Now I'm here 2-11

僕はここにいる 2

Now I'm here 2-11



すごい勢いでウサギが跳ぶ。顔に当たる風が痛いくらいに真珠達の頬を打つ。

 上は乱れ、たなびいて千切れそうだ。

「御無事ですか?真珠様」

「案じるな、それほど柔ではないぞ」

 そういいながらも、華奢な真珠は跳ね飛ばされそうで、着地の度にその衝撃を怖れて真珠は必死に沙羅に捕まった。

 だが、バネのようなウサギの足が信じられないほど柔らかく地面をとらえる。

 右に左に自由自在に跳ねるうさぎのジャンプに真珠はやっと馴れ、ふわふわした毛並みと

 その柔らかな感触……そしてほわっという体温の暖かさに思わず眠りかけそうになった時だった。

「真珠様。もうサフィアの後宮の城の頂上です。このまま石榴達の寝室に参りましょう」

 僅かな足場にちょこんと座ったウサギが真珠を見つめていた。

「少しだけ待っていて!すぐ来るから」

 真珠はうさぎの耳を優しく撫でると先に行った沙羅のあとを全速力で追掛けていった。

 石榴がいた部屋からは、すでにまばゆいばかりの光が洩れている。

 侍従やおつきの兵士達は遠巻きにしているのを構わず、部屋にはいった。

 思わず顔を背けるほどの光の爆発だった。

 沙羅は恐れずにその光の中へ突き進む。

「待て、沙羅!」

 そこで光の勢いが微かに弱まった。

「石榴!沙羅と私が来たぞ」

 そう真珠が叫んだが、輝きは全く納まらなかった。真珠は嫌な予感がして諭すように再び声をかける。

「石榴!いや、グレナ?まず、その光の殻を弱めてくれ!我等ですら近付けない」

 そうすると目映いばかりに輝いていた光の渦が少しだけその勢いを弱めた。

「沙羅……?」

 グレナ……石榴はその声に輝きを緩めながら、こちらに目を向け、何か信じられないとでも言いたげにその名を呟いた。/

一気に涙が溢れてその黒い瞳が潤んでいく。

「石榴……」

 その声を聞いて、弱まった光の渦の中の石榴めがけて沙羅がたまらずに飛び込んだ。

 その足元には、気を失ったサフィアの姿があったが、沙羅も石榴も殆ど彼の存在を忘れたかのように 互いに折れんばかりにきつく抱き締めあい、熱い口づけを交わす。

 真珠はすぐにサフィアを抱き上げて脈と息を確認したが、弱々しくはあったが規則正しく動いていた。

 「感激の再会は後にして、ここにこのままいては不味い。先に二人で逃げて。僕は、彼の様子を見たらすぐ君等の後を追うから」

 名残惜しそうに、真珠を見つめる沙羅の手を引き、一刻も早くここから立ち去りたいと石榴が沙羅をそくした。

 「あの……姫の事はいいのか……」

 石榴が沙羅にそう呟いて立ち止まるのを真珠は「いいから早く!」といって二人を城から押し出すように時間が無い事を告げた。

 いぶかる石榴を沙羅は軽々と抱きかかえて 「真珠様、すぐにいらしてください。私共はこのまま、新しい船の確保に向います」

 それだけいうと、そのまま石榴を抱きかかえて駆け出した。

 「お、おい、下ろせ」

 「お願いです。このまま私の腕であなたの温もりを感じさせていただけませんか?あなたをこの腕に抱いている事がまぎれもない現実だと自覚できるまで」

 そんな沙羅の言葉を聞いて、石榴は真っ赤になった。

 「ばか……無駄な体力を消耗させるな。まだ、藍の大地に辿り着いているわけじゃないんだぞ」

 「そうはおっしゃいますが、あなたがこの腕の中にいると思うだけで不思議と泉のようにエネルギーが沸き上がってくるのですよ」

 そう嬉しそうにいって沙羅は石榴を抱いたまま、ウサギの背に乗り込んだ。

 「真珠様……すぐに迎えに参ります」

 そう心で呟いて。

 止まりかけた弱々しいサフィアの息に真珠は一度躊躇ったが、意を決するようにその口に自らの唇を 近付けて人口呼吸を始めた。サフィアの首の付け根にその長く白い指をそっと触れ、その指先から エナジーを送り込んだ。

 なぜだろう、エマラウドが追ってきているのを真珠は知っていたが、とてもこのまま彼を捨て置く事は できなかった。サフィアの皇子としての孤独が痛いほど真珠には伝わってきたから。

 真珠は最初こそ望まなかったとはいえ、どれほど自分が拒絶しても求めてくれる瀧海の深く暖かい愛で 母から疎まれ、自分が故国を救わねばならないという柵から解放されることができた。しかし、この第2皇子は、故国の期待を一身に背負い重圧と孤独で押しつぶされそうだったのではないのか?

 しかも、自分がこれと決めて恋した者に嫌われていた。 きっとサフィアは石榴が光に包まれているのをみて自らの危険を顧みずに助けようとしたのに違い無い。

 それなのに石榴は沙羅と手をとって逃げ出したのだ。

 そう思うと真珠は切なくなって、とてもこのままサフィアを置いておく気持ちにはなれなかったから。

 ばたばたと背後で人の気配がする。

 「こいつ!何をしてやがる」

 2m近くも真珠は勢いよく突き飛ばされた。

 真っ赤な顔でサフィアを抱き締めて 真珠を睨み付けたのは、エマラウドだった。

 軽い脳震盪を起した真珠は微かに頭を振って意識を戻す。

 「そいつを縛り上げろ。晒し者にしてくれる」

 常軌を失ったエマラウドは、サフィアを抱きかかえたまま、怒りを露にした。

 侍従らしい屈強な若者が数人真珠を取り囲んであっというまにぐるぐる縛り上げてしまう。 そのまま天井に釣り下げられた。

 「もしもこのまま、サフィアの意識が戻らなかったら、お前を城の外に吊るし出して鷲の餌食にしてくれる」

 石榴や沙羅達と逃げようと思えば逃げられた、そしてこのままこの罠を外して外に逃げ出す程度のエナジーは貯えられた。でも、その後瀧海の元に帰られなければ意味が無い。だからといって何か解決策があるわけではなかった。

 このまま手足を拘束されると本当に白魔法も黒魔法も使えなくなってしまう……真珠が躊躇してる間に侍従たちは、真珠にのしかかってくる。

 「サフィアが……」

 「うるさい!」

 「せめて…サフィアを完全に……こちらの世界…に意識を引き戻させて」

 思いっきり鳩尾に体重をかけられて息も絶え絶えになりながら、真珠はエマラウドの燃える瞳に必死に懇願した。実際サフィアは予想以上に衰弱しているのは誰の目にも明らかだったから。

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