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カムイさえ使えなかった最強の魔術が使える?そんなもの俺は一度だって望んでいない。 俺が望んでいたのは、平穏な生活だ。普通の会社に就職して可愛い奥さんと子供。 どれほど人が羨もうとそんな特別な能力や、賞讃や財産なんか正直いって全く興味がなかった。 それを守る為に多くのモノを失う事を知っていたから。 だけど、そんなことをいう資格はもう俺には残っていないだろう。 リョウガに恋心を抱いてしまった時点ですでに平凡なんてものから掛け離れてしまっている。 リョウガは横たわるユーリーの手を無理矢理俺に握らせた。 「ユーリーの体力にも限界がある。まずはユーリーの為に祈ってくれ」 「だけど彼は俺を殺そうとしたんだ……。俺だけじゃないカムイを弓で撃ったのも彼なんだ。それなのにどうして……」 俺は必死で言い訳をした。 「たとえ、そうだとしてもきちんと生き返らせて彼に話をさせ、罪を償わせる為にも、 このまま死なせるわけにはいかない」 リョウガの瞳は真剣だ。本当に生き返らせるのはその為なのか?つい、俺は邪な事を考えてしまう。だってそのリョウガの真剣な気持ちは 俺の為ではなくユーリーのためなのだから。そして俺にはどうすればいいのか本気で解らない。 「どうしたらいいんだろう……無我夢中であの時の事は何も覚えていないんだ」 リョウガは俺を突き飛ばすようにユーリ−の前に乱暴に押し出される。 「ユーリーの為に真剣に祈れ、それくらいはできるだろう?」 俺はユーリーの手を両手で抱くように握ると瞳を閉じてそれこそ一心不乱に祈った。 このままユーリーが生き返らなければ、お前の命もないぞとリョウガに嚇されているような気分だった。 無論、そんな事は一言も言わなかったのだが。 ユーリーの細く青白い指は、生きた人間のものであるのが不思議なほどの冷たさだった。 それが、しばらく神威が手を握っているとほんのわずかずつだが、暖かさが戻ってくる。 「ユーリー!ユーリー」 それと同時にユーリーの深い悲しみと絶望の感情が握った手から俺に逆流してきた。こんなにも苦しい気持ちをかつて俺は一度だって抱いた事はない。ユーリー……やっぱり俺はお前を憎む事ができない。深い絶望に同調しながらも俺の頬を伝って何かがぽたぽたと絨毯に染みを作っていく。 「ユーリー!」 リョウガの絞り出すような声でユーリーの瞼が微かに震えはやっとわずかだが薄く瞳を開けた。 ユーリーの瞳にも何かが滲んでいた。 覚醒したユーリ−が見つめていたのは、リョウガではなくなぜか俺だった。 その瞬間、俺達はまるでひとつの生き物のように一瞬同調しあっていて。俺は一瞬何が起きたのか分らなかったが、ユーリ−の中に俺が取り込まれていくような感覚になった。 ユーリ−に許され愛され必要とされるそんな暖かな意識が流れ込んでくる。 がたんと大きな音がして振り返るとリョウガの後ろ姿が見えた。 怒ったように乱暴にドアを閉めて出ていく彼が何にいらついているのか解らない。 リョウガが思っていたほど俺の魔術の能力がないからだろうか?生まれてこのかた、意識してこの能力を使った事がないのだから、そんな事を期待されても無理だ。ユーリーの意識が戻っただけでも俺としては上出来だとおもったのだが。 それでも、何か胸騒ぎがしてリョウガを追い掛けようとすると少し前まで意識がなかったはずの ユーリーが吃驚するような強い力で俺の手を掴んで引き戻す。俺はそのまま倒れるようにユーリーの身体にのしかかる格好になった。ユーリーが微かに笑ったようだ。 「お…人好し…なんだな……神威、リョウガは何か誤解したようだぞ」 うっすらと瞳を開けてまだ苦しそうな息のままユーリーが呟く。その顔は微かに微笑んでいるように見えた。 その額についていた文字のような痣は殆ど消えている。 「だけど、僕はお前なんか……大嫌いだ…このまま見過ごしてくれればよかったのに」 リョウガの事が心配だったが、この自暴自棄の状態のユーリーをこのままにしておけない。 もしも元気になったのだとしたら、何かしでかさないかとそれが心配なのもあった。 「君を救ってくれたのは、俺じゃなくリョウガだよ。