蒼く儚い望み3

Pie in the sky


 それからの翼との一ヶ月は思いだしたくもない。

 「お前は可愛いよ。お前ならたまったら女の代わりに抱いてもいいな」

 女の代わり……俺達にとってこんな屈辱的な言葉は無い。俺の顔が屈辱で歪むのを翼は楽しそうに見つめる。そしてすきなように犯すのだ。

 「細い腰と綺麗な肌……男でもお前みたいなやつっているんだな。だけど確かに男だ、女じゃ無い」

 そういってにやりと笑うともったいをつけるようにゆっくりと指が下がってゆく。そういう感じでその日は朝から翼がやりたい時に好きなようにやられた。 経験したこともない巧みな愛撫に自分でも信じられない切ない声で喘いでしまう。

 そう正直いって翼のセックスは巧いなどという簡単な言葉ですまされるものではなかった。今までの数々の性体験がいったいなんだったのかと思う程巧みだった。俺は時折我を忘れて獣のような声をあげ意識がなくなるほど快楽を貪ってしまう。そんな時冷めた翼の目がまるでよごれたモノでも見るように片頬でにやりと笑いながら俺を見下ろしていた。

 背筋から血の気が引くような感情の隠らない瞳。それは快楽に飲み込まれる俺をとことん軽蔑しきって冷たく光っていた。

 こんな瞳で抱かれた後、自分だけが乱されてしまう後悔で俺の僅かに残っていたプライドが引き裂かれてゆく。

 しかも翼は必要のない事は殆ど話さないタイプだった。 行為が終わるとそこにまるで人が存在しないかのようにパソコンに打ち込んだり本を読んだりして翼は俺の事は殆ど無視して1日を過ごす。 俺は今まで俺の事を気にいった奴としか寝た事がなかったから、こんなやりきれない気持ちになったことはなかった。

 それに売りの客は俺を気に入らなかったら2度と指名なんかされなかったから、こんなに悩んだ事もない。

 今まで客のひとりにぐらい例え気に入られなくたって俺を抱きたい、抱いて欲しいという次の客がいくらだっていた。それこそ湧き出る程に……。マネージャーが俺の時間のやりくりにいつも頭を悩ませていたくらいなのだ。

 こんな屈辱的な監禁生活の唯一の楽しみは豪華な食事だった。ホテルのメニューがすべて注文できたことくらい。よく、食う俺に比べて翼は殆ど食欲を示さない。その意味はすぐに身体で経験することになる。なぜならどんなに美味しいものだってあっというまに飽きがきてしまうからだ。

 だから一週間くらいたつと何もする事を見出せない俺は無性に辛くなって来た。

 何が一番辛いって翼は意外と淡白なのだ。多分翼からみれば経験値の浅い俺になんか関心がないのだろう。そんなことも俺にとってははじめてで、抱いてもらえない日など近くに寝ている翼に欲情し辛くてかなわなかった。

 「抱いて欲しいのか?男に抱かれて喜ぶなんて変態だよ」

 翼の綺麗な顔が残酷な表情で歪んでいる。

 「まず、一人でやってみせろ。それで俺が欲情したらやってやる」

 そこまで言われてやっと俺は気が付いた。翼は限り無くノンケに近いバイなのだと。

 男なんかたいして興味がないのだ。

 俺が我慢出来なくなって頼むとしかたなさそうに、セックスをする。それなのに疲れて動けなくなった俺に突然欲情し辛くなった腰をがんがんと苛んだりするのだ。

 俺はしだいに翼の後ろ姿や声や汗の匂いだけで欲情するようになっていた。

 俺に関心のない男に欲情する俺、しかも相手がその気にならないとできない欲望処理。

 俺の苦痛に歪む顔を冷たい笑みで見下ろすこの男を俺は心の底から憎み始めていた。どんなに身体が疼いても翼から求めない限り絶対に俺の方から求めたりしない。 俺はそう決心した。そうして嫌がる程翼は燃え上がるらしく、俺をいたぶるように何度も抱いた。

 一ヶ月もしないうちに俺の心とプライドはずたずたで翼を見ただけで吐き気がした。

 身体は翼を欲しがっていたが、翼が近付くだけで俺はげーげーと吐いた。 俺がトイレでげーげー吐いていると翼はさも嬉しそうにそして痛めつけるように俺を背後から抱いたものだった。

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