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Pie in the sky |
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「お前は男なら誰でもいいんだろう?彼なら歳も30の割に若く見えるし金はあるし 身体も鍛えてあるからな。お前にとって最高だろ?俺ももしあいつを好きになれたら楽だなと思ったこともあった。だけど無理なんだよな」 深くため息をついてから優しい瞳のまま俺の髪を弄びながら耳許で囁く。 「だけど今のお前ならノンケだって落ちるさ。可愛いし、そのエッチな細腰が最高だからな」 俺はただ黙って俯いた。何かを口に出したら胸の奥に燻っている熱いモノが迸りでそうだったから。 翼にこうやって褒められてもちっとも嬉しく無いのはなぜだろう? いわずもがな翼が俺の事を好きで褒めてるんじゃ無いからだ。翼はここを一刻も早く出たくて俺を調教しただけだ。そんな自分の成果に満足して自画自賛しているに過ぎない。 もしも俺が成ヶ澤に気に入られたら翼は無事にここを脱出して女と結婚するつもりなんだ。 そう……俺にとって何より辛いのは翼に利用された事じゃない…… 翼の結婚を思うと俺は凍てつく氷の海に縛り上げられて沈んでいくんじゃないかというくらいの 絶望感に苛まれる。 なぜだ?成ヶ澤がいるんだから、いいじゃないか?どこかでもう一人の自分が叫ぶ。お前はもともと誰も好きになんかならないはずだったんじゃないのか?恋なんて鬱陶しいはずだ……。吐く程に嫌だったはずだと。 吐き気が納まったら、今度は涙が出て止まらなかった。 「アムロ……心配するな。成ヶ澤はすぐにお前に虜になるさ。毎日お前を可愛がってくれる。 俺なんかよりずっと優しくだ。だからもう、泣くな……お前は充分過ぎるくらい様々な性技を覚えたよ。だからもう、俺はお前に無理強いなんかしない」 俺はただ首を横に振る。何も考えたく無い……感じたく無い…… 「明日には、成ヶ澤が戻ってくる。それまでもう、俺はお前に何もしないから」 それを聞いて胸が張り裂けそうになり俺は夢中で翼にしがみついた。 「……可愛いな……お前本当に可愛いよ……」 「抱いて……」お願いだ……何も考えられなくなるほど乱暴にしてくれ…… 「ばか、誘惑するなよ。吐くくらい俺の事が嫌いなんだろ?……もう無理しなくていいんだ」 そういって両手で俺の頬をそっと包むとじっと瞳を覗き込む。 「お前と暮らしたこの一ヶ月本当に楽しかった。お前の事可愛いと思っていたのに冷たくして悪かったな」 会えなくなる今になってどうしてそんなに優しくするんだ……今さら何を期待させるのか?俺なんか翼にとってただの人身御供だろう?それで罪の意識を感じているのか?残される者に優しくする方がもっと残酷だろうに……。 「アムロ……お前、噂では身体は許すけど心は許さないって聞いたけど本当だったんだな。その方がプロに徹することができるんだな」 俺はなんといっていいか解らなかったからただ、首を横に振る。 「俺も知らなかったらお前の演技に何度か本気になりそうになった。涙なんてそんなに簡単に流せるものなんだな。お前は根っからのプロだよ」 そう煽られても涙があとから後から溢れ出す。どうしてこんなに涙が出るんだろう。もう、翼にどう思われても良かった。最後にただ、優しく抱き締めて欲しかった。 「……光輝(みつき)っていうんだ……」 「え?」 「俺の、俺の本当の名前……光輝って」 きっと俺の目は縋るような浅ましい目をしていたに違い無い。 「もういいって……。それは成ヶ澤に教えてやれ、すごい殺し文句だろうぜ」 そういって俺から背を向けると何も聞かなかったように黙って荷物をまとめていた。 俺は未練がましいと思いながら背中に縋り付く。 「いいかげんにしろ」 振り返りもしない翼の声色には怒気が含まれている。 「もう何も教える事は無いっていったろ?」 縋り付く俺を思いっきり壁まで突き飛ばす。 「身体が疼くの我慢できないのか?明日成ヶ澤に頼んでくれ。俺はもうたくさんだ」 そういうとベッドの中に潜り込んでしまった。 ぼろぼろだった。誰かを好きになったり誰かに縋りついた事なんて一度も無かった。 自分が好きでも無いやつに縋りつかれた時の不快感を思いだすとどうしていいのか、気が狂いそうだ。 そんな状態で俺はとても翼の隣のベッドに寝るような気持ちになんかなれるはずもなくバスルームの片隅で丸くなってそのまま眠りについた。 目が醒めるとベッドの中だった。成ヶ澤が心配そうな顔をして俺の顔を覗き込んでいた。なぜか全身が熱くてだるい。 「あんな冷たいタイルの上に寝るから熱が出るんだぞ?翼に冷たくされたのか?」 俺は黙って横に小さく首を振った。 「そうだよな、翼はあんなに嫌がっていた俺とのセックスをお前を一ヶ月自由にさせるという条件でのんだんだからな」 そう言った成ヶ澤の少し横に曲がった口許は意味深な笑みを浮かべていた。俺は言葉として頭にその台詞が入ってきたが、理解等できる状態ではなかったようだった。 |