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なぜなら、いつの間にか日中身につけていた下着を口の中に押し込まれたからだ。 腕を拘束されてるから、押し込まれたものを取り除く事も抗議することも不可能だった。 必死に足をばたつかせた事によって、逆に河本の身体を両足の中に招き入れる形になる。 初めて体験する男の無骨な指が、強引に自分の身体からパジャマを引き剥がし 裏返しにされた。 どれほど真剣に抵抗しても自分は何もできないのだと、叫んで抗議する事すら叶わないのだという現実に今まで味わった事のない恐怖感が襲ってきた。 いやだ、どうして彼は俺に暴力を奮うのか? だが、河本の切羽詰まった顔を見ているうちに、身体を拘束して裸にし、辱めるだけが彼の目的ではないことを知った。河本の瞳は冷たく輝き、吐息が熱く降りかかる。 「んん…んっ」 必死に首を振るが許されるわけもない。 「仕掛けてきたのはお前だろ?俺をなめるなよ」 違うと必死に首を振る。しかし、河本は片方の俺の足を彼の肩に担ぎ上げ、自分でも滅多に直接触れることのない場所に指を伸ばす。いったいそんな汚い場所に何をする気なのだろう? 「経験したいなら、させてやろうじゃないか。身体を繋ぐなんて簡単なことだ」 そういうといきなり秘所に指を入れてきた。 何を考えてるんだ? 俺は女じゃない。 そこは女の代わりになる場所じゃない。 どれほど抗議したくても、口の中の下着は奥まで押し込まれて抜くことができない。 痛みと違和感で俺は、見られたくないと思っていた涙を晒すことになった。 固く閉じたそこは、どんな小さなものでも今まで侵入を拒んできた。出す場所で入れる場所じゃないからだ。 それなのに河本は、指を回転させながら無理矢理突っ込んでくる。 あまりの痛みに俺は、喉の奥で悲鳴を上げた。 「なんだ、ホストまでやっておいてここに指も入らないのか?女にもやってもらったこともないのかよ?水商売していたとは、思えんな」 罵倒の言葉とは思えないほど、甘く囁く。 「力を抜けよ。無理すれば、明日から排泄どころか、立ってるのも座るのも辛くなるぜ」 ヤクザが吐くような残酷な科白に俺はますます緊張して入り込もうとする指を締め付けた。 「はぁ……仕方ないな」 河本は大袈裟なため息をはくと、指を引き抜きポケットからなにやらチューブの様なものを取り出してたっぷりと、その指にのせ、再びその指を捩じ込んでくる。 声をあげることすらままならぬ俺は縛り上げられた指の爪を掌に固く食い込ませた。 そのまま、ぐりぐりと捩じ込みながら今度は回すようにさらに奥へと指を差し込んでいく。 中にある、その場所に指が触れた時、俺はベッドの上で仰け反るように跳ね上がった。 「なんだ、感じてるじゃないか」 そのままそこを押し込むようにぐりぐりと刺激してくる。 今まで感じたことのない感覚に俺は、震えが止まらなくなる。まさか快感?嘘だ。男にこんなことをされて俺は感じているのか? 「まぁ、未経験者をあんまり長く虐めるのも可哀想だから、すぐに終わらせてやるさ」 そんな訳の分からないことを河本が、呟いたと思ったら、今まで信じられない部分を抉っていた指をすっと引き抜いた。 もっと苦痛を味合わせられるように覚悟したから、本当に呆気無く終わって拍子ぬけしたような奇妙な感覚に とらわれる。 ところが、やっと引き抜かれた場所をなんともっと、太くてぬるっとしたモノが入り込んできた。 嫌だ……まさか…… そのまさかだった。 信じられない。 嫌がらせにしても限度を超えている。 絶叫すらできなくて、俺は、狂ったように身を捩る。 だが、拘束された両手首と彼のかけられた体重に じゃまされて、抵抗なんかしていないに等しかった。 それは、容赦なくめりめりと襞をかき分けて奥に捩じ込まれる。 仰け反らせた首に噛み付くようなキスをしてから、やっと口の中に入れられていた下着を抜かれた。 すぐに抗議しようとした言葉は、彼の口の中に消え、俺の口の中を彼の舌が縦横無尽に暴れ回る。 その間も、河本は、俺の感じる場所を探すようにぐりぐりと中を抉り、片方の手は、自分でも碌に触れたことのない胸の突起にのばされた。 まさか、そこが、そんなにも欲望のスイッチを押す場所とは知らなくて俺は、必死に身体を強張らせながら、後ろで繋がっている彼を締めつけた。快感のあまり全身がびくびくと痙攣を起こしたように震えている。 今まで俺が女としてきたセックスが、どれほど拙いものだったかを身体で思い知らされてしまった。 キスが舌をしゃぶるようなものに変わっていく頃、俺は情けないことに意識を飛ばしていた。 どのくらい時間が経ったのだろう。部屋の中にはまだ、欲望の証の薫りが、辺りを覆っている。 