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Now I'm here 2-9 |
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沙羅が婚姻関係を結んだぺリド姫の公国は厳格な宗教と美しい自然に守られた 季節の温暖な国だった。 城から見える美しい景色……パステルカラーの花園が城下町の中に点在していてまるで花園の中に街があるようだと沙羅は思った。 そのすぐ隣で悪阻に苦しむぺリドの背中を優しく撫でながら「大丈夫だよ」と耳許で囁く。 それは昔、真珠の妊娠中に世話をしたあの穏やかな時を思い出していた。 「ごめんなさい。沙羅……侍女に頼むといいのだけど、沙羅の大きな手で擦られるとなぜかとっても 安心できるのよ」 「遠慮しなくていいんだ。こんな事が僕のできる精一杯だから」 そういうとふいに石榴の物悲しげに見つめてきた美しい顔が浮かんだ。 石榴……あなたを思うと胸が痛くなる。プライドの高いあなたがサフィアの腕に黙って抱かれているのは 不安定な私の立場を慮ってのことだろう…… 擦る手の止まった沙羅の姿をぺリドは振り返る。 「グレナを思い出しているの?」 「す、すまない……」 「いいのよ。だってだからこそあなたには私の辛さや寂しさを分かってもらえるのですもの」 「僕はいいんだ。でもあなたは……やはりサフィアに一言言うべきだったんじゃないかな?自分の子の存在を知らないなんて悲しすぎるよ」 「あなたはグレナがサフィアの子を産んでも平気なの?」 嫉妬はするだろう……しないとは言えない。でもグレナの子なら私の子でもある」 そういってから沙羅ははっとしてぺリド姫の顔を見た。 ペリド姫は少しだけ寂しそうに微笑む。 「そうね。私がサフィアを忘れられないように沙羅がグレナを忘れられなくて当然なのよね。私……何か思い違いをしていたわ。 私達が身体は結ばれなくてもいつか本当の夫婦だと思える時が来るんじゃないかって……」 「姫……私は……」 「いいのよ、本当にいいの……悪いのは私も同じだもの。あなたと同罪。 お互いに自分の正直な気持ちに対峙せずにきた結果が今の私達なんですもの」 サラはぺリド姫をそっと抱き寄せようとするが、お互いに躊躇するように見つめあったままだった。まるで二人の埋まらぬ距離感を暗示するように。
真珠とエマラウドは、連なった水晶のような美しい城の城門の前に佇んでいた。 「噂以上に美しい城だから、すぐに入城したいのはやまやまなのだが、正式に訪問するわけではないからな。私が表立って正門から行くのはまずいだろう。何かよい手はないものか」 「魔術が使えると楽なんですが……沙羅となら上手くいけば直接会話ができるのに」 「ここではできないのか?」 「そうですね。多分、この星がバリアで囲まれていて、断言はできませんが、宇宙の気を取り込めないからでしょう。それでも今ですら僕には沙羅と石榴の微弱な気を感じる事はできます。」 「バリアね……バリア」 そういってエマラウドは少しだけ考え込んですぐに、お供に付いてきた侍従になにか囁いた。 とりあえず、城門の近くに宿を取る。 「この部屋で少し休むといい。そして父王に連絡さえとれれば短い時間だが、バリアを外す事ができるだろう。だが、これは我等の星にとって外からの侵入にも 抵抗がなくなるという諸刃の刃だ。しかもエネルギーを蓄積する事ができるのは真珠だけではなく、グレナと サラもなのだろう?」 「はい、多分、石榴の魔術の方が私より数倍威力があると思います」 「だが、このままあの二人を放置して置けば、グレナだけでなくサフィアの心も修復できないほど傷ついてしまうだろう。背に腹は変えられぬ、なんとかバリアを外すから、他の二人がエナジーを溜める前に」 「分っております。やってみましょう」 真珠はすっと床に直にあぐらをかき、組んだ足の上で腕を互いに持つように支えあうと 瞳を閉じて瞑想をはじめた。 「待て、今すぐバリアが外れるわけではないのだぞ」 「お静かに……こちらにも準備がございます。エマラウド様はあなたのやるべき事をなさってください」 真珠の強い口調にエマラウドは苦笑しながらそっと部屋を後にした。
真珠は瞳の端でエマラウドが部屋から出たのを確認し、その気配が宿から少しずつ遠ざかって行くのを感じてから、意識を沙羅に向ける。 『沙羅……沙羅…』 『……ま、まさか真珠さまでは?』 『えぇ、城の外の宿におります。近くだから沙羅の気配が感じられるので』 『どうやって…』 『今はそのお話はできませんが、実はこの星のバリアがもう少しで開かれるはず。その瞬間にできる限りの気を溜めるのです。私は人々の気を他に逸らせますから、最後のチャンスだと思って』 大きく開いた両膝を地につけて座り、あぐらのようなポーズで真珠は身体の中の気をからっぽにして、辺りの人々の気を少しずつ取り込んだ。 辺りの人々のストレスのエネルギーをヒーリングによってプラスエナジーに換え、少しずつ自身に取り込んでいく。 何かあったときのために、せめて沙羅だけでも救い出したいと考えたからだ。 だが、真珠はわかっていた。 沙羅はきっと一人でこの地を去るくらいなら、このまま石榴の行く末を見守って影ながら彼を助ける方向に向うだろうと。 真珠が同じ立場でもそうしたからだ。きっと瀧海は今頃不安な夜を過ごしている事だろう。それを思うと 真珠の心はちりちりと痛んだ。 いったい何の為にここにきているのかと。 なんとか、二人分のワープするエナジーを溜め込んだところに、エマラウドが戻ってきた。 「大丈夫か?気分が悪いのか?食事でも運んでもらおうか?」 すっとエマラウドが差し伸べた手を真珠はそのまま掴んで立上がる。 「君はその辺りの国々の深窓の姫君よりよほど高貴な雰囲気をもっているね。 私に思い人でもなければ、求愛したほどに」 そういって天女の羽衣のように淡くしゃぼん色に光る軽やかなシースルーのショールをそっと肩にかけた。 「外は寒い、これは私からの贈り物だ」 真珠は首を少しだけ竦ませて傾げててみせながらすこしだけ小首を傾げた。 「ありがとうございます。せっかくだから、しばらくお借りしましょう。でもあなたの差し上げる相手は サフィア様なのでは?」 びくっとして手を放してエマラウドから表情が消えた。 「そんなに私の態度はロコツかな?」 「いいえ、あなたのお心が常にサフィアさまで占められているのが見えるのです」 「読心術を使うのか?」 エマラウドの眉間に皺がより、警戒して後ずさる。 「あなたの身体から僅かですがオーラが発せられている。美しい緑色です。それが、サフィア様の深い青を 取り込もうとするのが私に微かに見えるだけ」 「取り込もうなんて思っていない……ただ見守っていたいと思っていたが」 |