「そうでしょうか?あなたはサフィアさまの全てを手に入れようとなさっている」
「何をいう……たしかにサフィアの事はかけがえのない親友だと思っている。まさに竹馬の友だからだ」
真珠はそのすっきりとした眦を決するように、エマラウドに向き合った。
「あなたのサフィアに対するその征服欲の中に肉欲がないとでも?」
「な、何をいいだすのかと思えば……」
「図星でしたか」
表情を変えぬまま真珠は、そのまま後ろを向いた。背後に他の眼でもついているのではないかと、
エマラウドは真珠を見つめ続けている。
「お、お前は何者だ……」
「私はまだまだ未熟な魔導師ですが、ただ、貴方の事はなぜか手に取るようによく見える。
あなたとサフィアに興味はないが、
石榴は…ここではグレナでしたか、彼が巻き込まれるのは困る。彼を不幸にするわけにはいかない。
あなたと私の利害が一致するならと思いましたが、あなたを信用していいのでしょうか?」
真珠は傍らから銀色の筒状のものを取り出してすっと親指を動かした。
ぼうっと微かにサフィアの姿が浮かび上がる。それは真珠と石榴が楽しそうに話しているのを切なそうな
複雑な瞳で見つめる姿であった。
「サフィア!」
「これは虚像です。ちょっと撮らせていただきました」
はぁはぁと大きな瞳を見開いてエマラウドが、今にも飛びかかりそうにサフィアのモノグラムを見つめていた。
「いったいどういう仕組みだ?」
「私の故郷の対の星の産物です。ここを押すと何度も同じ画像を見る事ができる。その地に住む人々は眼に見えるものしか信じないという。形あるものが発達してる星なのです」
一度瞳を閉じたサフィアが再び辛そうな表情で視線を横にずらす仕種。
それは、誰がみても思わず胸を締め付けられそうな切ない瞳だった。
エマラウドが何度も再生ボタンを押して夢中になっていると、真珠はその時が近付いているのを肌で感じた。
『石榴!今だ、エナジーを取り込め!』
エマラウドの指示でこの星を覆い尽くしていたバリアが外されたのだ。
真珠は両手を拡げて全身いっぱいにエナジーを宇宙から取り込んでいく。
『石榴!早く!』
グレナは悲鳴に近いような真珠の声を聞いた。 エナジーを感じる。
慌てて身体を仰け反らせ両手を拡げ乾いた身体にエナジーを取り込んでいく。
乾いたスポンジが水を取り込むように、凄い勢いでエナジーを取り込む為、その全身が真っ白に
光って見えないくらいだ。その姿はまるで不死鳥の様に輝いている。
大きく拡げる腕から光が洩れて流れ翼のようだった。
グレナの突然の変化に様子を見にきた侍従が慌ててサフィアを呼びに行った。
「いったいこれは、どうなっているのだ?グレナ!」
そのまま近付こうとしたサフィアは熱とエナジーの勢いに吹き飛ばされた。
「サフィア様、大変です。星のバリアが、何者かに外されております。すぐに元に戻すように
手配し、ゲートを閉じようとしているのですがバリアの番人から全く反応がないのです。調べましたところ、番人たちはすべて気絶しておりしかも何者かにこじ開けつづけているのではないかと」
グレナのこの様子もそのバリアに関係あるに違い無い。そうは思うがどうにもこの現状を打開する手立てがない。
しかしサフィアは意を決して危険を承知で再びグレナに近付いた。
そして何を思ったのか危険を承知でそのままグレナに飛びつくように身を投げ出したのだ。
それはあまりに一瞬のできごとで周りの誰もが一歩もその場を動く事すら叶わなかった。
そして急速にエナジーを取り込むグレナにそのままサフィアもその光に同化する。
「サフィア様!」
侍従達の悲鳴がそこかしこにこだまし。 侍従達の瞳には二人はさらに目映い光となって溶けていくように映った。
その頃、真珠とエマラウドの宿ではやはり同じように光り輝く真珠の様子にエマラウドは、唖然とし
持っていたモノグラムの出ていた銀の筒をぽとりと下に落とす。
「真珠……俺を誑ったな」
しかし、真珠はそれに返事もせずその光を落として、エナジーを吸収するのを急に停止した。
「エマラウド……戻りましょう。サフィアが無茶をしたようだ。石榴とサフィアの元に
私と沙羅はワープします。あなたもできる限り早くサフィアの元に」
「やはりドームを開けなくてもサラと交信できたのだな?卑怯だぞ」
「卑怯だの謀っただのとは、心外です。あなたにそんな事をいえる資格はあるのですか?
僕や、沙羅や石榴をまとめて奴隷市場で売ろうとなさっていたことを僕が気がつかないとでも
お思いですか?降り掛かった火の粉を払ったまで」
真珠は一瞥するとそれでも柔らかく諭すように声を落とす。
「しかも今はあなたの愛する人が命の危機に見舞われている。言い争っている時間などあなたにおありでしょうか?」
してやるつもりがしてやられた悔しさに、エマラウドは真っ赤になった。
「純情そうな顔をしてたいしたタマだな」
「お褒めに預かり光栄です。さて時間がないので先に失礼いたします」
真珠はそういうとエマラウドをその宿に残したまま、城の中の沙羅に声をかける。
『沙羅!聞こえるか?追っ手になるべく気付かれずに何か私達が乗れる乗り物はないかな?』
城にいたはずの沙羅はすっと真珠の前に現れた。 瞬間移動したのだろう。高度な魔法だし
相当のエナジーを消費するが今は一時の猶予もない。
「私一人なら、こうして瞬間移動も多少可能ですが、真珠様は御無理でしょう?あまり無駄なエナジーも使いたくない。
実は、この国にはとても可愛い兎がいるのです」
「ウサギ?うさぎってあの耳の長いウサギ?」
「えぇ、多分祖先は藍の大地にいるウサギと似たようなものでしょう。私達より少しばかり小さな身体ですが、すごい距離をジャンプすることができます。竜がいないこの国ではウサギが一番簡単に乗れそうだ」
「僕にも?」
困った顔で真珠が伺うように沙羅を見つめた。跳んだところを見た事もなければやはり恐怖も大きいのだろう。
「えぇ、怖ければ一緒に乗りましょう。それより石榴はどうなってます?」
真珠はすっとその瞳を閉じた。
「今は真っ白で何も見えない。もう宇宙のエナジーを取り込めるドーム型バリアが閉じてしまう。早くしないとその時が石榴にとって一番危ない」
「なぜ?」
そう聞きながら高波長の声にならない声で沙羅が森に住む野生のウサギを呼び込んだ。
「暴走しなければいいが」
うさぎじゃなくて石榴がね……と真珠が悪戯っぽく付け加えた。 沙羅の声を発しない呼び掛けに現れたウサギは予想していたより大きくないし怖くもない。 真珠はその柔らかい毛並みを優しく撫でるとウサギは気持ち良さそうに目を閉じる。
一瞬にしてなついてしまったらしい。 「暴走ですか?」 沙羅はにっこりと微笑んだ。さすが真珠だと。
真珠は柔らかい笑みを戻して眉間に皺を寄せた。
「強大な魔力を手に入れた石榴がサフィアに何をするかが心配だ。彼等と
争ってエナジーを消費してしまえば、3人一緒に戻るのが不可能になる」
沙羅はうやうやしく真珠の手を取ると大きなウサギに飛び乗った。
「わかりました。急ぎましょう。石榴が暴走するまえに」
|