遥か日輪の彼方に2

Crocodile tears 2



  「だって志月さんの全てはあの方のモノなんでしょう?」
 「確かにつきあってはいるけど、そこまで束縛されてるわけじゃない」
 そう……。
 俺達はそこまでステディな関係ではない。
 対等な関係なら俺だってこんなに不安にならない。
 今の俺には自分に自信を持てるものが何もなかった。
 城は俺を好きだと言って可愛がってくれる。それを微塵も疑ってる訳ではないが、 人の心は変わるものだ。
 いつか、城に他に好きな人ができたりしたら、 俺のような立場の弱いものはどうしたらいいんだろう?
 仕事場は確保してくれるという約束だけど、もしも城との関係が壊れたら、 ビジネスライクじゃないだけに城の世話になりたくないと思うだろう。
 関係が終わってまで城の庇護の元にいるなんて嫌すぎる。
 俺だって一応男だ。城を好きだと言う気持ちの前に 自分の足で立っていたいと思うのはわがままなんだろうか?
 「志月さんって最近ますます色っぽくなりましたよね」
 恐上の指がそっと俺の頬に触れた。
 「どうして俺達、城さまと志月さんが出会う前にもっと早くに出会わなかったんだろう」
 恐上はふ〜っと深いため息を落とすと俺に顔を背けてマスターに話し掛けるように言った。
 「たしかに恐上さんもNO1ホストだけあってすごく魅力的ですが、志月さんは別の意味でフェロモン出しまくりですね」
 「そうそう、志月さんの魅力、レイさんも解ってくれる?」
 「えぇ、もちろん。男顔してるのにこういう、可愛いタイプはたまらないですね」
 なんという恐ろしい話題なんだろう。知らなかったがここはゲイ用のバーなのか?
 「俺だってあの方に負けないだけ志月さんを愛しているのに」
 ばかかこいつは?ジョークでも不愉快なんだよ!
 自分が俺より随分モテルと思って余裕をかましやがって。
 「おい、変な事言うな。俺まで誤解されるだろう」
 「誤解って?」
 「俺はもともと、女の方が好きなの。あの人は特別」
 「たしかに城さまって女顔だよな。そっか志月さんが抱かれてるわけではないのか」
 「おい、その話題はもうよせったら」
 「でも志月さんて男をそそる感じですね」
 グラスをきゅっと言わせながらマスターのレイさんがそんなことをぽつりと言い放つ。
 「やだな、やめてくださいよ。マスターまで、落ち込んでる時にさらに落ち込んでしまいますから」
 グラスを拭く手をとめてレイさんが不思議そうな顔をしていう。それから柔らかい笑顔で俺の目をジッと見た。
 「言って楽になるなら、なんでもお聞きしますが」
 「楽になるのかな?」
 そういうと二人は呆れたように無言でレイと恐上が志月の顔を覗き込んだ。
 「言っても仕方ない。これは俺の問題だから、俺がどうやって自立するかっていう」
 「城さまは、自立なんて許可されるのかな?志月さんが何が不満なの?」
 「不満がないのが、不満だよ。真綿に包まれて守られているみたいなのが嫌なんだ。
 俺は普通の男だよ。自分の力を試してみたいって思うのはおかしなことかな? こうして城の庇護の元でぬくぬくしてるほうが、おかしいよ」
 「じゃあ、志月さんは自分が何ができると思ってるわけ?」
 なにって……
 「志月さんのやってることって城さまの気持ちを安定させて、お仕事のバックアップも志月さんしかできない立派な仕事だと思うけど」
 慰めてくれる方がこの場合惨めになるんですけど。それにお前年下じゃん。
 レイさんは、俺がイライラしてると思ったのか、小さなクリスタルの皿にベルギーチョコをいくつか乗せて俺の前に置いた。
 だから〜〜〜、俺は女じゃねーっちゅーの。
 「たしかにあなたに向いてるのは水商売だと思いますが、それじゃあ、あの方が納得されないでしょうね」
 あの方っていうのが城を指しているのがよくわかる。思わず俺は不機嫌に。
 「どうしてそんな裏事情までレイさんが知ってるんだ」
 そのとたん、レイさんはにやりと悪戯っぽい顔をした。
 「私と恐上くんはセフレだから」
 「は?は〜〜〜?」
 よく聞こえなかったような。っていうか耳が聞くのを拒否したような。
 「レイさん、そんなこと志月さんみたいなうぶな人に吹き込むのは反則だよ」
 「そうかな?何も言わずに志月さんに迫りまくる方が反則のような気がする。寝物語に何度も聞かされたんですよ。僕らに恋愛感情はないから、ここでは僕は男言葉だけど、普段は女の格好してるんです。だから 前に志月さんのホストクラブに行った事も志月さんは覚えてないんでしょうね」
 俺は卒倒しそうになった。
 だけど、まてまて、
 クラブにおかまっぽい人がくればそんな珍しい客は絶対覚えてるはず。俺はぐるぐる回る頭で考えた。
 「レイさんは女の格好をしたらちっっとも男っぽくないからね。 俺も寝るまで男だなんて思わなかったんだもん」
 俺は思考し続ける事を拒否してそのままカウンターに突っ伏した。

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