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Now I'm here 2-6 |
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そんな自分の感情を押さえるようにサフィアは吐き捨てる。 「絶対に許さぬ」 そしてそのまま眉間に皺を寄せた。 「ちょっとこっちに来い、サフィア!」 エマラウドは無表情なままサフィアを部屋の端に引き寄せた。 「今のままなら、グレナはただのお人形だ。怒りや嫌悪は時に愛情に変わる事もあるが 無関心は決して愛情に結びつかんぞ」 「そんな事は充分に知ってる。分かっていてやっているのだ。私を放っておいてくれ」 「サフィア……放っておけないよ」 なぜだ?という風にサフィアはエマラウドを睨み付けた。 その腰をぐっと引き寄せるとエマラウドはサフィアに触れるか触れないかのキスをした。 「な、なにをする!」 思わずグレナが見ていないかと確認するように後ろを振り向いたサフィアにエマラウドは 寂しそうに微笑んだ。 「ほら、お前だって嫌だろう?好きでもない男とキスするのなんか」 「当たり前だ!……お、お前は男で、しかも親友じゃないか」 「……サフィア、お前は本当にグレナと殆ど会話した事がないのだな?」 「なぜ、論点をずらす。会話なんか必要無い。ただグレナが私に従順であればそれでいいのだ」 「嘘だな、それは。今のグレナは充分従順だろう?心がないのだからな。つまりグレナがお前と会話する程心を開いてないだけだ」 「うるさい、そんな説教なんぞ聞き飽きた、いまさらなぜ、お前からもそんな説教を受けねばならない」 「私のキスは気持ち悪いというのなら、いい事を教えてあげよう。身体の半分は女だがグレナの心は男だよ。それをお前は知っているか?」 「お、憶測でものをいうな」 「残念ながら憶測じゃない。実はつい先ほどまで双児星から来た真珠という子と色々話していたのだ。真珠も両性具有の王族なので良く知ってるらしいが、双児星でのグレナはとんでもない跳ねっ返りだったらしい。真珠の仲間を男として強姦したらしいし、そのうえ、聞いて驚くな。沙羅の男性自身を切り落としたのもグレナだそうだ。とんでもなく過激な男なんだよ」 サフィアがきょとんとして訳の解らないとおもいっきり顔に描いてあった。 「つまり、その真珠はグレナを仲間の仇を打つためにここまでやって来たというのか?それならサラとグレナが番いというのもガセだったんだな?」 エマラウドはやれやれというように小さくため息をついた。 「いいか、それほどの過去を乗り越えて彼等が夫婦になったという事がどれ程の意味を持つのか今のお前には解るまい。お前は確かに今まで辛かっただろう。不能の皇太子殿の身替わりに 種馬のように様々な女と交わらされたお前だ。大臣達や豪族たち、果ては他国の王族たちの 思惑の絡まないグレナに惹かれたのは解らない訳ではない。お前がはじめて気に行ってハーレムに連れ帰った子なのだから」 エマラウドがサフィアを覗き込むその瞳は慈愛に満ちていた。 「だが、それもグレナがお前を選んでいればこそだ。思い出してごらん、お前だって私にキスなんか無理にされて嫌だっただろう?」 「また、話を変な方に」 「幼い頃からお前だけが好きだった……サフィア」 「冗談だろ?、変な事いいだすな!」 サフィアは思わず後ずさった。 「冗談なんかじゃないさ。お前が女だったら間違いなく私の后に迎えていたよ。 だが、お前は男だった」 「冗談でも気色悪いぞ、私は間違いなく男だ」 「そう言うと思ったから今まで恐ろしくて決して言えなかった。だが今は言わせてもらう。 グレナも心は完全な男だったのだ。それをグレナは捨ててでもサラを選んだのだ」 「でも、グレナは子供も産んだって私に教えたのはお前じゃないか」 「そうだよ。グレナはその地位も性別もプライドも命さえ捨ててサラを選びサラの子を産んだのだ。まさに背水の陣で選んだ恋だ。