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いったいどのくらい時間がたったのだろう。俺の頬をくすぐるように爽やかな朝の風が通り過ぎる。目覚めるとそこにはすでにリョウガの姿はなかった。 いつの間に移動させられたのか、 俺は以前に監禁されていた黄金の支柱に囲まれた大きな天蓋のベッドのある部屋に寝かされている。 身体を起こすと大きな姿見があり俺を見つめている俺がいる。 それはどうみても俺自身ではなくカムイに見えるのは、不思議な形に何かが編み込まれた髪型のせいでもあったのだろう。 真っ白な総レースの寝具ここが間違いなく現代ではないと俺に伝えていた。 こんな格好をさせられるのも、リョウガが俺自身ではなくカムイに未練があるからだ。 そんな事実におれの心が荒れ狂う嵐の中の木の葉のように翻弄されそうになる。 だが 昨夜、リョウガが俺をカムイの代わりに抱いたとしても、それがいったいなんだというのか? リョウガの厚い胸板や首に巻きつく逞しい腕は、今は間違いなく俺だけの物だ。たとえ心が伴わなくとも快感に身をまかせ快楽の波に溺れる事はできる。それでいいじゃないか……。 俺をカムイだと勘違いして……思い込もうとして優しく愛撫する ……そんなリョウガを思うと胸が痛むのに。心が伴わなくとも快感は確実に訪れ俺達を夢中にさせる。 リョウガ……お前はそれでいいのか?顔や身体の造りが同じでさえあれば心は別人でもそれでいいのか? それともお前の恋するカムイがお前から心を離し、他の男に心を移したから、俺はその身替わりなのか? それでもいい……そんなのは嘘だ。 悔しい……いっそカムイと全く別人ならよかった。 俺が俺の姿である限り、リョウガはカムイを忘れる事はなく、いつまでも俺とカムイを重ねてみるのだ。 わかっていても、それを自覚するのは辛い。昨夜の情事が激しかっただけに、ますます俺は絶望的な気持ちで両手で頭を抱え込んだ。 「あなたがその気になれば、あなたの強大な魔術でこの城そのものを破壊する事さえ可能だ。……たとえ禁遏(きんあつ)の呪詛を直接使わなくても今はそでにあなたがその力を有し、使える可能性があるという事実だけで充分人々を制圧し戦いを抑止することができる。つまりそれほどの可能性をあなたは秘めているのです」 だれかと思って振り返ると背後から声をかけてきたのはユ−リ−だ。 彼はどんなつもりで? 「そんなもの使うつもりなんかなければ、ないのと同じ事だ」 「そうでしょうか?思い出してみて下さい。昨夜、彼はあなたに優しくありませんでしたか?あなたはこの世界にとってあなたが自覚している以上にとてつもない財産だ。玉座、王冠や宝剣、魔鏡、勾玉の首飾り それらをすべてあわせてもあなたの値うちにはかなわない」 「嫌みか?それは」 「まさか……私があなたに対抗したり逆らう気力がなくなるほど、あなたは強大な力と権力をもっているということだ。 今まで、実質的な王はリョウガさまで、カムイは所詮お飾りにすぎなかった。だが、あなたは違う。 本物の絶対無比の魔力の持ち主で正当な王位継承者だということがはっきりした。 誰もがあなたを手に入れたがるだろう。そのうえ美しく、かつ何にも穢されていない純真無垢な方」 「誰が純真無垢?まさかいい大人の俺なんて言わないよな?俺はその辺のごく普通の男だ。魔力だってあの時、無意識に使っただけ。所詮リョウガにとって俺はカムイの偽者だよ」 ユーリーはゆっくりと出窓の真鍮飾り窓に手を乗せる。そしてのふっと深いため息をつくとどこか遠くを見るようにユーリーの瞳は遥か彼方を彷徨っていた。 「この世界でカムイさまは苦しんでおられた。代々綿々と受け継がれるどろどろとした柵に捕われ、リョウガさまに身体を開いても心を開く事はなかった。だがあなたには彼等にあった柵がない。あなたの祖母である皇太后さまもそれを守る為にあちらの世界へあなたを招いたのでしょう」 いったいこいつは俺の味方なのか?