Now I'm here 2-7

僕はここにいる 2

Now I'm here 2-7



 

 プライドだけがグレナのよりどころだったのにそれすら今はずたずただった。真珠の前で情けない自分をみせたくなんかないなどと思う心の余裕さえ今のグレナにはなかった。

 『最後に会った時、彼は私の顔を見ないでただ、「幾久しく……」とだけ言ったんだ。私には眼を逸らした癖に、あの娘にはあんなにも優しく微笑んでみせて……』

 そこまでいうと、苦しそうに唇を噛んで天を見上げた。涙をこぼれ落ちないように 必死に堪えてはいたが熱い思いが頬を伝って流れ落ちる。

 『こんな事で泣いてしまう私が情けないと思うだろう?真珠……だけど私はもう 生きていく気力がない……』

 真珠は優しく首を横に振った。解っているよと言うように優しく微笑みながら。

 『でも、あなたには沙羅との間にライラ達に養子にやった子がいるじゃありませんか?あなたはもうあなただけの身体では無い。一人では無いのです。沙羅とあなたの愛の証に会いに行きたいと思いませんか?』

 『あの子にはすでにライラとルーパスという後ろ楯がある。しかも私はさんざん、サフィアにこの身体を弄ばれているんだ。避妊もばれたし、子供が宿っているかもしれない。それに 沙羅とあの娘が二人で眠っていると思うだけで、狂ってしまった方が楽だと思える程、辛い……。 何も考えたくない……このまま儚くなってしまいたい……沙羅の傍にいられないのだとしたら、 あの時なぜ、私は星の藻屑となってしまわなかったのか?沙羅とあのまま死ねたらそれで本望だったのに』

 真珠はそのままグレナの髪を撫で、そっとその髪に頬を寄せた。グレナはやっと自分の思いをのせる場所をみつけたかのようにそのまま自らの身体を預けててゆく。本当にグレナにとっては久しぶりに緊張を解せた瞬間だった。自分がこれほどまでに緊張の連続を重ねてきたと言う自覚は少しも無かったし自分が真珠に対してこんな姿をさらけだせるとは思ってもみなかった。

 『辛かったですね。僕の胸で良かったら思う存分泣いて下さい。でも、僕は沙羅があなたを裏切ったとはとても思えないのです。きっと沙羅はあなたの身体を慮って身を引いたに違い無いのでは?』

  『もし、それが事実だとしたら、それはあまりに沙羅は残酷だ……私を少しでも哀れと思うならあの場でサフィアに殺された方が よかった……一度失った運命を……命をせめてあのまま美しく終わらせてくれた方が私にとってはずっと幸福だったのに……』

 そんな弱気な石榴を真珠はさらに優しく撫でながら、真珠も何時の間にか ぽろぽろと涙を流していたのだった。

 「僕もプライドが邪魔して素直になれない人間ですから、こんな事をいうのは烏滸がましいとは思うけれど、石榴は沙羅に会った時、気持ちをちゃんと確かめたんですか?お互いに相手によかれと思って石榴も身をひいたのではありませんか?」

 「そんなんじゃない」

 「そうですよ。相手を思って身を引くなんて乙女じゃないんだから…。本当に好きなら奪い取るのみ……でしょ?」

 「お前って……そういうタイプじゃないと思ってた……」

 「僕だって石榴が身を引くタイプだなんて思いもしませんでしたよ。実はさきほど、エマラウドと話して彼はなかなか話の分かる男だと解りました。それで僕に少しだけ考えがあるのです。僕に少しだけまかせてもらえませんか?勿論石榴にも大きな仕事がある。石榴はいざという時、すぐに逃げられるようにちゃんと食べて体力をつけておく事。そんなに儚くなっていちゃ、僕にだって押し倒されそうだ』

 真珠はからかうようにくすくすと笑った。石榴も思わずつられて微笑む。真珠は石榴が微笑む顔を初めてみたがまるで赤ん坊のように邪気のない笑顔だった。きっと沙羅はこの微笑みの虜になったに違い無い。

 「何処の国もそうなのでしょうがこの国の事情も複雑だ。サフィアは第2皇子として皇太子の力がないばかりにそれを一身に背負って押しつぶされそうになっている。そんな時、タイミング良く石榴に出会った。きっと石榴の存在が彼にとって今は唯一の癒しなのでしょう。 そう思ってサフィアには、少しだけ優しくしてやっていただけませんか?」

 「真珠……お前がそれをいうのか?」

 「石榴!もっと強くなるのです。いま、ここで特別な力がないからといって全てを諦めてはいけない。押してダメなら引いてみるのです。力には限りがあるが知恵は無限のはずだ。あなたがサフィアと少しでも関係を回復し、彼に優しくすることができれば、沙羅に対する風当たりも減るはずだ。沙羅がサフィアを恐れているとは思えないが、沙羅と石榴の顛末で相手の姫ぎみを巻き込むことはしたくない」

 「もし、その姫を本当に愛しているのだとしたら?」

 真珠は小さくため息をついた。自分の腕の中の石榴がこんなに小さく感じた事はなかったからだ。

 彼が今まで尊大な態度を取れたのも強い魔力に裏打ちされたものだったのだ。

 「何を気弱な事を……。もし、本気でそう思うなら、サフィアに愛されていくしかあなたの人生に選択肢はない。そして石榴…誤解しないで…私はあなたの白馬の皇子にはなりえない。あなたの今後の人生はあなたが掴み取るしかないのです。私にできるのは、その手助けだけ。愚痴を聞くだけなら私はこのまま『藍の大地』に帰りますよ」

 石榴は本当に泣きそうな顔になった。なんということか、もし真珠に瀧海がいなかったなら、自分が皇太子の身の上なら攫って帰りたくなるほどの愛おしい顔に真珠は苦笑する。沙羅だけでなく、サフィアが石榴にのめり込むのも真珠は解るような気がした。

 「石榴……サフィアだけを悪者に仕立ててはいけない。物事は複雑に絡み合いお互いに影響を与えている。沙羅を愛しているなら諦めない事だ。そしてその愛を少しでいいからサフィアにも分け与えて欲しい」

 「無理だ……」

 「もし沙羅を諦めたくないならできるはずだ。運命は自ら切り開くものです。沙羅はいまだあなたを愛してます。本当はあなたもそれを信じているのでしょう?」

 石榴は叱られた子供のようにぽよんと頼り無げに頷いてみせた。

 「私を信じて!そして沙羅もあなたの運命も信じるのです。あなたがここを出て沙羅と愛を取り戻せると!」

 「真珠……お前って大人しそうな顔して結構、男気があるやつなんだな」

 そんな事を言い出す石榴も可愛いなと真珠は思う。しかし今はそんな場合では無い。

 「そう、そういうところは私達似ているんじゃないかな。さぁ、元気を出して!」

 似てるんじゃないかな?などと言い放つ真珠にグレナも苦笑しつつ生きる為の息吹を吹き込まれた感覚だった。こうやって前向きだから皆が真珠を好きになるのだ……と少しだけ胸の奥が疼いていた。


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