遥か日輪の彼方に2

Crocodile tears 4



  城は酷くバツの悪い顔をしながら、
 「前に志月のホストクラブで何度かそのレイって人にあった。志月が相手してくれない時、誰もヘルプを付けたくなくて一人で待ってると、時々、噂が聴こえてきて……」
 と言葉を濁した。
 「だ、誰の噂?」
 聞かれて困るものが、今さらないはずなのに、今夜は城が男っぽく見えて責められてるみたいでドキドキする。
 「もちろん、そのレイって人に決まってる。私には綺麗な女の人にしか見えなかったが、彼女等の話を総合すると何人かあそこのホストも喰われていて、みんなそんなニューハーフにバックやられたなんて恥ずかしいから大っぴらには言えないけど、お気に入りのホストが喰われないように気をつけろとか言っていたような気がする」
 全く、女ってのは憶測で恐ろしい噂をしやがる……だけど女にしか見えないって本当にあのバーテンだろうか?確かに肌は綺麗だったが。
 「同じ人かな……女装するとか言っていたけど……。でも、そんな感じに見えなくて……。確かに整った顔だちはしてるけど、上の中っていう印象で華奢だけど女性には見えなかった」
 レイさんは優しげな清潔そうなイメージしか残ってない。女にしか見えないって化粧をすると変わるのだろうか?それにタチ喰いって……。
 「そうだと思う。ごめん、疑って悪かった。カウンターに座ったって言う事は、志月の言葉が嘘じゃないって事だもの。好きになると小さな事でも嫉妬してしまうんだ。でもね、私達もう夫婦みたいなものだろう?志月の気持ちを束縛したくないから、籍に入れるのはまだ早いとは思うけど」
 籍って結婚?城の真剣な気持ちは嬉しいけど、日本じゃ無理だろう?
 「籍?男同士で?」
 「養子縁組だよ。私はすでに他人の籍に入ってしまった人間だ。そしてその時に受けた様々な事がトラウマになってまだ、残ってる。そんな私だけど、それでもいつか志月が私の全てを許して受け入れてくれたらって思ってる」
 許すなんて……城は俺みたいな半端な男には勿体無いくらいなのに。それに女からは何度か そんな熱い思いを打ち明けられたけど、城にいわれるとどうしてこんなに心臓の鼓動が高鳴るんだろう。
 「なんかプロポーズみたい」
 深泊数も急速に上がるからテンションもあがってつい妙な事も口走ると城は困ったように微笑んだ。
 「プロポーズなんだが」
 城ってまじめにずれた事をいう。だけど綺麗な男は拗ねても様になる。反則……。
 「え〜〜。本当に?嬉しいけど、男同士でやっぱり抵抗がないっていえば、嘘になる」
 俺の顔を弾かれたように見つめていやいやするように頭(かぶり)を振った。
 「そう……やっぱり志月はいつかは女と結婚したい?自分の子供が欲しいって言うのは自然な感情だから」
 そんな諦めてしまうようなことを簡単にいうなんて。それってまさか……籍なんて言い出しておいて本当はもう俺なんかどうでもよくなってるわけじゃ……
 「そんなことはない、そんなことじゃなくて俺が年下だけど、男としては対等でいたいって言うか、従属されるのはいやだっていうか」
 「今までだって私達は対等だった……違うか?従属なんかさせてるつもりはない。志月が私を受け入れてくれてるのも、無理にじゃないはずだ。不本意でもそれは私のトラウマを慮ってなんでしょう。ただね、私の志月が水商売みたいに赤の他人に奉仕するような仕事をするのが嫌だって思うのは私が我がままだから?恋人なら自然な感情じゃないか?志月は他の仕事は嫌なのかい?」
 城のいうことは正論だ。だけど感情がついてきてくれない。
 「他の仕事なんかやったことないし、企画室って楽な仕事だけどやりがいを感じない。第一、本来上司のはずの課長も部長も俺を部下として扱ってない。俺はいてもいなくてもいいお客さん扱いだ」
 城の瞳の色が優しいから俺は、ついつい愚痴だと思いながら話し続けた。
  「結局今の俺の立場って城の女みたいで……囲われてるっていうか役立たずって言うか、なんていっていいのかわかんないけど、城の帰りをただ待ってるだけっていう役目が辛いんだ」