お前にそこまでの覚悟があるのか?」 「……」 「私は、サフィアの為に男を捨ててもいいぐらいに惚れている。だが私の場合は残念ながらグレナみたいに男を捨てても女になれるわけがないがな」 「でも私も……グレナを愛してしまったんだ……」 「違う、そんなものは決して愛なんかじゃない。お前のは只の独占欲でしかない。そんなのは愛なんて呼ばない。ただの略奪だ。」 「頼む、エマラウド……私をこれ以上苦しめないでくれ。本当に苦しくて苦しくて仕方ないんだ」 サフィアは瞳をぎゅっと閉じてその場に座り込む。それをエマラウドは痛々しそうに見つめてそっと肩に手を置こうとしたが指先が動いただけだった。 「苦しいのはお前だけじゃない。サラもグレナも私も苦しんでいる。お前が私の愛を受け入れる可能性が ないのと同じ程にグレナがお前の愛を受け取る可能性はない」 サフィアは大きな瞳でアマラウドを見つめながらへなへなと倒れ込む。 長い長い付き合いで幼馴染みのエマラウドの気持ちは痛いほど胸に差し込んでくる。 エマラウドが自分を思ってくれる深く激しい想い。 それは、どんなに叶えてやりたいと思っても親友としては不可能なものだった。 それは同時に、どんなに自分がグレナに入れ込もうとも、サラと引き離そうとも 自分にグレナの関心がむく可能性は全く無いという事を現していた。 エマラウドはグレナにサフィアがのめり込まなければもしかしたら、一生その気持ちを 隠していたかもしれない。それをこの友情を壊す危険を犯してまで敢えて告白させてしまったのは自分の罪だ。 サフィアとてグレナの身体だけが欲しかったのではなかった。愛してしまえば、グレナの歓心を得られることが無上の喜びだった。もう、身体だけも心だけでは満足出来ない。 だからこそ辛かった。 このままではサフィアの独占欲が、サラもグレナもサフィアも三つ巴で地獄に落としていく。 エマラウドはそう思ったからこそ報われぬ愛をさらけだすように自分に告白したのだ。 好きだからこそ、身を引く。愛しているからこそ身を投げ出して……自分の恋心さえ差し出して サフィアを諌めようとするエマラウドにサフィアは自分の身勝手な恋を振り返り胸が締め付けられ涙が止まらなかった。
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「石榴!」 「真珠……」 二人は会ったと同時にきつく抱き合った。 サフィアが無意識にグレナを自分の方に戻そうとするのをエマラウドが腕を掴んで引き止めた。 サフィアの顎をとって自分の方に向かせるとゆっくりと首を横に振る。 サフィアはエマラウドの顔をもうまともに見られない。ずっと兄弟のように育ってきたのだ。 病弱な皇太子に周囲の関心が寄せられどこか置き去りにされ、ないがしろにされる中で、唯一 エマラウドだけが、本当に心を打ち解けられる相手だった。 サフィアとてエマラウドを強く愛していた。彼を失えば生きていられないほどに辛い。しかしそれは肉親の愛だ。 グレナの事は心配だったが今はあまりにエマラウドと同じ部屋にいるのが辛くて そのまま乱暴にエマラウドの腕を振り解くと逃げるように寝室を飛び出した。 そんなサフィアをエマラウドは寂しそうに見送っていた。 「よくここまで来られたな……ここではお前の力は使えないだろう?」 久しぶりに声を出すのでグレナはうまく声がでないようだった。 しかし、真珠の声がそのままダイレクトに石榴の頭に入ってくる。 『あなたの泣いている声が藍の大地まで届きました』 それを聞いてグレナは思わず胸がいっぱいになった。 沙羅以外の人間の事など考えた事もなかったが、真珠はその身の危険も顧みず ここまでやってきてくれたのだ。 『もう、生きている希望を失った。沙羅は他の女と結婚したのだ。しかもその娘は 妊娠している』 グレナは思わず真珠に愚痴っていた。こんな事は誰にも言わないつもりだったのに。
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