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なんて自分は不器用な生き方をしているのだろう? 美杉は、全てに見捨てられたような状態の自分に ため息をついた。 このままなんの反論もせずに、本当にデアコーポレーションと共に心中するつもりなのか? ……でもいいじゃないか? 俺は鹿央に対して、そうされるだけの事をしてしまったのだから。 きっと鹿央は自分を憎んでいるだろう。 そういう心理状態に追い込んだのは自分なのだ。 だとしたらそれを甘んじて受けるべきなのだから。 だけど、女好きのはずの鹿央はなぜ、もっと自分に強く抵抗しなかったのだろうか? 考えまいとしてもどうしても、それを考えてしまう。 彼の白い肌が吸付くように 自分の肌と触れあった瞬間を、美杉は忘れようとしてもフラッシュバックしてしまう。 きっと彼は、このままデアコーポが倒産しても生島産業に引き抜かれるだろう。 なんたって専務ともファーストネームで呼び合う仲だったのだから。 そして、もう二度と自分の事など思い出さないだろう……思い出したくもないのだろうから。 あの一つになった夜を美杉はもう、後悔していなかった。 彼を二度とその腕に抱けなくても、それが彼にとって最良ならば、それでいいのではないかと。 やらなければいけない事はたくさんあるのに、疲れ過ぎて美杉は頭を抱えたまま、しばらくそこに佇んでいた。 前触れもなくドアが開く。ノックの音もなかった。 血相を変えた部長が顔を出した。 「おい、美杉すぐ、役員室にきてくれ。鹿央も一緒にだ」 「鹿央もですか?私は彼だとは一言も言ってませんが」 「先方から、生島専務が直接乗り込んできたんだ。よく分らんが、激怒してる事は確かだ。 直属の上司は君だからな?君が行って説明してくれ」 思わず、美杉は部長を睨んだ。 もともと、仕事も碌にできないのに調子のいい男だとは思っていたが、ここまで無責任だとは 思わなかった。 だからといって、ここで腹を立ててもこの際仕方ない。美杉は腹を括った。 美杉が取るものもとりあえず、自分の課に戻るとすぐに、モニターを見つめてキーボードを叩く鹿央をじっと見据える。 鹿央は、美杉の強い視線に気がついてはっと顔を上げ、驚いたように一瞬固まった。 実際、こうして互いに目をまともに合わせたのはあの夜以来だったのだ。 そのまま鹿央も目を離さずにじっと美杉を見つめてくる。 「鹿央課長代理、生島産業の専務が、君から直接説明を聞きたいといっているが」 鹿央は、美杉から目を離さずに「分りました」とだけ答えた。 「私も一緒に行こう」 そういった美杉に、鹿央は「でも……」と突然不安そうに目を泳がせる。 美杉は苛立った。 何をいまさらそんな殊勝な顔をしてみせるのか? もっと俺に対してしてやったという顔をしてもいいだろうと。 「いいから、いくぞ。今すぐにだ」 しかし、美杉は心の葛藤をおくびにも出さず、そんな鹿央の変化を意に介さぬように目で部屋を出るように促した。 だが、青白く緊張する鹿央を見ていると、美杉は胸にもやもやしたものが拡がっていく。 だからこそ、かえってなんでもないように落ち着いた声で鹿央を皮肉った。 「最近は随分熱心に仕事をしていましたね」 しかし鹿央は俯いたまま答えない。 仕事は仕事でも全く別の意味での仕事なのだから答えられないのだろう。 本当は何もいわずにいようと思っていたのに、鹿央を責めたりなんかしないと思っていたのに、 鹿央の、さも自分は何も関係がないような仕種に、美杉は無性に腹が立って我慢ができなくなった。 「まともに仕事をしたら、こんなにすぐ本社にいけるなら、もっと早くに仕事をされていたら よかったですね」 美杉の慇懃無礼な皮肉に、鹿央が何か反発してくると思ったのに、 俯いたままぐっと掌を握りしめていた。 俯いた頬から、何かがすべり落ちる。 まさか……と思った。 涙? こんないい大人が人前で泣くわけがない。 鹿央の噛み締められた唇が悔しそうに揺れていた。 「鹿央さん……」 どうして? ……思わず溢れた言葉と共に、美杉が腕を取ると、「放って…おいてください」 鹿央の口から洩れたのは手痛い拒絶だった。 親指の付け根で何もなかったかのように、鹿央は涙を拭うと美杉を促すように、生島が待ち構えている応接間の扉に手をかけた。 自分が鹿央の事を気にかける事すら鹿央にとっては迷惑なのだ、だからもう、自分には鹿央の心配をすることすら許されないのだと美杉は、すっと血の気が抜けていくような気がした。 応接間にはすでに生島とデアの社長が、睨み合うように対峙している。 鹿央達が部屋に入ると、生島は徐に立上がり、掴み掛からんばかりに鹿央に詰め寄った。 「直樹、どういうことか説明しろ」 怒りのあまりに自分が、名字ではなく名前を呼んでいる事にさえ、生島は気付かない。 「生島さん、具体的に何を説明するんですか?」 逆に飛びかからんばかりに激昂した生島に鹿央は顔色も変えない。 先程までの自信なさげな鹿央とは別人の様だった。 「恍けるな。第一、お前は何を考えているんだ?生島家の一大事なんだぞ。どうして俺に一言もなく 勝手に株をオヤジからせしめたんだ」 美杉がさっぱり状況が掴めずにいると、社長が美杉にメモを渡しながら耳打ちする。 「生島産業の株の一部と、生島家が所有していた株をなぜか鹿央くんが、相続されたらしい」 株を相続? 真意が掴めずにいったい何の事かとメモを見ると 自社株の4割が鹿央の個人資産になっているらしいと書いてあった。 さっぱり訳がわからない。 「直樹!今まで可愛がってやった恩も忘れて俺を陥れようっていうのか?」 「とんでもない、兄さん、我が社の社員にヘッドハンティングをちらつかせて、株を引き上げ、我が社を落としいれようと画策なさっているのは、いったいどなたでしょうか?」 兄さん? その一言に思わず美杉はメモを落とし、社長も腰を抜かしたようにその場にへたり込んだ。 美杉の頭はパニックのようになってぐるぐる辺りが回り始めている。自分も社長みたいに その場に座り込みたい。 いったい何がどうなっているんだ? そんな辺り混乱に頓着もせず鹿央は言葉を続ける。 「生島産業の窮地は私も伺ってます。だが、ここで生島が資産を引き上げてしまえば、我がデア・コーポレーション社は、もはや会社を存続することは困難だ。親会社の生島産業とただの共倒れになる可能性だってあるです。デアコーポの社員である私が、それを見過ごす事はできません。生島産業ほどの底力がある会社なら、我が社のような小さな会社を犠牲にしなくてもいくらでも持ち直す方法はあるはずです」 「適当な事をいうな!お前に生島産業の何がわかる?いったい他にどんな方法があるのか、お前言ってみろ」 「それを模索するのが、役員であるあなた達のつとめでしょう?無駄に高給を受け取っているわけでもありますまい」 「なんだと〜〜!」 「待ってください、生島さん」 生島の激昂した様子に社長が慌てて仲裁に入った。 |