霞の煙る山並の 番外



 9月になってから佐藤勇真と近藤翔平の通う高校にも新しいALTが入ってきた。

 実は今までもいたのだが、おばさん教師であまりやる気がなさそうなオーストラリア人だった。 なまりもきつく。聞き取るのにも苦労した。

 新しいALTはロシア系アメリカ人の青年だった。抜けるように色が白く笑顔が甘い美青年だ。

 ウラジミール・ペトロフと名乗ったが、近藤は『裏地なんとか……フ』としか 覚えられなかった。

 「ウラジミール・ペトロフとまで覚えなくてもウラジミールくらいは覚えておかないとね?」

 勇真はにっこりと微笑む。近藤は忘れたら勇真にバカにされそうなのでこっそり スケジュール帳にメモした。

 大学時代、留学生に懐かれた事もあり、多少の英語を話せるということで なぜか英語の教師達を差置いて近藤がウラジミールの世話係のようになってしまった。

 何かと言うと彼は解らない事を近藤に相談する。

 頼みの武田は大の英語嫌い。

 しかも年輩の英語教師達は「年令が近いですからね。独身ですし」

 などと訳のわからない言い訳をしながら、近藤にまかせてほっとしてる様だ。

 「先生が甘い顔してるからつけあがるんです」

 ひとり、勇真だけが渋い顔をしている。

 「今日から、先生のアパートに行かせてもらいます」

 「どうして?」

 「貞操の危機だからです」

 「お前が来る方が危ねーよ」

 「先生ったら、何を期待してるんですか?」

 そういいながら、勇真はすっかりその気になって嬉しそうだ。

 毎日来るのだけは、なんとか考え直させて(週末は勇真に押し掛けられて時々熱い時を過ごしたりするのだが)10月になった。

 ウラジミールは近藤にハロウィンパーティをやるから手伝ってくれと言い出した。

 「僕も手伝います」

 「どうして?」

 「生徒会長だからです」

 「は?関係ないだろ?」

 「あります!」

 「何の?」

 それを聞いたとたん、勇真は少しだけ腰を折って近藤に耳打ちした。

 「……僕達……恋人じゃないんですか?嫉妬するのは当然でしょ? やましくないなら、黙って手伝わせてください」

 そうして勇真は縁なしの眼鏡の中からきりっと睨む。

 別に近藤が悪いわけでは無いのについ、ドキッとしてしまうのはなぜだろう。

 「おま……っ!学校の中でそういう事いうと承知しないぞ!」

 なんてこといいやがるという風に近藤が拳を握る。

 「うふふ。いつまでたっても初心なんだから……」

 そんな近藤の様子を見てなぜか勇真は嬉しそうだった。 そしてその数日後とんでもないことに、勇真ときたら、親に「ハロウィンの用意が大変だから学校の近くの 先生の家に泊まることになった」などといっているらしい。

 学校に勇真の母親から丁寧に「先生、お世話になっております。 改めてお礼に伺います」などと言われて近藤は胃が痛くなってきた。

 今夜から30日までびっちり勇真に泊まられると思うと近藤は本格的な頭痛までしてきたのだった。


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