遥か日輪の彼方に11

Coming Out of the Sun


 このまま城を失ってしまう……そう思うと顔全体がぐちゃぐちゃに破壊されるのではないかというくらいの涙が流れ落ちていく。

 「志月……頼むよ。泣いてないで一言、お前が嫌いだと、もう近付くなとそういってくれ。お前に面と向ってそう引導を渡されれば諦められる気がするんだ」

 冷めた声で城がそう言うのを聞いて俺はますます冷静ではいられない。あまりに号泣しているみっともないから

 「嫌いじゃない……」

 咽の奥からその一言だけなんとかひねり出す事ができた。

 「でも、好きでもないだろう?」

 「どうしてそんな風に断言するんだ??どうして城に俺の心が解る?」

 少しだけ沈黙してから城は微かに首を横に振る。

 「いいんだ、志月。無理なんかしなくていい。好きだから束縛したいなんて傲慢だ。好きだからこそ相手の意志を尊重するべきだったのに私はお前の全てが欲しくて暴走してしまった」

 そういってから城はそっと瞳を閉じた。

 「志月の気持ちを確かめるのが怖かった。ホストクラブで志月に出会ってから、ずっとお前の事ばかり考えていた。義父に抱かれる時もいつもお前に抱かれてるつもりになって……義父を裏切っていた。本当は志月が私を愛してくれている……そんな妄想だけが私の暗い絶望的な日々を救ってくれたんだ。本当にそう思いでもしなければ、また私の弱い心が壊れてしまいそうだったから。愛して私に全ての財産を継がせてくれた父には悪いと思うけれど、もう、父と寝るのが死んでしまいたいくらい嫌だったんだ。」

 城は、どこか遠くを見つめるような瞳で俺の顎に指をかけ持ち上げた。

 「お前が私を嫌って避けていたのはホストクラブにいた時から解っていた。わざと私が来る時間にお客を迎えているのも……。そうだよな?女が好きなまともなお前から見たら、男の私から好意を向けられても薄気味悪いだけだったんだろう?本当はそんな事知っていたんだ。解り切っていたのに志月が俺に向ける優しい笑みに微かな希望を重ねた」

 俺より年上のくせに華奢な城はまだ10代の少年のようにも見えた。

 「それでも私は自分をどうすることもできないくらい、お前に夢中だった。だからあの時、恐神にお前とのキスを見つかって引き剥がされた時、正直言って心のどこかでほっとしていた。自分では、お前にいくらばかにされようと、惨めな思いをしようともうこの恋心を止める事ができなかったから」

 そこまでいうと城は再び深いため息をついて、諦めたようにそっと瞳を伏せ、顎にかけていた指をすっと外した。そのとたん、俺は支えを無くしたように急に心もとなくなる。城を本当に失ってしまう。

 「城……違うんだ……俺は……」

 「初めて本気の恋だったからあっという間にのめり込んでしまったし、抜け出す事もできなかった。 恋愛に長けたお前の瞳が残酷に光っていると分かっていてもそれでもいいと思っていたんだ」

 俺のことをもう諦めてしまうのか?もうお前にとって必要のない男だと。

 「お、俺だって……」

 「志月!今さら、綺麗ごとをいうのはよしてくれ。お前はいい金蔓を掴んだと思ったのだろうし、私は自分でも抜けだせない泥沼に苦しんでいた」

 城の瞳には涙が今にも溢れそうに潤んでいた。そのままの瞳で俺を睨み付ける。

  「あの直後から、毎晩のように裏切り者、恩知らずと父に血反吐がが出るまで攻め続けられた。それでも身体の方が心よりずっと苦しくなかったけどね。アイツに身体を痛めつけられた方が、お前にプライドを傷つけられると分かっていてホストクラブに行っていた時よりずっと心は楽だったよ。身体の痛みに苦しむ間だけはお前を忘れられたから」

 「後悔していたんだ。お前がいなくなってから」

 「まだ、そんな事をいうのか……残酷なやつだな……お前は!どうして私がこんなに苦しんでいるのに引導を渡してくれないんだ?金か?金なら私が自由になる分ならすべてお前にくれてやろう。 頼むからもう私に気を持たせるような事を言わないでくれ」

 あぁ……城はもう俺の言う事なんか信じてくれない。何も聞いてもくれない。

 だから……もう何を言っても無駄のような気がする。だって確かにホストクラブにいた時には、確かに城を翻弄して喜んでいたのは間違いなく俺だった。

 それは自分の恋心に自覚がなかったからだ。

 だけど、今は違う。どう説明したら分かってもらえるのだろう。城……あなたが好きだと。

 仕事と称して無理に抱かれた相手があなただから、俺は救われているのだと。

 こんな、最も大切な時に俺はどうして肝心な事が言えないのだ?

 決して城の過去を暴くような真似がしたかった訳ではないのに……。

 このままなら誤解されたままなのに。

 何も言えない自分がもどかしい。

 喉が焼け付くように乾いている。

 誰か、誰か助けて……。

 「もう、もうすでに俺の、俺のプライドもすべて城にやったじゃないか……。身体も合わせて……好きだと言ってるのに……どうして信じてくれなんだ……」

 俺はもう最後のプライドも捨ててグチャグチャの顔のまま城にすがりついた。

 「よくも私のこんな写真を持ち出そうとして……好きだなんて、よく言える。私を辱め傷つけそして脅迫しようと思っていたくせに」

 彼の怒りに紅潮した整った顔立ちが逆に魅力的だなんて思って見とれてしまう俺はなんて愚かなんだろう。

 「城こそ……酷い事言うな……俺の話……ちっともちゃんと話も聞いてくれないのに……」

 すがりつく俺をなぜか城は振払おうとはしなかった。逆にもう一度やさしく両頬をそっと手のひらで包んでくれる。

 「信じてくれよ。写真は本当にたった今、偶然みつけたんだよ。俺がこれで、こんな城の姿を誰かに晒してそれで、金儲けしようと思っていたって城はいうのか?そこまで俺を信用してないのかよ」

 城は黙って俺をみつめるだけで一言もいってくれない。それが悔しくて、悲しくて、そしてうまく言えない自己嫌悪で……どうでもよくなりかけた。

 「もう、いいよ。もういい……。城は俺を見ていない。城が見てるのは俺の幻想だ。城が作り出した。幻影だ。生身の俺なんかじゃない」

 俺たち確かに惹かれあってるのに、心はどうしてこんなに遠く感じてしまうんだろう?

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