魔鏡の輪廻2


 

 「カムイ……傷はいったい誰に直してもらったのだ?」

 彼の声は硬く嚇すように低く呻く。

 「傷?……怪我なんかしてない……第一、ここは天山なんだろう?どうしてお前がここにいるんだ?」

 俺はやっと頭の中が覚醒したらしい。頭がクリアになると次第に腹が立ってくる。

 「それになんだ。いきなり男の癖に人の口に……き、気持ち悪いじゃないか!」

 キスなんてはっきりいうのも気色悪い!

 第一……しばらく女の子ともしてないんだぞ!

 俺が怒りにわなわなと震えていると彼は俺の顎をとってぐいっと彼の方に向かせた。

 「変な事をいっているが、お前はどうみてもカムイだな……傷の熱で記憶を無くしたか?まぁいい、何を考えてるか解らない普段のお前より余程可愛らしいな」

 そういって再び口付けようとしてきた。冗談じゃない……俺は慌てて腕を力いっぱい突っぱって彼から逃れようとする。

 だが、彼の力は半端じゃなく強かった。さきほどよりさらに強い力で首の後ろを掴むと乱暴に上を向かされて思いきり両顎を右手で掴むとまるで噛み付くように再び唇を襲われた。

 わずかに開いた唇の端からねじ込むように乱暴に舌が入ってくる。まるで噛み付かれているようだ。

 こんな激しいキスは初めてだった。

 全身ががくがくと震え目眩がする。

 大人しくなった俺を彼はまるで軽い小荷物のようにひょいっと肩に担ぐと窓から外に出ようとする、

 外は崖じゃなかったか?

 俺が抵抗しようと蠢くと片手で支えられたまま、思いっきり鳩尾に拳を入れられた。

 ちくしょー。

 親にもこんな暴力を受けた事はなかったのに。

 残念ながら俺の記憶はそこで途絶えてしまった。

 

 

 

 意識を取り戻したのは、まるでおとぎ話の中に出てくるような天蓋ベッドの中だった。

 甘い花のような薫りが辺りに立ちこめている。遠くで小鳥のさえずりも聞こえ、俺は一瞬自分の世界に舞い戻ったような錯覚を覚えた。

 この世界で今まで体験した事のないような平和な雰囲気がただよっていたからだ。

 純白のレースが折り重なるように天上から連なり、サテン地の絹の寝具が暖かく俺を包む。起き上がって辺りを見回すとベッドの向こうに人影が揺らめいている。

 「あの……」

 俺は思わずその人に声をかける。

 だが、声の反応はなかった。起き上がって近付いてから俺は思わず息を飲む。

 その人影はなんと巨大な鏡に写った俺だったからだ。

 俺は思わず自分の姿を見直した。俺が着せられていたのはどうみても女が着るようなロングドレスのような夜着だ。

 しかも総レース……勘弁してくれ!

 俺がいくら男っぽくないからといってこんな夜着はないだろう?

 でも昔観た映画でごつい西洋の王族がこんな恥ずかしい夜着を着ていたいたのを思い出し、あまりの気色悪さに俺はその夜着をその場で脱ごうとして肩から夜着を外しかけた時だった。

 「大胆な奴だ……こんなところでそんな色っぽい真似をして……」

 俺はとたんに真っ赤になる。その声が誰あろうあの男だったからだ。

 「お前の名前は?もしかしてリョウガっていうのか?」

 「なにを今さら……さぁ、こっちへおいで。乱れた服を直してやろう」

 リョウガがそっと腰を掴んで引き寄せようとするから、俺は思わず「ひっ」っと飛び上がってしまった。

 それをみて彼は苦笑いを浮かべている。

 くっそ〜彼がキスなんかしなけりゃこんなにびくつく事もなかったんだ。

 「結構……自分でできる。それよりここは、お前の屋敷なのか?」

 「あぁ、屋敷と言うよりもここは堅固な城だと思えば好い。どんな国が攻めてきても攻略するのは先ず不可能だ。カムイ……お前は今日からここで暮らしてもらうことになる」

 ここで暮らしてもらう事になるって……なんでそんな事をこいつが決めるのだ?

 「嫌だ!なんで俺が!」

 「……俺?俺とかお前とか今日のお前は変だな……なぜそんな悪ぶった口を聞く?今のお前に選択権は一切ない。ここで命をながらえ一生過ごすのだ。私の気が引けたら少しは構ってやってもいい」

 俺の血の気が引いていくのがわかる。

 あそこに置いてきた俺そっくりの男が退院できるくらいになったら、俺はまた戻るつもりなのだ。

 一生なんて冗談でも言わないで欲しい。

 命に関わるからと思ってこんなところに飛ばされてきてしまったが、 俺はしがないサラリーマンだ。

 仕事を長期に無断欠勤して首にされればそれこそ死活問題なのだ。

 蒼くなった俺の頬を手の甲でそっと撫でるとため息をついた。

 「お前の世話はユーリーに申しつけておいた。ユーリーは故国の王子で横笛と弓矢の名手だ。 歳も近いし仲良くするといい」

 そういったリョウガの陰からユーリーと呼ばれた男にしておくのに勿体無いような美少年が現れた。

 真っ白な肌に長い銀髪切れ長の瞳。

 なにより印象的なのはつやつやした果物を思わせる薄桃色の唇だった。

 リョウガと一緒にいたから気がつかなかったが、俺の近くにやってくるとその美少年は見掛けに寄らず意外に背丈がある。

 俺だって170cm近くはあるはずだが、こいつは5cmは俺より高かった。

 「どうだ、ユーリー。これが私のカムイだ。可愛いだろう。だが、カムイに手を出したりしたら、解っているだろうな?」

 「えぇ、私も命は惜しいですし、国では妹も私の帰りを待っております」

 そういって微笑んだ顔に何か嫌な感じが漂っているのを俺は見逃さなかった。


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