華の翳り 3 (444444キリリク)忘れ物番外

P子さんへ(孝之編)


 僕が何度もリストカットを繰り返した原因の彼……空。

 いつか僕を思い出してきてくれればいいと、合鍵もそのままに携帯もそのままにしていたのを 熊谷にあって彼に溺れてから、すっかり忘れていた。

 まさか、こんな最悪の時に現われるなんて。

 それより、何故僕は鍵を変えておかなかったのだろう?

 自分の迂闊さに舌打ちをする。

 「なにやってるの?」

 空がきつく熊谷を睨み付けた。

 「ナニやってるんだよ。みりゃ解るだろうが?」

 「久々に来てみれば、浮気は嫌いだなんてお綺麗なこといって、さっそく男を喰わえこんでるって訳?」

 「お前もやって欲しいのか?」

 熊谷の声が冷たく響く。

 「やだね。へたくそ!孝之のが血で滲んでるじゃないか。 出て行ってくれない?」

 負けず嫌いの空の声が大きくなる。

 きっと金でも無心に来たのに僕の部屋に他の男がいるから不満なんだろう?

 いつも限り無く勝手な野郎だ。

 どうして僕はこんな勝手な野郎ばっかり 好きになってしまうんだろう?

 「空!鍵を置いて出て行け!お前とは1年も前に切れたじゃないか。これは僕の今彼なんだよ」

 恥ずかしい格好を思い出して慌てて腰にシーツを巻き付けて僕が空に抗議する。

 「何をいってんだ。誰が今彼だって?調子に乗るな。男の修羅場なんかに付き合ってられるか、 二人でよろしくやんな」

 熊谷はせせら笑いを浮かべるとそのままシャツを引っ掛けただけで出て行ってしまった。

 残された僕は呆然とする。

 たった今、僕にいったアレはいったいなんだったのだろう?

 俯いて肩を震わせる僕を後ろから空がそっと抱きしめた。

 「孝之……僕にはやっぱり孝之しかいない」

 「金なんかないぜ。鍵を置いて出て行けよ」

 僕は必死に彼を振り払う。

 「あいつ……もノンケだったんだろ?さすがノンケ喰いの孝之だよ。その美貌で何人の真っ当な男を食い荒らしたんだか……」

 「うるさい」

 「その割に情が深過ぎて鬱陶しがられるんだよな」

 空だけにはいわれたくなかった。お互いネコ同志だったのに。自分の全てを尽くして彼にのめり込んだ。

 彼にならタチになる事だって厭わなかった。持ってる金もプライドも全て捧げて捨てないでくれと懇願したのに。 最後の金を持っていったクリスマスの夜……どんなに待ってもこいつは来なかった。 やっと忘れて熊谷と穏やかな日常が訪れるようになったのに。

 「孝之は恋してる自分に酔ってるんだ。 決して相手なんかみていない。僕がどんな酷い事をしたって一度だって真剣に叱ってくれた事なんかなかった。僕は孝之の中で出来上がってる偶像だ。孝之を悲劇の主人公に仕立て上げる為の」

 「なんで今さらそんな事をいうんだ?」

 「孝之がリストカットして誰が病院に運んだと思ってるの?」

  そう言われて血の気が引いた。まさか空だったなんて想像もしなかったから。

 「孝之は自分が結局一番可愛いんだ。今の彼だってノンケじゃなくなって孝之に夢中になったら孝之の興味から外れるんだろ?」

 「よくそんな酷い事がいえるな……」

 「酷い事?孝之は一度だって譫言で僕の名前なんか呼んでくれた事なんかなかった。僕を抱く時もいつも嫌そうに……それがどれだけ僕を傷つけたか想像した事あんのかよ」

 空が泣いていた。あんな勝ち気な空が……。

 「みんなにネコ同志上手くいく訳無いって言われて、僕は孝之を苦しめるだけの存在だって言われて、自分から孝之に嫌われようとした僕の気持ちなんか解る訳無い!」

 「一言いってくれればよかった」

 「無理だよ、孝之はいい男過ぎるんだ。どんな男も勾引す壮絶な色気があるんだ。つきあっていても 誰かと話してるだけで不安で酷く嫉妬してしまう。まして僕は孝之を満足させるタチなんかできそうになかったし」

 「タチなんてしたいなんていったことなかったじゃないか?」

 「だって知ってるよ。孝之はマゾなんだ。酷くされないと感じない。だから本当に好きだったら孝之に酷い事なんてできる訳無い。だから孝之はどんな男だってうまくいく訳無いんだ」

 そうかもしれない……僕は否定出来なかった。

 「僕はこの1年孝之を忘れた事なんかなかった。でも孝之は半年くらいで次の男に夢中になってる」

 「空……」

 「同情なら結構だ。孝之よりもっとかっこいいタチを見つけるから」

 「空……」

 「さようなら孝之……やっとあんたを忘れられそうだ。レイさんの忠告を伝えるよ」

 「レイさん?」

 「あぁ、バーテンダーごっこに夢中になっていないで彼にあたって砕けろって。いつまでも続くと思うなその美貌だって」

 「なんだよ、それ?なんでお前が「ムーンドック」のレイさんを知ってる?」

 「……孝之が店を出た後を見計らって時々飲みにいっていたから……」

 僕は涙が溢れてきた。いったい僕は空の何を見てきたんだろう?

 ずっと傲慢だったのは僕の方じゃ無いか……

 ごめん、空ごめん。

 お前の気持ちを知ってもやっぱり熊谷にあたって砕けるつもりな僕を許してくれないか。




このあと熊谷涼 編に続きます。(空編は未定です)

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