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ちらっとでも自殺を考えるなんて、もともと楽天家の俺がこんなに落ち込んでいるのは久しぶりかもしれない。 本当に……本当に心も身体も疲れてるから、このままこのベッドに寝てしまいたい。だけどこの部屋のベッドだって厳密にいえばもう俺のベッドではないのだ。 そうなのだ。俺の両親がいつか戻ってくるであろう俺の為に学生時代のまま部屋を残してくれていたけれど、本心をいえばこの部屋で暮らす気なんか全く無かった。 戻ってくる気なんかないといえば母に残酷な宣告だと解るから言えなかったけれど。 だからこそ、これは俺のベッドではなくカムイのベッドなのだ。 そう思うと目の前にふわふわしたベッドが俺を誘惑してるのに身体を横たえる事も出来ない。 カムイがすべて悪い訳では決してないはずなのだがなにもかにもイライラする。 階下でカムイの声がして2階の俺の部屋に上がってくるようだ。俺は息を詰めて カムイを待ち伏せる。一言いってやらねば気がすまなかった。 「やぁ、黙って部屋に入れてもらったよ。なんてもともとは俺の部屋だったけどね」 俺の皮肉にカムイが飛び上がらんばかりに驚いている。いきなり俺が現われたのだから当然だろう。それでもすぐに破顔して握手を求めてくる。 「君が私を助けてくれたこの世界の神威なんだね?本当にありがとう。お蔭で私はこうして無事に生きている」 うるせーよ。もうおまえなんかに感謝なんてされたくもない。 「それはよかったな、だが俺の方は無事じゃなかったけどね」 全く俺がどういう状況かなんてお前にゃ想像もつかないんだろう。 「どういう意味?」 真顔に戻りカムイの表情が強張った 「リョウガとかいう、お前の再従兄弟に好きなように翻弄されてるよ。しかもお前と勘違いされてユーリーに 殺されそうになった」 それなのにお前はのほほんと俺の両親に取り入って暮らしてやがる。 俺の居場所が無くなるほどに。だんだん俺は本気で腹が立ってきた。 「殺されそうってユーリーに?なぜ?君を?彼はリョウガを狙っていたと思ったが」 「知るか、とにかく俺は狙われたんだ、第一お前の鳩尾を狙って矢を放ったのは誰あろうユーリーなんだぞ」 「え?」 何がえ?っだ能天気な野郎だぜ。すっかり平和惚けしてるのか?それとももう俺にあの世界に押し付けて自分はもう関係ないとこのまま戻ってこないつもりなのか? 「お前とリョウガの間をユーリーが横恋慕してるのさ。それに巻き込まれて俺もあやうく殺されそうになったんだぞ。 そのうえリョウガがもう、俺を信じてくれないんだ」 「リョウガが誰かを信じるなんてあったのかな」 俯いたカムイの口角が片方だけ皮肉っぽく上がった。 その場に座り込んで俺達は今まで互いに起こった事を話し合った。驚いた事にカムイの奴は俺の世界のリョウガも誑し込んで自分の世界に戻って来たくないといいやがるのだ。
俺は一気に頭に血が昇った。それなのにカムイは追い討ちをかけるように言う。 「涼夏をリョウガの身替わりだと思って苦しんでいたけれど、私は全く別の人格としての 涼夏を愛しているんだ」 じゃあ、お前はその涼夏という医者と暮らしていこうというのか? 「ふざけるな、じゃあリョウガはどうなるんだ?リョウガの気持ちは」 俺は思わずカムイの胸ぐらを掴んで締め上げた。 「あなたには申し訳ないと思っている……。でも自分の気持ちを偽る事はできない」 ふざけるな! 「俺の事じゃねーよ。大事なのはお前の気持ちだけか?さすが皇子さまだ」 俺と命が繋がっていないのならこのままこいつを殺してやりたいくらいだ。 「お前ってやつは、まわりの人間の立場や気持ちなんかどうでもいいんだな。じゃあ俺も言わせてもらう。俺はどうなるんだよ?それより俺達がこのまま同じ世界にいれば、世界に歪みが起きるって言われたぜ。お前が帰れ!ここは俺の世界なんだから」 カムイはそのまま首を振って抵抗していた。 「 俺は殺されそうになって抵抗したら、なぜかユーリーの光りが跳ね返ってユーリーの額に張り付いたんだ。文字のようなものがユーリーの額に張り付いて黒く焦げたように燻っていた。リョウガはそれをみて血相を変えていたよ。呪われたって……城に死人が出るって」 俺がそこまでいうとカムイの顔から血の気が引いていく。 「それは真か?」 「嘘言ってどうするんだよ」 カムイはそのまま恐ろしい形相で俺の両肩を掴んで揺すぶった。 「リョウガは、どうしてる?」 今さら何をいってるのか? 「祈祷師を呼べって怒鳴っていたけど。みんなを隔離しろって」 カムイは思いっきり眉間に皺を寄せて歯をくいしばっている。そして徐に立上がった。 「くっ!行くしかない」 「え?どこへ?」 「ユーリーの呪が放たれたのだとしたら、その辺の祈祷師に食い止められる訳もない。 私がいってとめるしかないのだ」 先程までのどこか俺に遠慮したような気の弱そうなカムイはもうどこにもいなかった。 まっすぐに鏡を見据える瞳は爛々と輝いている。 やはりこいつはリョウガの事を愛しているんだ。俺なんかかなわないくらいに。 そう思うと俺の胸がきりきりと締めつめられる。 「なぜか分からないんだけど、俺の指や腕から光が出て来てそれが壁になったような気がするんだ……」 と俺は言い訳のように言いかけたが、カムイは俺をちらっとだけ見遣ると 「仮病でも使って部屋にいてくれ」 なんてとんでもないことをいいやがったのだ。 |