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Coming Out of the Sun |
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結局俺は数日間悩みながらもあの恐上忍の顔が見るのが辛くて、ホストを辞める決心をした。 だが、思ったよりあっさりとホストクラブのマネージャーに辞める同意をされ、今月たまたま落ちたとはいえ、ずっとこの店のNO1ホストだったのだから当然引き止められるのではと思っていた俺としてはさらに落ち込む結果になった。 私物を整理してると何事もなかったような態度で無視してくる同僚達の中で恐上だけが俺のところに掴み掛からん勢いでやってきた。 「やめるって本当ですか?」 「あぁ」 「じゃあ、松森製作所に本採用っていうのも本当なんだ?」 「そうだよ」 俺は不機嫌そうに恐上の方を振り向きもせずに言い放つ。なんかこいつに言われると無性に腹が立つのはすべてをお見通しという態度が我慢ならないからだ。俺は三流大出身だよ。どうせ、松森には縁故なくて就職なんかできないさ。しかもあっちのほうの縁故だしな。 俺は誰に言われた訳でもないのに一人で不貞腐れていた。 「すごいですね」 「まぁな」 恐上の『すごい』という誤解が少しだけ俺の気分が浮上させる。 「僕も卒業したら、松森に就職活動してみようかな……先輩は何課に配属されるんですか?」 「お前が来る頃には違う課になってるさ」 俺は事も無げに言い放った。 懐いてくる恐上がうっとうしくて仕方ない。こいつは存在するだけで俺のコンプレックスをびりびり刺激しやがるのが、どうしてわかんねーんだよ。 「待って!先輩」 そういって後を追い掛ける恐上を振り切るようにして外に出る。 いきなり黒塗りの外車が俺に横付けするように滑り込んできてピタリと止まった。 サングラスをかけたいかにもその筋っぽい男がいきなり声をかけてくる。 「志月さんですね」 「……」 俺は答えていいものかしばし躊躇する。 「先輩……乗っちゃダメだ」 背中で恐上の声がした。 まだ追ってきたのか?俺は思わずやけくそで「そうです」と答えていた。 冷静に考えれば恐上に掴まった方がずっと危険が少ないはずなのに、俺はサングラスの男の 「じゃ、乗って下さい」といって手を引かれるままにその黒塗りの外車に乗り込んでしまったのだ。 車に乗ってしまってから俺は自分の浅はかさが身にしみて小さくなった。 後部座席に乗っていたのは俺だけだったから、まだ救われたが後ろから見るサングラスのガタイの いい男が妙に気になる。 「マンションまでお送りしますね」 「マンション?」 「えぇ、しばらくは私達が車で送迎させていただきます」 「会社に?それは困る」 「大丈夫、心配されなくても会社は当分出社されなくていいそうです。新人研修に行ってる事になってますので」 いってることになってるって?じゃあ、実際には行かないのか? 俺は心の中でそう突っ込んだが、この雰囲気でとても言い出せるほど脳天気じゃなかった。 車はどんどん都内の中心部を走っていく。こんな場所にいつか住めたらと思っていたような 天に突き刺すようなマンションの駐車場に滑り込んでいく。 何も悪い事をしたわけでもないのに、俺はちびるんじゃないかというほど緊張していた。 |