思うけど。

 拗ねて横を向いた僕の顎を自分にむけるといきなりキスをしかけてくる。 それも濃厚なディープキス。窓の外では青鷺とエゾりすくらいしか僕らの行為を見ていないだろうが、 窓際でいきなりこんな事をするなんて信じられない。 彼の手がどんどん下に降りてくるので僕は慌てて身を捩った。 キスに感じて下半身が元気になってしまったのを知られるのが恥ずかしいからだ。

 「相変わらず、ウブだなぁ。夜になったら濃厚なのが出来るから、今は我慢してあげる」

 腰が立たなくなって座り込んだ僕をそっと揺りいすに乗せると、彼は部屋を出ていった。 日頃の疲れと恋人との旅行による緊張で気が付くと僕は揺りいすに揺られながら 深い眠りに入っていた。                         

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