魔鏡の輪廻 9


 

  「神威……あなたにはなんの恨みもありませんが、やはりあなたには亡き者になっていただこう」

 その一言で俺の全身からどっと汗が吹き出した。

 ユーリーが言ってることが現実に聞こえずまるでト書きを読んでいるように 白々しく感じるのはなぜだろう?

 「ど、どうして」

 「カムイとその父上が我等を封印と言う名で幽閉したからです」

 「でも、おまえはここにいるじゃないか」

 「そう、我等は一ケ所に集められ動物でもこんな扱いは受けないと言うような檻に幽閉された。 我等の種族を根絶やしにするために……」

 「そんな……」

 それは、カムイとその親がやったことで俺には何の関係もない……

 「殆ど死んだようだった我等を救ってくださったのはリョウガだ。その時私は忠誠を誓ったが、それと同時に彼に恋をした」

 そっと近寄ってくるユーリーから俺は思わず息を飲んだ。

 「何度言ってもリョウガは、あなたを諦めないようだ。じゃまなカムイがいなくなったと言うのに」

 なぜ、こいつはそんな感情の無い声でそんな恐ろしげな事をいうのか?ますます冷たい汗が背中に滲み出てくる。

 ま、まさか?

 「じゃあ、カムイを撃ったのは……」

 ユーリーを味方だとは思わなかったが、まさかカムイの命を付け狙い、あまつさえ俺の命も取ろうと考えるとは思いもしなかった。だからって俺の命がここで終わっていい訳がない。

 「その辺の弓撃ちにあの飛距離が命中するわけがなかろう。覚悟するがいい」

 ユーリーは本気だ。間違いない……俺の背中伝って幾筋かの脂汗がしたたり落ちた。こんなところで死にたくない。

 しかもリョウガに愛想をつかれたままで……。

 リョウガ……。

 「死ぬがいい!」

 ユーリーの瞳が冷酷なグレイに変わり彼の髪がまるで孔雀の羽のように彼の背後に拡がってゆく。

 そしてその髪がまさに俺の首めがけて迫り来た時だった。

 嫌だ、まだ死にたくない!

 思わず顔の前で交差した俺の腕の中心から眩いばかりの光が放たれた。

 「うわぁ〜」

 別の生き物のように畝っていたユーリーの髪は驚いたように縮まり壁際までユーリーが突き飛ばされていた。

 

 俺にも一瞬何が起きたのか解らなかった。

 だが、少なくても自分の腕が熱くなりその交差した場所から何か光のようなものが 出たことは確かなようだが、俺に今までそんな能力があったことはなかった。

 「おのれ!」

 ユーリーの瞳はさらに銀色に輝いて髪が燃えるように畝り俺の方に襲い掛かってくる。

 もうダメだ……そう思いながらももう一度今度は慌てていたので片手をユーリーの方に伸ばした。

 指先が白く輝き俺の身体から発した怒りが光となって螺旋を描きながら ユーリーに向っていった。

 俺はただそれをスローモーションのように見ていた。

 「ユーリー!」

 翻筋斗(もんどり)打って倒れてゆくユーリー、俺は俺はなんてことをしてしまったのだろう。

 慌てて駆け寄るとユーリーの額の上に何か文字のようなものが浮かんで燻っている。

 どうしよう、いったいどうしたらいいんだ。

 ユーリーは薄目をあけると何かを口の中で呟いている。

 耳を寄せてそれを聞き取ると俺はすっかり固まってしまった。

 『おのれ……化け物め……』

 化け物……?それは俺のことか?

 ユーリーはたしかにそういったのだ。

 俺は、俺の指先はいったいどうなってしまったのか?

 そのままユーリーも気を失ってしまった。このままにしておいて大丈夫なのだろうか?いや、そんな訳はない。冷静にならねば。

 頭から煙りのようなものが出ているのは、もしかして俺が放ってしまったレーザーのような光で ユーリーを傷つけたのか?

 とにかくユーリーに何かあってからでは遅い……俺はそう判断して必死にリョウガを揺さぶり起こす。

 「起きろ、起きてくれよリョウガ……大変なことになってしまったかも」

 情けないことに俺の声は上擦り半べそ状態だった。

 俺の瞳からこぼれ落ちる涙でリョウガがやっと意識を取り戻す。

 その瞬間ぐっと腕を掴んで引き寄せられたと思ったら思いきり唇を塞がれていた。

 「んん……ん……んっ」

 「カムイ……ん?……泣いてるのか?」

 やっと唇を離すと何もこの緊急事態を分かっていないリョウガが優しい瞳で俺に微笑みかけてる。

 「ユーリーが……ユーリーが……」

 嗚咽を洩らしながら話す俺の普通じゃない状態でやっと近くにユーリーが倒れているのに彼は気がついた。

 「カムイ……なぜ、ここに?ユーリーは……?いったいどうしたんだ?」

 「わざとじゃないんだ……でもユーリーが……俺を殺すって……だから俺はただ防御しようとしただけなんだ。 それなのにどうしてこうなっちゃたんだろう?」

 しかしユーリーの様子を一目見てリョウガは石になったように動きを止めた。

 「ユーリーの額にある文字は呪の文字だ。このままならユーリーは悶え苦しんで死ぬことになる。 なぜ、こんなことを……」

 もしかしたら、その呪はユーリーが神威にかけようと放ったものではないのか?

 ただ、俺はそれを撥ね除けただけで……。

 しかしリョウガは不思議そうな瞳で俺を見ていた。

 俺がユーリーを呪ったと誤解してしまったのだろうか?

 しかし、それは一瞬で彼は天井から吊るされたロープのような紐を引くと大声で叫ぶ。

 「誰か祈祷師を呼べ!すぐにだ。このままなら城にどんどん死人がでるぞ」

 「ユーリーは助かるのか?」

 「お前は本当にユーリーや我等を助けようと思っているのか?ユーリーがいったようにお前はこの世の者ではないのだな?」

 リョウガはそうはいわなかったが、ユーリーが最後に「化け物め』と言い放った時と同じような奇妙な無気味なものでも見るように顔を歪める。

 何か言わなければリョウガに誤解されたままだとは思ったが、ユーリーの状態を見て顔を強張らせているリョウガにとても弁解できるような雰囲気ではなかった。


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