彼が君のために俺の世界まで迎えに来たんだ」 ユーリーを少しでも落ち着かせ楽にしてやりたくて俺は思わずそんな事を言っていた。ユーリーの顔が苦しげに歪む。 「私が貴重な種だから彼は生き返らせたのでしょう?だとしたらリョウガはカムイの親たちより残酷だ」 重ねられた彼の掌から深い悲しみが流れてくるそれは、俺がリョウガに嫌われた時に感じた孤独に限り無く近くて俺達の心の振り子が同調するように高鳴る。 「誰かを傷つけようとすれば、それ以上に自分も傷つく事を覚悟しなければいけないよ。 相手の心の動きは時には自分の心の映し鏡でもあるのだから……」 俺はそんな時として薄っぺらにさえ感じるような台詞をユーリーに語りかける自分に驚いていた。 だけど、その自分の放った言葉で少しだけ自分の傷ついた心が不思議と癒されるのがわかる。 それはユーリーも同じように感じた様だった。 「お前は幸せな人生を歩んできたからそんな脳天気な事が言えるんだ」 言葉はきつかったが ユーリーの声色はずっとさっきより優しくなっていた。 「今まで……自分達の繁殖のために手段を選ばなかった僕達だけど、リョウガが僕達をあの神殿の暗闇から救い出してくれた時、明るい外の世界とリョウガが交錯した。まるで神のように感じてリョウガの為に力を貸して欲しいと言った時、どんな事でもしてやりたいと思った」 ユーリ−の頬を熱い涙が幾筋にも流れて落ちる。 「そしてその時、多分僕は初めてリョウガに恋をした。身体が結ばれなくても彼の役に立ちたかった。それなのに、カムイは決して彼に協力しようもしなくて。それなにのリョウガに身体も心も愛されている。カムイは何もかも持っているのにそれで満足しない……そんなカムイが殺してやりたい程憎かった」 「だから俺をも殺そうとしたのか?」 「だけどもう、神威に逆らおうと思うやつなんかいない。どうやらお前はこの世界でもっとも 強力な魔法の使い手のようだから。格が違うって言うのはこういうことなんだ。私が本気になっても全く歯が立たないはずだ。多分私の処遇もお前次第だろう。それくらい、お前はすでにこの世界ではなくてはならない存在なんだよ」 そういうユーリーの言葉を俺はどこか遠くで他人事のように聞いていた。 やっと落ち着いた様子のユーリーをその場に残し、リョウガを捜して部屋を出るとリョウガは廊下で腕を組み壁にもたれるようにして瞳を閉じていた。 「どういうつもりなんだ?」 いきなりじろっと睨み付けてくる。 「どういうつもりって……」 「ユーリ−に殺されるとか言っておきながら、随分親密そうだったな」 リョウガの言ってる意味が良く解らない。 「親密?……リョウガが俺を連れてきて彼の為に祈れって言ったんじゃないか」 「ユーリーに誘惑されたんじゃないのか」 「な……ばかにするな」 何をいいだすのかと思えば…… 「お前ももまんざらじゃなかったみたいだな二人で随分いい雰囲気だったじゃないか」 そのままリョウガがふっと俺から瞳を外す。本当はリョウガもユーリーの事が好きだったのだろうか? だから俺を連れてきたのか?俺とユーリーの仲を誤解して嫉妬してる? 「だが残念ながら、ユーリーと肉体関係を持たせる訳にはいかない。たとえ私達の気持ちが宇宙の果てまで離れていたとしてもお前は私の伴侶になることに決まっているからだ。お前のその魔力は私だけの物にするために」 リョウガがそういうとぐっと乱暴に俺の腰を引き寄せ噛み付くように唇を合わせてきた。 カムイの代わりだとは覚悟していたけれど俺を物としかみていないなんて酷すぎる。 「やだ。よせよ」 そう言って顔をそむけ、腕を突っ張ってリョウガの身体を離そうと試みるが、リョウガの腕ががっちりと俺の首の後ろを押さえ、またすぐに唇を押し付け乱暴に唇を割って舌が入ってくる。俺の背筋がなぜかぞぞっとした。嫌悪というより欲望の欠片が俺を突き動かす。嫌なのに……こんな愛のない行為は本当は嫌なはずなのに次第に力が抜けてくる。 リョウガの力が弛んだと思ったら彼はじっと俺の顔を見つめていた。 「カムイはもう二度と帰ってこない。だとしたらお前が私の伴侶となるしかない」 その一言は、夢うつつになりかけた俺を現実に引き戻し血の気が失せた。 