KARATE4

試される運命19


 静寂を破るように部屋の電話が鳴った。

 フロント以外からくるはずがないが、いったいなんだろうと竜斗が受話器を取る。

 「リュウか……」

 「おじいさま、こんな時間にどうしました?それにどうやってこの電話をお知りになったのですか?」

 雄斗の声色が強張る。今、落ち着いている雄斗に聞かせたくない相手だった。

 「私が知りたい事は少し調べればわかる。それより雄斗がそこにいるのか?」

 「彼を御存じでしたか?」

 「迂闊だったが私も最近知ったよ。あの女狐め、どうりで何も望まずに簡単に 別れたと思ったわ。こんな隠し玉を用意してあったとは、いっぱい食わされるところだった」

 「では、彼は……おじいさまの?僕の叔父にあたるということですか?」

 「その事について何もお前は心配するな。そこに雄斗を引き止めておけ。だが、絶対健吾と真野綾香だけは決して部屋に入れるな」

 「おじいさま、それは僕にはできません」

 「なんだと?」

 「彼は僕の友人であって、保護者でも上司でもない。彼が会うといったら僕にそれをとめる手だてはありません」

 「会う事は決して彼の為にならんぞ。あいつらは、雄斗を利用しようとしてるんだ」

 「雄斗が会いたくないといったら、僕は極力彼等を会わせないように努力はします。でもそれはあくまで僕の判断です」

 「竜斗、お前らしくもない。何を拗ねているのだ?雄斗を籍に入れてもお前が唯一の跡継ぎである事は 変わりないのだ」

 「そうでしょうか?それにもし、そうであっても今の僕にはそんなにそれは大きな問題ではありません」

 「何がいいたい?」

 「僕はおばあさまに育てられました。もしかしてと疑った事はありましたが、お祖父様が外に子供を作るような浮気をなさっていたなんて思いませんでしたよ。男同士ですから、本来僕はお祖父様の味方をしたいところですが、お祖母様の悲しみを知りすぎているので、やはりお祖母様の気持ち第一に考えてしまいます」

 「今、ばあさんの事はいい。俺は俺なりにアイツを大切にしてるんだ」

 「僕もそれを信じてました。だから煩い事も言わなかった。でも、外に子供がいてその子が相続争いに巻き込まれるのだとしたら、また話は別です」

 「巻き込まれるとはなんだ!羽鷲の血を引いてるのだから、黙っていても莫大な財産が入ってくるのだぞ」

 「それはそうでしょうが、莫大な財産は必ずしも人を幸福にしません。それはお祖父様も僕も身を持って体験しています」

 「お前はいつからそんなに生意気になったのだ?自分の足で地にも立っていない癖に」

 「お祖父様、育てていただいた事は感謝しています。でも僕はもう幼子ではないのです。大学に行く時、父方から資金援助を受けるといって半分勘当されるように羽鷲の家を出ました。だけど実際は父からも 援助は受けていませんでした。殆どがバイト代と奨学金だけ。生まれて初めて貧乏と言うものを体験しましたが、僕は少しも不幸ではなかった。それどころか、何も知らされていない人形のような子供時代をおくった事を多少残念に思っています」

 「な、何をいうか!」

 「無論、幼年時代も僕は不幸ではなかった。でもそれはすべてお祖母様のお蔭です。お寂しかったとはいえ、いつも屋敷に届く届け物をそのまま、他の人に差し上げるのは申し訳ないからと、いつも料理はお祖母様の手作りだった」

 「手作りは、ばあさんの趣味なんだ」

 「そうでしょうか?料理がいくら好きでも一人で食べる為にあんなに一生懸命作るでしょうか?僕はそうは思わない。いつかお祖父様が一緒に食事をしてくださるかもと待っていたのではないでしょうか?」

 「時々は家で食べたろう?」

 「そうですね。でもそれもいつも客人連れだった。家族3人だけの食事など少なくても僕の記憶にはありません」

 こんな事を祖父と電話で話すつもりではなかったのだが、もう竜斗にも止められなかった。


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