KARATE4

試される運命20


 「お祖母様は、普通の家族から嫁に来て苦労が耐えなかったと思いますよ。政略結婚でもないのにお祖母様を嫁にしたのは、誰でもないお祖父様がお祖母様を本気で好きだったからでしょう? なぜ、お祖父様はそんな大切なお祖母様を守って差し上げなかったのです?それどころか、家を空けて外に女性をつくるなんて、僕には信じられない」

 「お前の時代とは違う」

 「時代?そうでしょうか?僕が幼い頃、お祖母様は御自分の実家のお話をよくしてくださった。その時聞いた曾お祖父様のお話は僕の理想の夫婦像ですよ」

 「どんな話だ」

 祖父がこんなに自分の話を聞いてくれるのは初めてかもしれない。祖父を追い詰めずに最後まで語りたいと竜斗は願った。

 「お祖母様が北海道出身なのは御存じなんでしょう?昔は部屋にあるストーブはすべて石炭だったらしいのです。その1日分の石炭を運び出し灰汁を捨てるのは想像を絶するような力仕事であったそうです。にも関わらず、多くの明治生まれの女性達は自分の仕事として前日の灰汁を捨て、石炭を運び、薪を割り、ストーブに火をつけるのが日常だったらしいのですが、それは明け方から用意しなければいけない重労働だったようです。朝の弱い曾お祖母様の為に曾お祖父様は毎朝ストーブの用意をなさったそうですよ」

 「くだらん、女の尻にひかれてるだけだ」

 「いや、僕は逆に男らしいと思いますね。お祖父様がおっしゃるように女の尻にひかれてる……その時代なら間違いなくそう言われかねないのに、あえて自分の思う事を実行した勇気ある曾お祖父様を僕は尊敬します」

 「私に勇気がないといいたいのか?」

 「お祖父様は御自分でそう思われるのならそうでしょう。このままお祖母様が寂しく亡くなられたりしたら、僕はお祖父様が嫌いになりそうです。大切にできないなら、なぜ、野に咲いてる慎ましい花を手折ってきたのですか?」

 「お前に言われたくない」

 「実際、お祖母様の事だけなら僕は一生申し上げなかったでしょう。最も愛する女性を不幸にするのも それはお祖父様の選んだ人生です。ましてお祖母様が僕に助けを求めた訳でもない」

 「竜……お前もなかなか言うな……じゃあなんだ」

 「雄斗も同じ野の花なのです。そっとしておいてやっていただけませんか?」

 「まわりがどうかな?私が放っておいても他の奴がどう出るか」

 「雄斗自身がお祖父様に助けを求めたなら助けて差し上げればいい。でも、今はそっとしておいてやってください」

 「しかし、このままでは間違いなく健吾が色々口を出してくるぞ」

 「健吾がワシバネを欲しがっているのなら、やってしまえばいい」

 「何をいうか!」

 「株や証券はお祖父様が握っているのでしょう?実際彼にやらせてその力を試せばいいじゃありませんか?今なら、お祖父様が彼の首を掴んでおく事ができる。実際僕にワシバネのようなすでに大きくなった企業は興味があまりわきません」

 「偉そうなやつだ。私に意見する気か?」

 「ワシバネを大きくなさったのはお祖父様でしょう?もともと解体された財閥の一端だったのをここまで大きくしたと伺ってます」

 「まぁ、そうだ。健吾の祖父も同じ程度の会社を譲り受けたのにすぐに潰してしまってな。ずっとカスを掴まされたと文句をいっていたが」

 「だからこそ、ワシバネに普通以上の未練があるのです。僕は父の会社を受け継ごうとも思ってません。もちろん、最初は援助していただけるとありがたいですが、自分で起業して自分の力をためしてみたいのです」

 「竜斗……見直したぞ。やはりお前が羽鷲の跡継ぎだ!」

 「今はその件について即答はできませんが、雄斗は僕に預けていただけませんか?そして健吾にも一度チャンスをやってください。もしかしたら彼もその才能があるかもしれませんからね」

 「全く……ガキだと思っていたら」

 「いったいお祖父様は僕がいくつだと思っていらっしゃるのですか?独立した成人男子ですよ。だからたまに家に帰ってお祖母様の夕食を食べていただけませんか。 僕は殆ど帰れませんから、寂しがってますよ」

 「かなわんな……私に意見できるのはお前だけだな」

 「お祖父様に聞いてくださる余裕があるということです。雄斗の事はちゃんと報告します。 僕に一任していただけますね?」

 「わかった、そうしよう」

 受話器を置いた後、竜斗は汗でぐっしょりだった。緊張したなんて簡単なものではない。 成行きで今までたまっていたものを吐き出してしまったが、果たしてこれでよかったのか自分でもまだ、解らなかった。

 ふと顔をあげると寝ていたはずの雄斗がドアの近くで立っていて目があった。

 「聞かれちゃった?」

 「あぁ、かっこよかったぜ!」

 雄斗がにやりと笑う。

 「からかうなよ」

 「俺ももう、逃げない。逃げずにあの女と会う事に決めた」

 「それがいいと思う。ここに呼ぶか?」

 「お前はどうする?」

 「悪いけど仕事にいくよ。色々勘ぐられるのも嫌だし、仕事もためたくなんかないからね」

 「じゃあ、下のラウンジに個室があったろ?そこに呼びつけてやる」

 そういった、雄斗の顔は少しだけ照れて赤くなっていた。


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