遥か日輪の彼方に2

Coming Out of the Sun


 「志月さんっておいくつでしたか?」

 そう俺に切り出したのは最近よく俺を指名する下村とかいう男の客だった。まぁ、男性客は最近珍しくもないが、彼は他の男性客に比べて俺の顔やがたいをじろじろ見たりしないのが、まぁ異質だった。だしかにうちの店はホストクラブでゲイバーじゃない。客なら女の方がいいにいいに決まってるが、恐上に追い上げられる売り上げ高の事もあるから、正直自分から客の好みなどいえる余裕が今の俺にはなかった。

 「今年で23才になりますが」

 下ネタじゃなけりゃ多少のプライバシーの詮索はこの際我慢しなければ客商売じゃないだろう。 相手はおやじだ。性交渉なんかはできれば勘弁して欲しい。

 「じゃあ、まだまだきちんとした職につくことは諦めていらっしゃらないでしょう?そういう事はお考えになったことはあるのでしょう?」

 品がよさそうにみえるがこいつの目的はなんだろう?俺は少しだけ身構えた。

 「まぁね。でもこの就職難でしょう?僕みたいな三流大出身はね」

 自嘲するように俺がいうと彼は俺の前にさっと名刺を差し出した。

 「松森製作所……御存じだと思いますが」

 御存じも何も上場1部でしかも子供でも知らない者はないほどCMを流してる有名企業だ。

 「……はぁ」

 彼の意図が解らなくて一拍おいてから曖昧に答える。

 「ここの企画部に入ってやり直してみる気はありませんか?」

 彼は声を更に低くして俺の様子を窺っている。

 「え?でもどうして僕なんですか?いくらでも一流大学から入ってくるでしょうに」

 「まぁ、ちょっと訳ありでね。話だけでも聞いて貰えます?」

 向こうの席から観葉植物越しに恐上が訝しそうに俺達の様子を窺っている。何か親密そうな俺たちの話に感のいいアイツは他の客にない何かを感じたに違いない。そんな忍をみて俺は少しだけ溜飲を下げた。

 「えぇ、もちろん」

 しかし、詳しく話を聞くとそれはなんとも怪しい条件だった。

 

 

 一、 月給は25万円諸手当付き。

 二、所属は企画部第2企画課本採用

 三、住いは新宿アルカリナマンションの最上階ワンフロア無料貸し付け

 四、車は駐車場に入ってる3台の車を自由に使って構わない。

 

 

 

 「いかがですか?」

 「いかがですかって?なんかあるんですか?これ?」

 「志月さんがもし興味があってもっと聞きたいなら、場所を別に変えて詳しくお話しましょう。 他言無用でお願いできますか?」

 「じゃあ聞くだけ……」

 普段ならこんなにも馬鹿げた話をまともに聞く訳がなかった。しかし今夜の俺は 普通じゃなかった、トップの座を落とされ、恐上に客のネタの為にキスをされるなんておちょくられ……本当に何もかも嫌になり自暴自棄になりかけていたのだ。

 そこに降って湧いたような一部上場企業の本採用の話は怪しいと訝しがりながらも取りあえず  話を聞くだけならと、俺に思わせるのに充分魅力的だった。

 俺が下村に連れていかれたのは間違いなく今、その流線形の美しさが話題になってる松森本社ビルディングだった。ここの最上階はいったい何階くらいあるんだろう?きょろきょろと辺りを見回す俺に下村はさも可笑しそうに笑いながら 名刺を差し出す。

 松森製作所企画部部長 下村秀樹と書いてあった。

 地上10階という中途半端な階の直通エレベーターで通された会議室にカチリと鍵がかけられる。

 「ここからのお話はもしお受けにならなくても秘密を守っていただきます。よろしいですか?」

 「そりゃあ、もちろんです」取りあえず話を聞くだけだ

 「実は先程の条件の他にうちの取り引き先企業の接待に使うための特別なカードもお貸しします。 これは月に100万円までなら提携のレストランで食事ができますし、アルカリナマンションのお部屋にデリバリーも可能です。」

 「なんですか?それ?」

 俺は鍵をかけられた事を含めて不安になってきた。それって美味しすぎて逆に怖い!

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