遠くに水の音が聞こえるから、まだ、河本はシャワーでも浴びているのだろう。 嫌がる素振りでいても、あれほどまでに感じてしまった事は、男同士じゃ身体の変化で明らかで、このまま 河本と何もなかったように顔を合わすなんて不可能だ。 俺は慌てて着替えを済ますと、逃げるように部屋を後にした。明け方突然帰ってきた俺に母も亜矢も不審そうな顔はしていたが、問いつめたりはしないでくれた事に感謝する。 そのまま風呂に入って体を洗ううち、なぜか涙が出て止まらなくなった。 涙が止まらなかったのは、男として情けなかったのでも、体が辛かったのでもない。 ただ、俺はもう河本とは普通の友人には一生戻れないのだと思う気持ちが、嗚咽となって後から後から込み上げる。 こんな事になったのだから、河本とは関係のない新しい仕事を探さなければとは、漠然と感じたけれど、河本にされた暴力が辛いとは思わなかった。 逆に無理矢理されたこととはいえ、河本の丁寧な愛撫を思いだすと 逆に胸から心臓を取り出されて引き絞られているのではないかと思うほど、切ない気持ちになる。 切ない……そうだ、俺はずっと河本が好きだった。 いつもは冷酷そうに見える彼の瞳が、時々俺の姿を確認しただけで柔らかくなるのを感じ、俺は河本に少なくとも嫌われてはいないと思っていた。 ずっと親同士が対立していたせいで、少年時代も碌に口を聞いた事はなかったけれど、絡ませる視線は お互いを認めあい、いつか親同士の柵がなくなったら、友情に変化するに違いないと、ずっと心の奥で渇望してきたのに、彼との間に友情という繋がりが、永久に失われたのだとしたら、僕の心の大切な場所が、まるで花園が、荒野になってしまったような、とてつもない喪失感に苛まれていた。 それから、彼の携帯に体調が悪いから3日ほど休むとメールを入れたが、返事はなかった。 その3日を過ぎるとさすがに、母や亜矢の視線が冷たくなり、俺はしぶしぶ河本のマンションを訪れて、部屋を掃除した。 明細を見せてもらっていないから、詳しくは知らないが、多分まだおやじの借金だって残ってるはずだ。 河本の部屋の空気は淀んでいるが、ベッドは綺麗にメイキングされていて、あの日から河本も この部屋に戻っていないのだと知って、また胸の奥がちりちりした。 突然、携帯に見知らぬアドレスでメールが入っていた。 それは、河本の秘書からで、河本が当分そのマンションに戻らない事や、彼が忙しくなるので 事務連絡は、自分を通すようにと書かれている。 それを読んで、急に頭がクリアになる。 あれだけいがみ合ってきた俺達の家族の長男を、河本がこうして雇ってくれたり、部屋を移したりしたのは、実は河本が、本気で俺を辱めることそれが目的だったのではないかと。 まさか…違うと思いたかったけれど、母も妻も土地もクリーニング店も全て彼の掌中にあり、息子である自分さえもこうして、暴力的に組み敷かた事を思いだせば全てが納得がいく。 俺のことを好きだったかもしれないだなんて、俺はなんて恥ずかしい、自分の都合のよい勘違いをしていたのか? 思い上がりも甚だしい。彼の同情や憐憫を友情や愛情と勘違いしていたなんて。 こ れをもし死んだ父が見たらどう思うだろう。 また、涙が出て止まらなくなった。 こんなに俺は涙腺が弱かっただろうか?情けないと思いながら、流す涙を拭う術もない。 俺は自分が失ったものが、土地や権利だけでなくなけなしのプライドだったことに愕然とした。 やっぱり俺は心のどこかで、河本は自分に好意を抱いてくれて、自分を助けてくれたのだと思いたがっていたのだ。 だけど、彼のあの台詞を俺は根本から取り違えていた。 好きだから俺で自慰したわけではなかったのだ。 俺を、俺の家族を踏みにじって穢したかったからだったのだと、やっと気付く自分。 しかも何の抵抗もできずに、彼に対して欲望まで現していた自分。 こんな自分を粉々に千切って大平洋の真ん中にでも投げてしまいたい……微かな骨だって誰にも見つけられないように。 疲れた体を引きずるように24階の母のマンションに帰ると、亜矢が待ち構えて、大切な話があるという。 母と喧嘩でもしたのだろうか? 一日、二人で同じ家にいるから喧嘩になるのだろう? それが、嫌なら家事は殆ど母がやっているのだから、亜矢はパートでもやってくれればいいのに。 俺は先回りしながら、どうやって亜矢に外で仕事をしてもらうか頭を悩ませていた。 ホテルから程近い、小さなカフェの一番奥に俺達は席を取る。 飲み物をオーダーすると、亜矢は急に内証話でもするように顔を近付けてきた。 「なんだよ」 俺は不機嫌になる。だってそうだろう?今の俺は河本と借金の事で手一杯なのだ。 亜矢のお守までする精神的余裕なんかなかった。 |