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「好きです……伊織さん…」
恐神が俺の腰を掴んで引き寄せる。いつもの料亭の離れ。すっかりここが俺達の根城になりつつある。
掃除も料理も洗濯も必要無いが、それは逆にだれかが俺達の行為の後始末をしてくれてるというわけで、それはそれで究極の恥辱プレイだと思ってしまうのはどうやら俺だけらしい。
「ん、んん…」
あまりに激しい彼の腰使いに俺は彼の首に縋り付く。
「愛してる……」
そんな色っぽい目で俺をみるな。
「よ、よせっ」
「あなたがたまらなく可愛い」
「や、やめろ!」
俺は必死に身体を捩って恐神の腕から離れた。
「どうしたの?何を照れてるんですか?」
「うるさい」
あたりまえだろ? 恥ずかしいんだよ。 誰も聞いてないって言っても、おやじ二人が抱き合っていう台詞じゃねーぞ。
「勘弁してくれよ」
「何をです?」
「おれたち、男同士なんだからさ、愛してるだってすでに許容範囲を越しちゃってるのに、可愛いなんて言われた日には……」
「日には?」
本気でわからないというように恐神は俺の顎をとる…またキスから始める気なんだ。
「恥ずかしくて発狂しちまうよ!」
だいたいにして男の精を受けるのだって馴れてないんだ。頼むからこれ以上俺に余計なことを言わせないでくれ。
「どうしてそんなに駄々をこねるの?」
恐神は困ったような顔で俺の顔を覗き込む。だからそんな機嫌を取るような真似されるのが逆に腹立たしいんだが。
「だって最近、休みって言ったらやってばかりじゃないか」
「え?不満なんだ?」
いかにも不本意という顔で聞いてくる。お前もレイ相手にネコやったことがあるんだろ?
ちょっとはこっちの立場になってみろ。
「当たり前だ!」
「わかった、じゃあ伊織は何がしたいの?」
俺が怒ってるのに、あくまでもにこにこ機嫌がいいのはなぜなんだ?
「したいっていったら何でもやらせてくれんのか」
「まぁ、内容にもよりますね」
なにを、えらそうな!
「ホッケーだよ。アイスホッケー。身体がなまっちまう」
「今は夏ですよ。無理言わないでください」
「北海道に行けば好きなだけやれる。そうだ、俺は帰るぞ!」
そうだ、そうだ、なにも恐神に許しを得る必要なんてこれっぽっちもないんだ。
あっけにとられる恐神を残して俺は夏休みのスケジュールを書き込んだ手帳を開く。
それを恐神は乱暴に取り上げた。
「何をするんだ!」
「僕も行きます」
「なぜ?お前、簡単に休みなんか取れるのか?」
最近の俺はすっかりタメ口だ。年下なんだからもう、かまやしない。
「葛西さんに会うつもりなんでしょう?そんなの一人でやれるもんですか」
俺はあっけに取られた。こいつだって知ってるはずだが、あいつとつきあっていたのは20年も前で
しかも俺は20年前とつい、半年前と2回も振られているんだ。
何をいまさら。
「むこうがどうであれ、伊織さんが想っていた人がいる……そんな危険な場所にひとりでやるわけにはいきません」
いきませんっていったって。 俺はいくぞ! 行くって言ったら行くんだ。
俺達はつい俺のスケジュール帳を互いに引っ張りあったまま睨み合った。
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