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Coming Out of the Sun |
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しかももっと金額が張れば冗談と笑い飛ばせるのだが、なんとも給料はありそうな微妙な金額じゃないか……。 「たしかに実は昼のお仕事の他に残業もあります。」 「残業?」 「えぇ、まぁ、いうなれば夜のお勤めです。特に志月さんにお願いしたのはそういうわけなんです。 無論、あの方がもう夜は結構とおっしゃっても本採用ですから昼は安心して勤めていただけますし」 「夜のお勤めって……まさか……」 夜のお勤めって……男相手に、この俺が? 「まさかってそんな条件でもなければ、逆に怪しい話だとは思われませんか?」 「冗談じゃない!そんな充分にいかがわしい話に誰がのれますか」 「そうでしょうか?あの方は淡白と聞いてますから、週に1度お相手をすればいいのです。それで マンションと外車3台をあの方のお相手をしている間は自由に使えるのです。しかも食事はタダでしょう? こんな美味しい話は他にないと思うんですけど」 淡白?淡白なんていえるか? 金使ってまで男とやろうっていうそいつのどこが淡白なんだか? 「でも怪しい、条件は本当はこれだけじゃないんじゃないですか?」 俺の声は多分震えていたに違いない。正直いってこれ以上聞くのは危険だと俺の本能が告げていた。 「まぁ、たいしたことじゃありません。契約が続行されてる間は恋人を作らない事、 そしてもちろん、他の者と性的な交渉を持ってはいけません」 「それだけ?それだけじゃないでしょう?」 俺は不安にかられて畳み掛けるように下村に食ってかかる。それだけじゃ囲い者として当然の条件だ。一瞬の重い沈黙の後、躊躇を感じさせない強い口調で下村は断言した。 「……たしかにそれだけじゃないですが、全然たいしたことじゃないですよ」 「ほんとうに?」 俺の訝しそうな様子に下村は苦笑しながら答える。 「……夜の事なんですが、あの方がいらっしゃる時に電気を消して欲しいのです。 そして聞かれた以外は質問したりしないでください」 「どうして聞いちゃいけないんです?」 「あの方の個人情報を知られたくないという事もありますが、一番の理由はあのお方の趣味だからです」 「趣味?」 「暗いところがお好きなのです。そしてあまりお話をなさるのも得意ではないのです」 「話もしないで顔も見ないで夜の相手をするのですか?別に僕じゃなくてもいいのでは?」 「いろいろ候補は考えたのですが、村上さん、あなたが適任ということなのです」 いきなり志月さんから村上さん唐突に名字に呼び名が変わった事に気がついて俺は少しだけ戸惑っていた。 今までの俺なら間違いなく冗談じゃないと断っていただろう。 しかし今の俺は確かに普通じゃなかった。 ホストの仕事というのは金にも魅力があったが、他の追随を許さぬナンバーワンホストというのが俺のプライドを心地よくくすぐっていたのだ。 それなのに恐上忍が来てからは毎日彼の態度に戦々恐々としてしかも、今夜はプライドをいたく傷つけられたのだ。きっと彼に余裕がありすぎるのがいけないのだろう。 顔も背丈も育ちもそして学歴も何一つ彼に勝てるものなど何もなかった。 もしも、ホストをやめて俺がこの松森製作所に本採用されると知ったら恐上の奴はどんな顔をするのだろう? 愚かしいことにその時の俺は恐上の鼻を明かしてやることで頭がいっぱいになっていた。 「つまり部屋代とか食事代とか車代とかは別にして25万円を月々受け取れるんですね?」 それだけあれば、そんなに生活を変えずに生活できるだろう。貯金も5000万程貯まっていた。金なんか今の俺にとってそんなに魅力のあるものではない。そんな俺の話ぶりはすでに乗り気だと下村に思わせるのに充分だった。 「そうです。あのお方との関係が続いてる限り、光熱費や燃料費など一切不要です。 もちろん、その関係が解除されればお部屋を出ていただき、お貸しした鍵やカードも返していただきますが、 我が社には格安の独身寮もありますので、御心配には及びません」 下村は俺が受けると判断したのか上機嫌でお茶を出すように電話で指示している。 「決して村上さんにとって悪いお話じゃないですよ。いつから来られますか?」 「いつから?」 「我が社としてはすぐに契約していただきたいのですが、村上さんも今のお仕事を円満に退社していただきたいですから、一応1週間後ということでいかがですか?」 いかがですか?と聞かれても相手のあることだから簡単にはいとは言えず、 「改めて電話させてください」 といって勧められたお茶も飲まずに会議室を出た。 すでに深夜でありながらちらほらと部屋から明かりが洩れている。 ここが日本で有数の大企業であることは間違いない。しかしこれで本当によかったのだろうか? |