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Coming Out of the Sun |
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それから幾日が過ぎただろう?エステやヘアサロンやスポーツジムなどで専任のコーチが俺にマンツーマンで面倒を見てくれる。コーチの中には元オリンピック選手までいて、まるで俺がアイドルデビューでもするのかというような力の入れようだ。 ホストに来た女に嫉妬する男の仕業などという単純なものなどではないというのはさすがの俺にもわかってきた。だがいったいなぜ?誰も俺にその素朴な疑問には答えてくれないのだろう。 だれかがそのうちリアクションするだろうという俺の予想は外れ、幾日も退屈な日々が過ぎていった。 そしてついにその日はやってきた。 ……そうそれは……俺のクライアント(この場合こう呼んでいいのだろうか?)がやってくる週末の夜だ。 俺はすっかり普通の毎日に流されて肝心の……残業という名の屈辱を受けなければいけない夜を すっかり頭の片隅に置き忘れていた。 ……というか追いやっていたと言った方がいいかもしれない。 俺はその事(つまり残業と言う名の強姦?)を覚えておこうとしたのだが、あの夜のように俺の頭の中は朦朧としてきて、やっと俺は契約された『残業』がまた行なわれるのだと認識したのだ。 部屋のどこかからか香しい香りが立ちこめる。それがむせるような強い薫りになって俺に纏わリつく。 これが睡眠薬か?そう気が付いた時にはすでに遅く、体中に薬がまわりかけ金縛りにあったように意識はあるのに身体が動かない状態になっていた。 誰かの手で腕が拘束されて動かないながらも必死に抵抗しながら俺は呻いた。 「頼む……抵抗しないから……縛らないでくれ」 その言葉に従うようにいつの間にかかけられていた手錠がそっと外され、ゆっくりと体重をかけてくる。その肌は男を感じさせない程すべやかで直接触れている部分が燃えるように熱い。 一方背中には確かに固くなった雄の象徴がぐいぐいと押し付けられている。気持ちが悪いはずなのに直接触れあう部分がなぜかじわじわと疼くようだ。 枕に顔を押し付けてなるべくこれ以上直に空気を吸わないようにしたせいか、前の時よりは睡眠剤の利き目が遅いようだ。 俺はこれから何かされることより、記憶を無くされたまま、何をされるのか解らない事を好き放題される方がもっと嫌だった。 また睡眠薬を吸いこまされるなんてまっぴらだったからできる限りの時間、息を止める。 多分それが功を奏したのだろう。意識が多少ぼんやりとはしたが、さすがに急速に意識を無くすと言う事はなかったのが幸いだった。男にしてはなめらかな細い指がゆっくりと背中から脇を撫であげる。無気味なはずなのになぜか快楽がその指を追って駆け上がってくる。 くすぐったいような下半身にずしりと重いものを乗せたような快感が次々と波のように襲ってきて、全身をかけめぐる。 意識を強く持って唇を噛み締めていないと女のような喘ぎ声が漏れそうだった。 背中に性感帯があるのは知っていたが、こんな風に自分が誰かに性感帯を開発されると想像したこともなかったのだ。自分の身体がぐずぐずと溶け出してしまいそうで恐ろしい。 どこかに連れていかれるような心許ないこんな感覚は幼い時に母親に手を引かれていた時以来だ。 「あぁ……っ」 一度声が洩れるとあとはなし崩しに女のように喘ぐ声が部屋に拡がっていく。 「あ……あぁ……ああぁ……っ」 しだいに俺はまるで彼の手の中で転がされる小さな子犬になってしまったような錯覚を覚え。 「や……やめ…て……くれ、あ……っ」 自覚するには辛過ぎたが自分でも今まで聞いた事のないような甘い切なさそうな声で俺は啼いていた。高く低く彼の指揮に合わせて自分の喘ぎ声が奏でられていくようだ。 どちらかというと冷たかった彼の指先がしだいに熱くなっている。 今まで自分が抱く事しか考えていなかったので 相手を感じさせる事に一生懸命で自分に性感帯があることなど考えた事もなかった。 まして自らの男性自身以外の場所にこんなにも深い性感帯が隠されていたなんて……ほんのわずかも想像したことさえなかったのだ なぜなら性感帯は感じさせるもので……自分が感じるものではなく、その上性感帯は弄られるものではなく……弄って可愛がるものだった。 