 そう、城にとって俺は替えのきく存在でしかないのだろうか。もしそうだとしたらあまりに辛すぎる。だって、だって俺はもう城以外の誰かの傍にいるなんて考えられなくなってるから。
 「もし、そんな寂しい思いをさせてるのなら私の責任だ。男にとっての仕事や居場所は大切。それは認める。それに最近ずっと帰りが遅くて寂しい思いをさせたのも悪かった。だけどね、こんな事いうと不謹慎だけど、志月が待っててくれると思うと嬉しかった。でも志月の心の負担になってることは私にとっても不本意だ、志月の問題は僕にとっての問題だから」
 城の優しい声が俺の心を解す。
 「ん……」
 「私が最初に惚れたのは志月のホストとしてのプロのサービスだ。かなわないと思った、そして凄い……って。さすがカリスマ……NO1といわれた志月だ。極めた技に感服した。そんな天の上の輝く星に見えるお前を独占したかった。お前だけに振り向いて欲しかった。どうかな、そんな志月が私だけのホストになってくれるのは?」
 諭すような優しい言霊。これじゃあ、俺が小さな子供になったみたいじゃないか。不本意だけど、胸が引き絞られるように切なくって嬉しい。
 こんな複雑な感情はやっぱり俺には上手に説明できない。城相手にホストのプロとしてのサービスを提供できるかは正直不安だ。
 「……うん」
 なにが『うん』なのか自分でもわからないけど、城が俺が説明しなくても分かってくれてる気がする……年上の余裕。
 俺の方が甘えるつもりじゃなかったのに、俺が城を甘えさせてやりたかったのに、これでもやっぱり俺はホストに徹しきれない。でも、ホストで培った、憩いの時間は提供できるだろう。それが俺の天職ならば……。
 「じゃあ、その事は今夜はもういいね?志月は僕に抱かれるのはそんなに嫌?」
 「嫌じゃない。でもずっと自分が女が恋愛対象だと思っていたし、組み敷く側の人間だと思っていたから違和感はある」
 「あぁ、さっき話していた、「タチ喰いのレイ」さんの話に戻るんだけど、件の噂には他の話もあってね。 女の振りで男を口説いて組み敷いちゃうのと、売り専に行ってわざわざ『タチ』専用のボーイを買って それもやっぱり……」
 「バックをいただいちゃうのか?」
 「そう、それで行儀が悪いという意味の立食いとかけてるらしい。でも私は彼の気持ちが少しだけ解る」
 「どういう風に?」
 城の横顔に微笑みかけると城も柔らかい微笑みを返してくれる。
 「彼も華奢で小柄で女顔……だからこそ、男っぽく生きたいって思うタイプと このままでいいやって諦めるタイプいっそ楽しむタイプといろいろいるだろうけれど、 彼も僕も最初のタイプなんだ」
 「城ってそうだったんだ」
 意外……悪いけど。
 「ところが、まだ精神が安定しない若い時、まして幼い時に女扱いされちゃうと、もう普通の男じゃ満足できない。たとえば自分より逞しくて強そうに思える男じゃないと ダメになってる。志月もそう。外見は十分男っぽくて格好いい!だからこそそんなコンプレックスは感じないと思うけど、僕らみたいなのは、男としてうまれて、あまつさえ男しか愛せないのに、なまじ男臭くない容姿をしてるばかりに心まで女だと決めつけられる。そうして何重にも傷ついていくんだ」
 城の心の傷を癒せる事が俺に本当にできるのだろうか?
 「そうだね。城を抱きたいっていた癖に俺も城が年上だからって甘えてた」
 「嫌いになるか?私の事」
 「まさか……もっと好きになったかも」
 「じゃあ、それを証明してもらおうかな」
 なんか誤魔化されてるような気がする。
 「嫌じゃないね」
 そういって城の指がそっとカットソ−の上から乳首の膨らみを捜すようになぞっていく。
 「ここを触るとスイッチが入ったみたいに志月は大人しくなる」
 そんな事を嬉しそうにいうなんて……だけど何をいわれてももう、触られている部分だけに意識が集中し少し気持ちを緩めると女みたいな喘ぎ声で。
 「き、城、きづくぅ〜〜」
 頼むからいきなり鬼畜モードにならないでくれ。
 「大丈夫……怖がらないで感じるままに声を出していい」
 そういうと城はあれよあれよという間に俺を裸に剥いていた。
 
 
 
 

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