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結局こっちの話にもっていこうとしてるじゃないか。
俺は思わず予防線を張った。
「え〜そんなおかまなんてする変態にレイさんは見えないよ」
「変態って……。結構、非道な差別発言を志月さんはなさるんですね」
そういいつつ、レイさんは傷ついてるようにはちっとも見えない。
「許してやってよ、レイさん。志月さんはまだ、幼いんだって」
「たしかにね!」
なんか嫌な予感がする…こいつ、また俺をネタに遊ぶ気だな…そして嫌な予感ほど、不思議とよく当たるものなんだ。
「な、なにが……」
レイさんは余裕の笑みを浮かべている。
「今夜は慌ててお出かけですか?後ろの寝癖がひよこみたいで可愛い」
「え?寝癖?」
確かに慌てて出てきたけれど、そんな失態は今までなかった。
手を後ろにかざすと確かに違和感が…… 嘘だ!俺とした事が。
「どうして教えちゃうのさ。黙ってたらわかんないのに」
悪戯っぽく笑う恐上を後ろからぽかりと殴ってそのショットバーを飛び出した。
この俺がよりによって、よりによって、寝癖かよ〜〜〜〜!!!!
会計をしていない事に気がついたのは、恐上が追ってきても追い付かれないように
必死に走った随分後だ。
そう……振り返っても、あの店がどこだったか、しかも店名すら覚えていないのだ。
……最悪。
無銭飲食したくなければ、恐上に連絡するしかない。しかも恐上の携帯なんか知っちゃいなかった。
何度か、無理矢理名刺を渡されたが、すぐに処分したはずだ。
彼の前で処分するほど大人気ない事はしなかったけれど。
つまり従兄弟の恐神か、城に聞かなくてはいけないと言う事なのだ。
タクシーを拾ってマンションまでいくのは簡単だが、どうも気がすすまない。
今、何時だろうとポケットに手をやって、ようやく携帯をベッドに投げ捨ててきた事を思い出した。
今は何時だ?
もしかして城は帰ってる?
俺はすぐに手を上げてタクシーを停めた。
マンションの一階は、レストラン街、2階はブティック。そして3階はカリスマなんとかがいる美容室が
入っている。
4階以降には英会話教室やら、オフィスが入っているらしいがちゃんと確認したことはない。
時間帯によってはエレベーターは結構込み合っている。
住居用専用のエレベーターは少し離れた場所にあるが、いつもはそんなに距離も気にならないのに、
なぜか今夜は長い道のりだ。
シャッターに描かれたイラストだって普段はちっとも目に入ってこないのに、
こんな夜はどれもうるさいくらい主張を繰り返す。
なぜだろう……自問する閉鎖されたエレベーターの中でからだが持ち上がる瞬間、ぐぅっと胃液が上がってきた。
思い出せば夕食も取っていなければ、酒だって碌に飲まずにどの店も出てきたのだ。
『チンッ』
と到着の音で重い足を引きずるようにして厚い緞通を踏みしめる。
ドアに手をかけるとやはり鍵はかかっていなかった。
「お帰り」
抑揚のない小さな声。
不機嫌な時の城の声だ。
「ただいま」
「携帯がベッドにあったよ。心配するから、携帯は持って出かけてくれる?」
「うん」
「どこに行ったか、聞いていいかな?」
言葉尻は柔らかいが拒否など許さぬ怒気がこもっていた。
「さびしかったからちょっと飲みに」
「恐上からメールもらった。彼が奢るからバーの会計は気にしなくていいって言ってきた」
あぁ、最悪。
「そう」
「なぜあいつに奢らせる?カードは亡くしたの?」
ついに切れたな。 当然だけど、逆なら俺だって切れてるもんな。
今まで惚れてない女には嘘臭い
科白がいくつもストックされて次々飛び出してくるのに、城には胸が押しつぶされそうに苦しくて
当たり前の言い訳すら上手く出てこない。 どんな言葉だって人の作った言葉なら嘘臭く感じてしまうから。
「わかった」
こんなこといいたくないのに。
ちゃんと謝って言い訳したいのに。
「恐上とどうして一緒に飲んだりした?あいつが志月に惚れてるって知ってるんでしょう」
「ごめん」
本当にごめん。この言葉だけひねり出すと俺はもう何も言えなくなった。
「不満があるなら恐上に言わずどうして直接言ってくれない?」
いえない。
いえるもんか
幼い子供じゃない。
まして女じゃない。
綺麗な城に甘えたりしたら、俺は一生城を抱けない……そんな気がして。
「言えない?」
後ろからそっと城が俺を抱き締めてキスをする。
「言えないならお仕置きかな」
「……俺は女じゃない……」
「知ってる……当たり前だ」
「俺も城を抱きたい」
すっと抱き締められていた背中の温もりが消え掴んでいた俺の肩から
ぽそりと掴んでいた手が落ちた。
「ずるい……」
「なにが?」
「そうだよ、志月はずるいじゃないか……抱きたいってどういう意味?私が志月に抱かれない限り、私達は本当の意味で結ばれてないって事っていいたいのだろうね?それって私達の関係が完結されてないっていうことか?それなら無理にでも私の身体を自由にすればいい。志月になら私は抵抗しないんだから」
「ごめん、そういう意味じゃない。抱きたいけど城の心の傷を思えばそんな……無理矢理なんてできるわけないじゃないか」
「そうだ、私は子供の頃の心の傷をかかえてる。でもそれはまだ、かさぶたになって癒えかけてるけど直ってなんかいない。未だに中はぐじゅぐじゅしてる。
だけど、それより今、志月に付けられる傷はもっと深い。かさぶたを無理矢理剥がしてその上、抉られてるみたいだ」
「それって俺がわざと城を傷つけてるって意味に聞こえるけど?」
「そうだよ。最近なんか不満そうだった。それなのに、私には何も話してくれない。
私が帰ってくる時間めがけて他の男と夜遊びはする」
「他の男と夜遊びって、まさか恐上の事?」
「言うまでもない、まさか他にもいるのか?」
「酷いな違うよ、恐上とは本当に偶然あった。たまたま入ったショットバーで、そうだ、そこのバーテンダーのレイさんが偶然だって証明してくれるよ」
「ショットバーに勤めるレイって、「タチ喰いのレイ」って呼ばれてる女装した人じゃないだろうな?」
「あ、もしかしたらそれかも……女装が趣味みたいな事言っていたし。でも何?その「タチ喰いのレイ」って?」
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