華厳を庇うように後ろに廻し、周囲を見回す。
姿を現したのはなんと佐津姫だった
「佐津姫.....」
それ以上真珠丸は声が出ない。
佐津姫の着衣は乱れ、半月の胸が覗いている。
佐津姫の真っ青な顔を見て何が起きたのかなどと聞く状況では無いのが解る。
まず、佐津姫の着衣を直してやり、佐津姫にも両手で掬った水を口に含ませる。
「自分で動けるか?」
佐津姫は黙って頷く。
男である自分ですら、瀧海に追い詰められた時の恐怖は口に出来ないほどのものだった。
いくら衛兵の訓練を受けているとはいえ、この状態の佐津姫に何か尋ねるのは憚られた。
安心したのか、佐津姫は気を失ったように眠った。
あの時、何の武器も身に付けていない状態で宮殿外に出たのは短絡的すぎたかもしれない。
今、華厳と佐津姫を抱えた状態で自分に何ができるだろう。
彼等に迷惑をかけない為にも、眠ったままの佐津姫を華厳に乗せて『藍の大地の真珠』に返した方がよい。
真珠丸はそう判断すると華厳にそっと口付けて
「『藍の大地の真珠』に佐津姫を乗せて帰っておくれ。僕は大丈夫だから」
そういうと不安そうにしている華厳を再び飛び立たせた。
真珠丸は自分の足でこのような道無き道など歩いた事もない。
降り掛かる枝を払いながら、なんとか前に進んだ。
先程、華厳のために破いた袖から冷気が吹き込んで真珠丸を苦しめた。
空腹と寒さ、そして疲れが真珠丸の身体から鋭気を奪ってゆく。
どのくらい歩いたのだろう。そろそろ休んだ方がいいのかもしれない。
朦朧となりかけた意識の中で、強い匂いにむせ返り意識が戻る。
瞬間、大きな腕に全身を掴まれた。
「あぅう...」 大きな手のひらで口を閉じられる。
その者は瀧海でも恐怖を感じた真珠丸にとって
化け物のようであった。
盛り上がる上腕筋、胸から腹にかけて生えた毛むくじゃらの体毛に息を飲む。
必死に腕を振り解こうとして抵抗するが、逆に力を加えられて真珠丸は呻いた。
「よせ、私の真珠が壊れる」
化け物のような者の後ろから瀧海が現れた。
「ひっ....」
「ひどいな。私に再会して喜んではくれないのかい?」
瀧海はさも、楽しそうに真珠丸の気持ちをいたぶる。
「瀧海....」
「瀧海さまと呼べ」
「雪野、いいのだ。おいおい私がしつけていく楽しみがある」
やはり雪野と呼ばれた化け物も人間なのか?締め付けていた腕が緩められて
真珠丸はその場に倒れかかった。
それを瀧海が無理に起こすと腕を縛り上げる。
「それに真珠丸は『藍の大地の真珠』の元、皇太子様だ。そのうえ白魔法の使い手だ。
少々乱暴だが腕は縛らせていただこう」
そういうとまるで軽い荷物でも持つように片手で真珠丸を肩にかけて運び出した。
真珠丸が連れていかれたそこは薄暗い洞くつの様であった。
しかし、住まいに改造されているようで、薄暗い他は涼やかな香りがして一面に敷き詰められた
毛皮に下にも又、枯れ草のような物が敷き詰めてあり、歩く度にかさかさと優しい音がした。
「知ってるか?真珠。ここは『暗黒の氷山』の入り口だ。名前くらいは聞いた事があるかな?
ここではお前の白魔法は使えない。皇太子であることも口にしてはならぬ。
ある意味無法地帯だからな」
「こんな事が許されるものか」 真珠丸は精一杯睨み付けたが、瀧海はそれすらも愛おしそうに
そっと真珠丸の髪を撫でようとした。
真珠丸が身を捩って避けようとすると今後は顎をつかんでまた強引に口付けた。
初めての時よりもっと激しいそれは、真珠丸を翻弄し欲望の渦の中に引き込んでいく。
「感じているのか?感じているのだな」
ささやくような瀧海の声を嫌悪しながら、真珠丸の下半身は欲望の行き先を求めて蠢いていた。
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