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Now I'm here 2-8 |
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グレナの手を握りしめたまま、真珠はすっくと立上がった。 「とにかく沙羅に会いに行ってみるよ。さっきも言ったみたいにサフィアには冷たくしちゃだめだ。 だだをこねている子供だと思えばいいんだ。沙羅の事はまずは僕に任せて石榴は身体を回復させることだ。約束できる?」 「真珠って見た目に反して強引な奴だな」 「そんな僕でも瀧海は愛してくれる。だからこんな無茶もできるのだと思う。だから石榴、沙羅を信じてほしい」 グレナは小さく頷いた。 そこにエマラウドがにっこりと微笑みながら近付いてくる。 「話は終わったかな?真珠」 「えぇ、あなたのお蔭ですよ」 真珠とエマラウドが引き上げても結局サフィアは顔を出さなかった。 どうやってサフィアと話そうかと考えていたグレナだったが、それから暫くの間、サフィアは自分の寝室に戻らなかった。 サフィアはいったい何処で寝ているのだろう。 もしかしたらハーレム?に行って美しい女性達を抱いているのかもしれない。 そう思うとグレナの胸の奥がちくりと痛んだ。 一人でいると考えたくない事まで考えてしまう。 沙羅はあの娘を抱いたのだろうか?沙羅に限って……と思いたい、だがもしそうならば彼女は誰の子を妊娠してるのだろう? そしてなぜ、沙羅は彼女と結婚なんかすることにしたのか? 「私がいるのに……」 そうだ、沙羅はあの時「いいえ……、どうせいつか訪れる死なら貴方と二人だけで迎えたい……」 そういったはずだ。あの一言が頑だった石榴の心を溶かし、愛で満たすきっかけだったはずだった。 沙羅と一緒に死ぬ事ができるそう思ったから何も怖いものはなかったのに、沙羅の愛を失ってまで生き長らえているなんて。そう思うとグレナの瞳から後から後から熱いものが溢れ涙となって零れ落ちた。 沙羅の愛を知らなければこんなにも自分は脆くなっていなかっただろう……沙羅……。 自分が悪魔のような存在で皆に憎まれているのだと開き直っていた時は、沙羅を愛し信頼する事を知らなかった時は、どんなに他人に傷つけられても、こんなに苦しくはなかった。 沙羅の愛が自分を弱くしたのだ。 そして、グレナは真珠の言葉を思い出していた。「本当に好きなら奪い取るのみ」 そうだ……それこそ私らしいじゃないか。沙羅を他の女なんかに渡すつもりはない。沙羅を諦めてなるものか……どんな屈辱を味わっても生きて生きて生き抜いてやる。
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その頃、真珠とエマラウドは沙羅とぺリド姫の住む北の王国に向おうとしていた。 「いいのですか?一国の皇太子が私のような異国の若造と一緒に他人の恋愛事の為に 旅をしてくださるなど、普通では考えられないのでは?」 エマラウドはふっと寂しそうな笑みを浮かべて言った。 「決して貴女達のためにこの旅を共にするわけではない。私には私の思惑があってやっていることだ。 気に為さらぬように」 からかうような言い方に絡めてエマラウドの本音が感じられて真珠は笑おうとしたが笑えなかった。 エマラウドの恋心が軋むようにうなりをあげて真珠の心に張り付く。その気持ちに真珠は覚えがあった。 綺羅と瀧海が恋仲になったと誤解した時、たしかに今のエマラウドとそっくりの感情に支配された事があったのだ。あの時はどれほど苦しかった事か……。この世の終わりかと思うほどに絶望させられたのだ。 「サフィアはあなたの気持ちを有難く感じていると思う……」 真珠が思わずそう言葉をこぼすと、エマラウドの顔から余裕のある笑みが消えとたんに無表情になった。 「たとえ、それが事実でもあなたにそういわれる筋合いはないな。しかも有難いなんて思ってもらいたくなんかない……むしろ私の気持ちが迷惑だと言われた方がずっと救われる」 「ごめんなさい。若輩者の私がよけいな事を申し上げて……」 真珠が思わず肩を落とすと「いいんだ。あなたの気持ちが優しさから出ていると知っているよ。 私の方が大人気なかったな。さぁ、急ごう。姫が子供を産む前になんとか説得しなくては」 エマラウドはいつもの優しい笑顔に戻って真珠の頭を愛おしそうに撫でた。
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