「俺は、俺はお前の『物』なんかじゃない」 かっとしたリョウガの眉間に皺がよったかと思うと 俺は隣室の部屋全体がベッドかと思われるほど大きなベッドに身体を放り投げられていた。 「何をするんだよ!」 リョウガを振り返ると思いっきり睨み付ける。そこに俺の意志なんか全く存在しないのか?俺がたとえ、カムイの代わりでもかまわないという気持ちは迷惑ですらないのか?俺だって生きてこれほどまでに痛む心を持っているのに。 「そんなに私に抱かれるのが嫌なら、お前のお得意の銀魔法を私にためしてみるがいい。別に誰もお前を止める事などできやしないさ」 「そんなの使った事なんかない……」 結局リョウガはカムイとそっくりの顔を持つ銀魔法を使える俺を支配すると言う事しか関心がないんだな? 「逆らうな……私は私の好きなようにやる。たとえお前に呪い殺されてもだ」 呪い殺す?俺が?リョウガを? なぜ俺がリョウガを呪い殺さねばならないのか? 「この世界の事は何も知らない。だけど男の俺がどうしてお前の伴侶にならなきゃいけないんだ?そして男が成れるのか?」 わずかにリョウガは眉を上げると口許だけ上に上げた。それは笑っているようにも怒っているようにもみえた。 「私達王族はユーリーの血を引く。少しだけ身体と心を開けば子を為す事も可能だ」 子を為す事も可能?その言葉が何度も俺の頭上を回り続ける。ばかな……俺は間違いなく普通の男なんだよ!子供なんかできてたまるか。 「俺は、俺は違う……男だ……ふ、普通の男のはずだ」 俺は女じゃない。カムイの代わりだけじゃなくて女の代わりまでさせようというのか? 「お前は幼い頃皇太后によって鏡の向こうの世界に隠された本当の本物の皇太子なんだ、俺にはお前が必要だ。 国を安定させ国民達や、他国の王族を納得させる為にも私達が婚姻関係を結ぶ事が必要不可欠なんだ。 この事に関してお前に選択肢はないのだ」 なぜ、あえてそんな俺を絶望させるような事をいうんだろう?俺はリョウガの話を遥か彼方から聞こえてくるような気がして呆然としていた。 「お前はユーリーと結ばれる事はない。全てのお前の魔力は私とこの国の為に使うのだ」 優しかったリョウガ……それはこんな理由があったから俺にもカムイにも優しくしていたのか?信じられない信じたくない…カムイの傷ついた心が俺の心にも染み渡る。だからカムイは死にたくなったのだ。リョウガが好きだからこそ、利用されるだけの自分の存在を認められなくなったのだろう。 絶望のあまり俺はもうリョウガに逆らう気持ちが失せてゆく。彼の指がそっと俺の胸の突起を爪弾いた。びくんと体中に電流のようなものが駆け回る。 「あ……」 自分でも信じられないような甘い声が洩れ、彼の親指で背後から両方の突起を前後に撫で回す。 「…お前の乳首が…立ってる……お前は本当は誰でも感じるんだろう?まぁ男ならみなそんなものか?」 思わずふるっと全身が震えた。 「嫌なら抵抗したらどうだ……それとも心は拒絶しても身体は私を求めているのか?あさましい事よ」 そんな言葉で卑しめられているのにリョウガの言葉は甘く響く。嫌な訳なんかない……リョウガが触れた場所を何度も何度も辿るように確認してその喜びに震えていると言うのに。 想う相手と身体を合わせるのはなぜこんなに俺をこんなにも何も他に考えられないほどの満足を与えてくれるのか? リョウガは俺の事などなんとも想っていないというのに。 忘れちゃいけない……カムイの代わりに抱かれている事を……。 それなのにこの快楽に溺れ、それでもいいと何も考えずにそれを貪ってしまう。 気遣うように彼が俺の身体を包み込むようにふわっと抱きしめ少しずつ身体を拓いていく。 言葉などいらなかった。 「あ……あ……あ……り、リョウガ……」 身体の形をなぞるようにリョウガの指がすべり、彼の指と俺の肌が互いに呼吸を合わせ会話する。 二人で楽器を爪弾くように一つになりながら高みに昇りつめた。 そのまま暫く二人は一つになったまま呼吸を合わせていた。優しい睡魔が俺を包む。このまま息の根が止まったとしてもきっと俺は後悔なんかしないだろう。
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