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Coming Out of the Sun |
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しかも周りに聞こえているのではないかというほど、自分の心臓の音が高速で打鳴らされている。『はぁはぁ』と過呼吸になりそうな自分の呼吸をなんとか理性で『ふぅーふぅー』深呼吸に変え、少しだけ冷静になれたがはっきりいって平常心には遠すぎる。 このサングラス男は自分を迎えにきただけで決して拉致されたわけでもないのに、何をそんなに過剰に不安がっているのか? 駐車場から直接入り込む豪奢な黄金に輝くエントランスに俺はサングラスの男に降りるように丁寧に促された。どちらかというと彼の俺に対する態度は慇懃無礼に近い感じだ。 そうか、こいつはただのボディガードか……俺は彼のガタイからやくざだと勝手に勘違いしていたので、ほっと一息つく。 「こちらのエレベーターは志月さまのお住いの直通になっておきます」 彼はそうはいったが他の入り口も車も見当たらなかった。どうやら、駐車場の入り口からこの部屋専用だったようだ。なんて無駄に贅沢にできているんだろう。 「今夜はお疲れでしょうから、明日の9時頃お迎えにあがります。ゆっくりお部屋でおくつろぎください」 彼からそう言って鍵とカードを渡された。俺はとにかく疲れていたのでなんでもいいから早く横になりたくてエレベーターのボタンを無言で何度も押していた。 ところが、その時サングラスの男が思い出したように再び俺の近くに戻ってくる。 「そうそう、今までお持ちの携帯電話もお預かりするように言われています」 携帯は取り上げられたくない。なぜならまだ色々な客のデータが入っているのだ。いつか水商売に戻る時にはなくてはならないものだった。これだけは駄目もとで言い訳をするしかない。 「これは俺の数少ない私物なんだ、ないといろいろ困るんだよ」 「御心配には及びません。ないと困るような事はございませんし、暫くは携帯など私用から離れてお仕事に専念していただきたいのです。もちろん、これは研修が終わるまで志月さまの専用金庫で保管させていただきますので」 有無を言わさぬ、サングラスの物言いに俺は多少たじろぎながら小さくため息をついて仕方なく携帯を渡す事に決めた。それにしても女相手にはうまく立ち回ってきた自分が一歩ホストクラブを出ただけでこんなにも立場が変わって気弱になってしまう事がなんとももどかしい。 こんな場所でもめても埒があかないし、とにかく酷く精神的に疲れていた俺は諦めて黙ってサングラス野郎に俺の携帯を渡す。 ちょっぴり納得できなかったが、一刻も早く自分の部屋で休みたい……それしか考えられなかった。 俺の乗り込んだエレベーターには階数が書かれていなかったから、高速で上昇する音の割にやけに時間がかかる気がして、俺は次第に不安にかられてきた。 こんなことでいちいち不安にかられてどうすると自分を鼓舞して部屋の鍵を開けると 、先ず目の前に拡がったのは、都内を見渡すその景色。 壁の一面が巨大な1枚の窓で他を遮るものがなかったから、まるで切り取られた空であるように拡がって。 あまりの見渡しのよさに思わず圧倒され声も出なかった。 スイートスームでもこんな迫力のある部屋に泊まったことなんかなかった。これが私物だとしたらこの部屋の持ち主は俺の想像を絶する金持ちなんだろう。 こんな場所に訳も判らない相手と住むなんてはっきりいって落ちつかない。慌てて全ての窓のブラインドを降ろして部屋を見渡すと遥かむこう側にベッドらしい物がみえる。 この時、精神的に俺はほんとうに酷く疲れていたのだろう。 引き込まれるようにベッドの上に倒れるとそのまま着替えもせずに深い眠りについた。
その時、最初に感じた違和感は微かな人の気配だった。 深い眠りの森を彷徨っていたから、俺は寝返りをうってなんとか覚醒しようとする。 次の瞬間、いきなり俺を現実に引き戻されたのは暫く上品で仄かな香水の香りと首筋に当る微かな吐息。 起き上がろうとしたが、まるで金縛りにあったように身体が動かない。しかも辺りは微かな灯りすらなかった。 何者かがぐっと俺の身体に体重をかけてくる。 叫ぼうとするがうまく声も出ない。吐息のように掠れた声で「誰だ……」 というと黙って下半身をまさぐる指で俺はパニックになりかけた。 あっというまに下半身を裸に剥かれて自分の両手がベッドに拘束されてるのにやっと気がついた。 「放せ!何をする!」 ばかな……もう契約は始まっているのか? まだ、なんの説明も受けていない。鍵を受け取ってなぜか眠気に襲われてベッドに入ったけれど 考えてみればあんなに急に眠気が襲ってきたのも不思議だった。 |