だからこそ喘ぎ声は上げさせるもので喘がされるものではなかったはずなのに……。 俺は快感の大きな渦潮に飲み込まれ翻弄され儚く浮き沈む木の葉だった。 ただただ快楽の深淵に引きずり込まれ地底深くマグマの様にぐつぐつと欲望を煮えたぎらされ、出口を求めて呻き荒れ狂い地上を目指して欲望を吹き上げた時には、真っ白な天上の世界が拡がっていた。 少しずつ現実に帰ってくるとあまりの自分の乱れ様にはぁはぁと大きく肩で息をする自らの姿があまりに浅ましく恥ずかしさで足の先から頭の天辺まで真っ赤に染まっているのを否応なく感じるのだが、射干玉の闇の中では彼に見られずにすんでいるのだろう。 これからだ……これからが本番だ……俺はまたこいつのいいようにやられてしまう。 そして今まで以上に泣き叫んでしまう。 それが解っていながら俺にはもう抵抗する気概など欠片も残っていなかった。 「志月……」 抑揚のない声が俺を呼ぶ。 「志月……志月……」 すぐ後ろで呼ばれているはずなのに、どこか遠くで呼ばれている……そんな錯覚から俺は急速に現実に引き戻される……なぜなら……この声……俺は確かに『この声』に聞き覚えがあるのだ。 まさか?まさか…… 「きずく……」 間違いないこの声は城(きずく)だった。 あんなにも会いたかったこの人にこんな形で会う事をどうして俺は想像する事もできなかったのだろう? 多分、こんな形で彼に拘束されるなんてありえないと思っていたからだ。 いったい彼の義父はどうなったのだろう? 彼こそ義父に拘束され監禁されてていたのではないのか? 城が誰かに拘束されることがあっても、拘束する立場の人間になどなる訳がないと俺は勝手に彼を買い被っていたとでもいうのか?ましてこの俺が城に拘束されるだなんて、こうなっている今でさえ信じ難いのだ。 城(きずく)はびくっとして一瞬俺の身体から離れた。 「……催眠薬の量を間違えたか……」 声は冷たく抑揚がない。やはり城なのか? 「どうして?」 その声は俺に問いかけると言うより自問しているようで……。 「どうしてあなたは俺にこんな事を……」 「志月が私を嫌っているからだ……」 「嫌ってる?俺が?そんな訳はないでしょう」 「私を避けていたじゃないか。しかも私が会いにいくと決まって他の客を入れていた。いれないでとどれほど哀願してもお前は聞き入れてくれなかった。それどころか 私がお前に夢中になるのを面白そうに見ていただろ?」 「それは……」 「いいんだ。それを責めているんじゃない。嫌われていても構わない……今まで私が好きになって欲しい相手に好かれたことなんか一度もなかったもの」 城の声は痛々しくて……俺は彼を抱きしめてやりたかった。 こんなにも深く傷つけた一端は俺にもあったというのに。 俺は手探りでベッドの脇にあるテールランプをつけた。 やはり城だった。そこには城の少しだけ驚いた冷たい表情が俺の目前に迫っていた。 城は慌てて顔を左手で覆い隠しテールランプを消した。 「見るな!私を見るな」 なぜだろう?城は灯りを恐れるように顔を隠しながら他の灯りも消す。 そうはいっても城の整い過ぎて作り物に近いような美しい顔は俺の瞳に焼き付いたまま 消せる訳もなかった。 「志月、悪かった……こんな酷い事をして……でも、どんな事をしてもどうしてもお前が欲しかった。 浅ましいと思うだろうがどんな手を使ってもお前を手に入れたかったんだ」 「き、づく……俺は……」 俺はあんたのことが嫌いじゃない……むしろ好きなんだ。 だれど城は、妙高寺のものだから諦めようとしていただけで……。 俺がショックだったのは俺を抱いた相手が城だったからだ。 誰がどう考えても、俺があんたを抱く方が自然じゃないか……。 あんたが好きだったからこそ、俺はショックだったんだ。あんたに無理にされた事を怒っているんじゃなくて、あんたの腕の中で女の様に喘がされ続けたと言う事が、男のつまらないプライドをちょっとだけ傷つけただけなんだ。 それだけが、今の俺を躊躇させている。 あんたに会えて嬉しいと、そう素直に言えなくしているだけなんだ。 だけど……だけど……。 城はもうぴくりとも動かず彫像のように冷たくそこにあるだけだった。 「お前を傷つけたお詫びに……もうお前を解放すると約束しよう。お前はいつここを出ていっても構わない」 待ってくれ……勝手に独りで結論を出さないでくれ。俺が何も言えないでいるうちにどんどん変な方向に話がいってないか? |