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Pie in the sky |
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「アムロ……」 俺が間に入ったことで二人の間にすっと冷たい空気が流れた。 そうさ、俺はどうせ邪魔者だ。 「出て行っていいのなら、僕が出て行きます。これ以上ここにいる意味もないですし」 俺が思わず出て行こうとすると翼がぐっと肩を掴んだ。 「いくな」 「放せよっ」 必死に俺が身を捩るが翼のきつく拘束する腕に身動きが取れなくなってしまう。 「翼、俺は仕事があるから、二人でゆっくりしていくといい」 「俺も、俺も……出て行きます」 俺も出ていこうとすると成ヶ澤が引き止めた。 「アムロ、お前は残れ」 「なぜ?」 「熱も下がってないのに何を言ってるんだ。第一ここを出るならきちんと話をしてから出るんだ……」 「翼さんとは何も話す事はない。もう、僕らの契約は終わったんだし……きちんと一ヶ月分のお金が いただけるなら、僕のような金で身体を売る者に何もいう資格なんてありませんよ。もう身体の隅々まで汚れきっているんだし」 「汚れきってる?女じゃあるまいに、純潔もくそもあるか!そんなことより心のヴァージニティの方が大切だとは思わないのか?とにかく二人で話をするんだ。納得するまで部屋からでちゃいけない」 そういって成ヶ澤は、外から鍵をかけた。 もう、嫌だ……自分をこの世から無くしてしまいたい。 喜んでどんな男にも腰を振っていた自分の浅ましさが堪らなかった。 きっと俺はもう翼じゃなきゃ感じない……それはもう、そういうことなんだ。 どんなに誤魔化したってわかる。俺は翼を愛してしまった。 絶対誰も好きにならないはずだったのに……。 俺を好きだといった何人もの男達を軽蔑してきた酬いが多分これなのだ。 俺には良く解る。好きでもないやつに好きだと言われしつこくされる不愉快さ…… それを翼も俺に感じているのかと思うと……胸を引き絞られるようだった。 「あっちへいけよ……近くにきたら淫乱がうつるぜ?」 鍵のかかったドアの前で俺は未練がましく呟いた。 「アムロ……」 「僕はもうアムロじゃない……」 「光輝……」 翼はそう囁いて俺を背中から抱き締めた。 「好きだ……」 嘘だろ?嘘だ……胸が、胸が痛い……俺の頭は混乱してもう立っていられなかった。 そんな嘘を言っていったい翼になんのメリットがあるんだ? 「好きになってしまった……お前を、好きになってしまったんだ。誰にも心を開かないのは 分かってる……お前に恋した男はたくさんいただろう。でも一言だけ言わせてくれ。 俺はもう、お前以外は勃たない……。他の誰かとベッドに入る事を思うだけで萎えてしまうんだ」 「嘘だ……聞きたくない!!!」 「俺が嘘を言ってどうする?成ヶ澤に愛されて俺は驕っていた。俺に夢中になってなんでもいう事を聞く成ヶ澤を心のどこかで軽蔑していた。だからこそ俺が成ヶ澤に感じてるように俺の事をお前が感じてると思うと苦しくてつい辛くあたってしまった。でも成ヶ澤が光輝が俺に惹かれているって言うんだ。もしも微かな希望があるなら……お前を失いたくない」 「だけど俺は汚れてる……翼だって知ってるじゃないか……」 「何を言ってる?成ヶ澤がいっていたろ?お前は誰かを好きになった事がなかったんだろ?だから心はヴァージンだったんだ。俺にとってはその方が大切だよ」 翼が悪戯っぽく微笑む。こんな優しい顔がこいつにもできたんだ?そしてこの優しい笑みが他の誰でもない俺にそそがれている。 「……」 胸の奥から突き上げてくるものが、涙になって次から次から溢れ出す。 「泣くな……こっちを向けよ」 俺達は本当に貪るようにキスをした。 「俺が好きか?」 「うん、好きだ」 「そうか俺もお前が好きだ……」 そういうと俺達は訳が解らなくなるくらいきつく抱き合う。そしてそのままキスを重ねて互いの身体を飽きる事なく貪りあった。 売り専以外俺にできる仕事があるのか、俺には解らない……でも、翼が傍にいてくれたら きっときっと殆どの事は我慢できる……。 根なし草だった俺も翼さえそばにいてくれるのなら、きっとなんとか暮らしていける。 俺はそう信じてそっと翼の胸に顔を埋めた。翼から男の汗臭い薫りがした。
俺はなんだかそれが無性に嬉しかった。
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