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心地よい風が頬をくすぐる。暑くも無く寒くも無い。 雄斗は心地よい汗を流して本来なら機嫌よく帰路にたっているはずだった。 だが、今日も雄斗の機嫌は最悪だった。 最近、耳にタコができてその上にタコができてまるでお供え餅になりそうな程、聞かされてる 話をつい先程も聞かされたのだ。 その話と言うのはほかでもない、高慢ちきで有名な女優が、何をトチ狂ったか素顔をさらし、しかもそれがどうも初々しいとかで評判になっているのだ。まぁそんな女優は雄斗にとってはどうでもいいことなのだが、 問題はその女優の素顔と雄斗が似てるらしいのである。 最近は色々な人に事あるごとにその話をされ、つくずく嫌になりかけてる雄斗だった。 つい、最近など竜斗と楽しくいちゃついてる処を若い空手指導員にじゃまされたのだ。 一瞬、竜斗の事が気に入ったのかとむっとした雄斗だったが、自分がその女優に似ていたから 話し掛けたなどと言われ脱力した事があったばかりなのである。 部活の指導を終えて部屋に戻るともう、8時すぎ。時にはそれから資料作りや採点などの 仕事が雄斗を待ち構えている。 ため息をつきながら、背広を脱いでいると後ろに竜斗が立っていた。 「なんだ……また、今日も似てるって言われたのか?」 「そうだよ」 分かってるなら聞くなと雄斗は言いたい。この話題に触れて欲しくないのだ。 「じゃあ、いいものがあるんだけど」 「いいものって?」 「いいから、当ててみろよ」 雄斗は思わずにやりとして言い放つ。 「Hなおもちゃか?」 「ばかか!お前は!」 おもいっきり顔を歪めて竜は怒っている。逆にそれを見ている雄斗は楽しそうだ。 「なんだ違うのか?最近淡白になったお前だからちょっとは工夫してくれるのかと 期待したじゃないか」 「するなよ。そんな期待!もういい!」 雄斗がからかってると知りながらも竜斗は無性に腹がたった。 人が心配してるのに。 「いい……早く言え!聞いてやるから」 雄斗は逆にそんな竜斗をみておもしろがってる。 竜斗は腹を立てながらも、カップボードの上に置いてある小さな包みを差し出した。 開けてみるとそこには眼鏡が入ってた。雄斗は訳が解らずにきょとんとした顔をしている。 雄斗のこんな可愛い顔は他の誰にも見せたく無い……と竜は思ってしまう。 「なんだ?これ?ハロウィンの仮装か?」 「違うだろう!よくみろよ。これは、伊達眼鏡だよ……ほら」 雄斗の耳にそっと眼鏡を掛けてやると、竜斗は小さくため息をついた。 「ちぇ!お前……妙に似合うじゃ無いか」 女っぽさは消えたが格段に男前が上がった気がする。 これじゃあ、悪い虫が寄ってこない様になんて思って買った竜斗の思惑から思いっきり 外れているのだ。竜斗は酷くがっかりしたが、雄斗の方は竜斗が何を考えてそれを買ったのか どうやらすぐに思い当ったらしい。 だから、竜斗が眼鏡をケースにしまおうとすると雄斗がぐっとその手を掴んだ。 「ありがたく、受け取っておくよ。お前の気持ち」 雄斗はもう、すっかり上機嫌である。 竜斗は嫌な予感がした。こんなに妙に雄斗が機嫌がいいなんて碌な事はない。 きっとこの女顔の恋人はとんでもなくHな事を考えたに違い無いのだ。 経験上そんな事も分かってしまう自分が竜斗はつくづく情けなかった。 |