敵なのか?それすら分らない状態でユーリーの話をどう捉えていいのか、自分でも迷っていた。 「つまり俺が魔術を使えたから、リョウガは俺を必要としてるだけ……っていいたいわけだ?」 そんなの今さらだ。ユ−リ−に言われるまでもない。 「世の中には知らなかった方がよかったことがいっぱいある。例えば、私達ユーリ−はずっと人々に恐れられ、そして利用されてきた……だが私達自身に自分達の能力が利用されてるなんて露程も感じていなかった。 逆に彼等の身体に寄生し操っているのは私達だと自負していた」 「それは違ったのか?」 「そう、利用されていたのは私達だった。その時の真の支配者達が、権力者に見えるマリオネットを作り操らせる為の道具……それが私達で本当に操っていたのはお前達人間だと知った時、私達は 身動きできない状態で封じ込められていた」 「操っていたのは?」 「その時々で、王弟だったり宰相だったり将軍だったりした、だからこそお前達の身体には私達の血が綿々と流れていたのだ」 彼の言ってる事は抽象的だったが、リョウガが次の真の執政者になろうとしているという意味なのだろうということは、さすがに鈍い俺にも理解できた。 「ユーリー……いや、本当の名はシンだっけ?シンはリョウガが好きだったんじゃないの?」 俺の声はさすがに震えていたような気がする。こいつには何もかもばればれだから今さらだけど。 「好きだと思っていました。でも、どうでしょう?リョウガは我等に自由を与えた。恋など無縁の我等にも恋をする感情が解放され、感謝の気持ちも恋だと思ってしまったのかもしれない」 突然息もかからんばかりの近さにシンの顔がある。 「今ではあなたも可愛いなと思ってるんですよ。今回、あなたに酷くやられて私も一気に目が覚めた」 「はぁ?」 「あなたと私が組めば無敵です。そして私ならあなたに子供を産ませる事もできる」 「なっ……冗談じゃない……俺には一切そんな気はないから」 俺が慌てて後ずさると腰に手を置き、余裕のある表情でにやりと笑う。 「まぁ、そういう選択肢もあると言う事で。とにかくあなたは自分の価値をもう少し自覚したほうがいい」 「欲しいと思ってもいない能力を持っていてもな」 邪魔でしかない……そんなもの……俺は心の中で毒づいた。 「ここで生きていくつもりなら、持っていて邪魔にはならない……少なくてもリョウガに見放される事はないだろうね。神威はリョウガが好きなんだろう?じゃあ、きっとその能力があるうちは彼は神威をいつでも抱いてくれるさ、お前が抱いて欲しい時にいつでもね」 そうだ、きっとリョウガは俺にこの魔力があるうちは、きっと俺が望めば抱いてくれるだろう…… たとえ、彼にその気がなくても……カムイの身代わりでしかなかったとしても。 そして彼に抱かれるだけで、性欲が満たされるだけで俺は満足できるのか?所詮身代わりで、報酬としてのセックスを自覚して俺はこのまま、彼と肌をあわせていられるのか? 彼が望んでいないとしたら……、今後俺達の間で行なわれる行為は、愛の営みなんかではあり得なくて、惰性と性欲処理だけなのだとしたら。 考えれば考えるほど胸の奥がきゅんと押し潰されるような気がした。 いつかリョウガに身代わりじゃない本当に愛する相手ができた時、俺はいったいどうするのだろう? 魔力を楯にして彼にみっともなく取りすがるのだろうか? 涙がほろりと頬を滑り落ちると、後から後から止め処なくあふれ落ちてくる。 「神威……」 シンがそっと頬に手をふれる。 「神威……すまない……私は残酷すぎる事をいってしまったかな」 ばかやろう……そんな優しい言葉を心が弱っている時にかけるなんて……俺は思わずシンの胸に取りすがって嗚咽を漏らしていた。 シンが残酷だからじゃない。どんなに優しく抱かれても結局は身体だけじゃ満足できなくて、カムイに嫉妬してしまう。そんな自分の心が…… 悲しくて…… 悔しくて…… 情けなくて 本当に持て余してしまいそうだったから。 |